from: 樺澤貴子
せっかく桜の季節を迎えたのに、東京では花冷えが続いています。皆さまのお近くでは、今年の桜を愛でることはできましたでしょうか?さて、<きものBasicルール>のひとくぎりから半月が経ちました。嬉しいことに、「きもののお悩み相談」のお便りが何通か届きました。私たちの経験をお話しながら、これを機会に一緒に考えたいと思います。
今日ご紹介するのは、袖丈に関するご相談でした。
私の疑問は袖丈です。
猫も杓子も1尺3寸になっているというか、呉服屋さんでなんの確認もなく1尺3寸がまかり通っているのが疑問です。私の身長は150cmそこそこと小柄ですが、いろいろ考えて1尺4寸にしています。
私がなぜ1尺4寸にこだわるかというと、以前、頂き物の着物をしばらく来てから、洗い張りに出し、いざ仕立て直しというところになって、袖の縫い目が弱っていて、そこから切らざるを得ないといわれました。その分、袖丈が短くなって、どうがんばっても1尺2寸3分くらいだといわれました。紬であれば少々短くても良かったのですが、柔らか物でお気に入りだっただけに、私の「洗い張り」は無駄骨に終わってしまったのです。
それ以来、しばらくは1尺4寸で着てから洗い張りを繰り返すようになったら1尺3寸にしようと思っています。ちなみに、一番長いものはリサイクルで買った1尺4寸5分で、袖丈が長い分にはあまり気になりません。
3人の方は袖丈はなにかこだわりがありますか?
行きずりの着物愛好者より
私は身長が約157cmで、現在決めている袖丈は1尺3寸。以前も書かせていただいたのですが、この寸法に至るまで、私もかなり遠回りをしました。その原因のひとつは、誂える呉服店によって、寸法への考え方が違うということ。きものを着始めた頃はお稽古を含めた自分のきものライフや自分らしい着こなしというものが定まっていなかったため、勧められるままの袖丈にしていました。呉服店の女将さんの助言とは、たとえばこんなこと。
「しぼのぽってりとした縮緬のきものは、いずれ伸びてしまうから少し短めに1尺2寸8分にしましょう」
「紬は短めがきりりとした1尺2寸5分くらいが素敵よ」
「お茶のお稽古をするなら、正坐をした際に畳にしんなりと垂れる袖のドレープが優雅に見える1尺4寸くらいがおすすめ」
「未婚のうちは、少し長めの1尺4寸にしたらいいわ」
などなど・・・・・・
こうしたアドバイスに加えて、深く考えずに「何でもとりあえず試してみなければ!」という好奇心旺盛な我が性格が招いた結果が下記の写真です。

2月の寸法のお話〜その2で掲載した写真です。写真を撮ってみて、自分の考えなしの行動がいささか恥ずかしい限りです。
ベースとする寸法を持ちながらも、きものの雰囲気に合わせて袖丈をかえるというのは、とても理想的。でも、そこで困るのは長襦袢です。長襦袢が長い分にはよいのですが、短いと袂からぴょっこり飛び出てしまいます。知らぬが仏で、長襦袢が顔を出したまま、おすまし顔で歩いていた自分を思い出すと恥ずかしい限り。以前取材させていただいた方などは、きものを誂える際に必ず一緒に長襦袢と帯をひと揃えすると仰っていました。なんて贅沢な!と憧れましたが、普通はなかなか真似できませんよね。
ただ、私にもあえて意図的に袖丈を長く仕立てたという経験があります。それが、何度かブログに登場している黒縮緬地宝尽くしの訪問着です。このきものは、一目惚れして求めたのですが、黒地ということで粋に見えてしまうことを避けて、袖丈を1尺5寸に仕立てました。また、袖丈を長くした分、丸みも通常は5分丸みのところを、1寸丸みにして愛らしさをプラス。全身のバランスからすると小振袖とまではいかないまでも、かなりおっとりとした印象になり、絶妙な甘辛バランスを叶えることができました。当時の私にとっては思い切ったお買い物だったので、長襦袢を誂える余裕などなく、ご覧の通り袖の内側に長襦袢の袖を縫い付けて仕立てていただきました(笑)。


左:仕掛けを明かすとにべもないのですが・・・・・・。袖にだけ重みがかかるため、きものに負担がかかっているのでは?と感じます。この方法は皆さまにはあまりおすすめはしません。
右:オレンジのきものが5分丸み、黒のきものが1寸丸み。けっこう印象が変るのをご覧いただけますでしょうか。
右:オレンジのきものが5分丸み、黒のきものが1寸丸み。けっこう印象が変るのをご覧いただけますでしょうか。
また、別の取材対象の方で京都出身の和菓子店のお嬢様は、身長155cmで袖丈は1尺5寸でした。これはお母様のお考えで、「未婚のうちは1尺5寸、結婚したら1尺3寸5分に直します」とのこと。その方の身長を考えると1尺3寸5分も長いように思えますが、袖の振りに優雅さを求める京都らしい哲学だと感じ入りました。きものの装いについて考えるとき、「京都」と「江戸」はよく比較対対照となりますが、確かに今までお会いした方で江戸前な女性は袖丈・裄丈・着丈ともに「ちょっと短め」を美学とする方が多かったような気もします。
袖丈は単に身長から割り出すだけでなく、土地柄やどんなイメージできものを着たいかということによっても違う、というのが私の実感です。それらを、いろいろと検討して、今のところ私らしく装える袖丈寸法は1尺3寸という結果です。
3人の中で一番小柄な私ですが、植田さんや佐藤さんはいかがですか?