date: 2010年04月08日

subject: 袖丈に関するご質問〜その1

from: 樺澤貴子



せっかく桜の季節を迎えたのに、東京では花冷えが続いています。皆さまのお近くでは、今年の桜を愛でることはできましたでしょうか?さて、<きものBasicルール>のひとくぎりから半月が経ちました。嬉しいことに、「きもののお悩み相談」のお便りが何通か届きました。私たちの経験をお話しながら、これを機会に一緒に考えたいと思います。

今日ご紹介するのは、袖丈に関するご相談でした。


私の疑問は袖丈です。
猫も杓子も1尺3寸になっているというか、呉服屋さんでなんの確認もなく1尺3寸がまかり通っているのが疑問です。私の身長は150cmそこそこと小柄ですが、いろいろ考えて1尺4寸にしています。

私がなぜ1尺4寸にこだわるかというと、以前、頂き物の着物をしばらく来てから、洗い張りに出し、いざ仕立て直しというところになって、袖の縫い目が弱っていて、そこから切らざるを得ないといわれました。その分、袖丈が短くなって、どうがんばっても1尺2寸3分くらいだといわれました。紬であれば少々短くても良かったのですが、柔らか物でお気に入りだっただけに、私の「洗い張り」は無駄骨に終わってしまったのです。

それ以来、しばらくは1尺4寸で着てから洗い張りを繰り返すようになったら1尺3寸にしようと思っています。ちなみに、一番長いものはリサイクルで買った1尺4寸5分で、袖丈が長い分にはあまり気になりません。

3人の方は袖丈はなにかこだわりがありますか?

行きずりの着物愛好者より



私は身長が約157cmで、現在決めている袖丈は1尺3寸。以前も書かせていただいたのですが、この寸法に至るまで、私もかなり遠回りをしました。その原因のひとつは、誂える呉服店によって、寸法への考え方が違うということ。きものを着始めた頃はお稽古を含めた自分のきものライフや自分らしい着こなしというものが定まっていなかったため、勧められるままの袖丈にしていました。呉服店の女将さんの助言とは、たとえばこんなこと。

「しぼのぽってりとした縮緬のきものは、いずれ伸びてしまうから少し短めに1尺2寸8分にしましょう」
「紬は短めがきりりとした1尺2寸5分くらいが素敵よ」
「お茶のお稽古をするなら、正坐をした際に畳にしんなりと垂れる袖のドレープが優雅に見える1尺4寸くらいがおすすめ」
「未婚のうちは、少し長めの1尺4寸にしたらいいわ」
などなど・・・・・・

こうしたアドバイスに加えて、深く考えずに「何でもとりあえず試してみなければ!」という好奇心旺盛な我が性格が招いた結果が下記の写真です。

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2月の寸法のお話〜その2で掲載した写真です。写真を撮ってみて、自分の考えなしの行動がいささか恥ずかしい限りです。


ベースとする寸法を持ちながらも、きものの雰囲気に合わせて袖丈をかえるというのは、とても理想的。でも、そこで困るのは長襦袢です。長襦袢が長い分にはよいのですが、短いと袂からぴょっこり飛び出てしまいます。知らぬが仏で、長襦袢が顔を出したまま、おすまし顔で歩いていた自分を思い出すと恥ずかしい限り。以前取材させていただいた方などは、きものを誂える際に必ず一緒に長襦袢と帯をひと揃えすると仰っていました。なんて贅沢な!と憧れましたが、普通はなかなか真似できませんよね。

ただ、私にもあえて意図的に袖丈を長く仕立てたという経験があります。それが、何度かブログに登場している黒縮緬地宝尽くしの訪問着です。このきものは、一目惚れして求めたのですが、黒地ということで粋に見えてしまうことを避けて、袖丈を1尺5寸に仕立てました。また、袖丈を長くした分、丸みも通常は5分丸みのところを、1寸丸みにして愛らしさをプラス。全身のバランスからすると小振袖とまではいかないまでも、かなりおっとりとした印象になり、絶妙な甘辛バランスを叶えることができました。当時の私にとっては思い切ったお買い物だったので、長襦袢を誂える余裕などなく、ご覧の通り袖の内側に長襦袢の袖を縫い付けて仕立てていただきました(笑)。

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左:仕掛けを明かすとにべもないのですが・・・・・・。袖にだけ重みがかかるため、きものに負担がかかっているのでは?と感じます。この方法は皆さまにはあまりおすすめはしません。
右:オレンジのきものが5分丸み、黒のきものが1寸丸み。けっこう印象が変るのをご覧いただけますでしょうか。


また、別の取材対象の方で京都出身の和菓子店のお嬢様は、身長155cmで袖丈は1尺5寸でした。これはお母様のお考えで、「未婚のうちは1尺5寸、結婚したら1尺3寸5分に直します」とのこと。その方の身長を考えると1尺3寸5分も長いように思えますが、袖の振りに優雅さを求める京都らしい哲学だと感じ入りました。きものの装いについて考えるとき、「京都」と「江戸」はよく比較対対照となりますが、確かに今までお会いした方で江戸前な女性は袖丈・裄丈・着丈ともに「ちょっと短め」を美学とする方が多かったような気もします。

袖丈は単に身長から割り出すだけでなく、土地柄やどんなイメージできものを着たいかということによっても違う、というのが私の実感です。それらを、いろいろと検討して、今のところ私らしく装える袖丈寸法は1尺3寸という結果です。

3人の中で一番小柄な私ですが、植田さんや佐藤さんはいかがですか?



date: 2010年04月10日

subject: 袖丈に関するご質問〜その2

from: 植田伊津子



わたくしの袖丈は、1尺3寸2分((50.1cm)という不思議な寸法にしています。
もとはお下がりの伯母のきものがそうだったため、伯母のサイズに合わせてきものをつくりはじめ、それをそのまま踏襲しているのです。

わたくしが自分のお金できものをつくりはじめたときは、すでに一児の母となっていましたから、伯母が決めた寸法を変更せずに今に至っています。
一般的に未婚女性は長め、歳をとるとともに袖丈は短めになります。そして晴れ着系は長め、普段着系は短めにするという傾向があります。

質問者さんの年齢を存じ上げませんが、有名なバイプレーヤーのひとりに沢村貞子さんという女優さんがいて、この方は生涯きものを着ていたといいます。
沢村さんのマネージャーを務めた山崎洋子さんのエッセイ『沢村貞子という人』(新潮文庫刊)では、沢村さんが歳とともにどんどん袖を短くされた旨が記されています。「歳をとると袖が重くなるのよ」と短くした分は縫い込まず、いさぎよく切っていたとか。

ところで、わたくしの身長は163cm。
今は袖丈に関していろんなお好みがありますけれど、身長×0.3ぐらいがバランスがよいとされ、これが袖丈の標準サイズとして定着しています。
163cm×0.3=48.9≒49cmとすると、わたくしの寸法(50.1cm)はそれより1cm長いくらいですから、さほど長くも短くもありません。おそらく仕立て上がりのきものは、現代女性の平均身長を163cmと設定しているため、袖丈を1尺3寸に据えているものと思われます。

既製品のきものがほとんど1尺3寸で流通しているので、呉服屋さんで新規にきものを誂える場合も、この寸法が独り歩きしているのかもしれませんね。

さて、一般的な袖丈について申し上げれば、大阪と中心とする上方は、「着倒れ」の京都の影響を大きく受けた文化圏ですから、未婚女性は袂を長めにする方が多いようです。これは発注元であるお母さま、お祖母さまたちのこだわりかもしれません。
(年若のお嬢さん自身が袖丈にこだわるケースはほとんど皆無です)

なぜかといえば、「袂」の面積が大きければ、動きがよりいっそうたおやかに見えるからでしょう。訪問着や付下げはもちろんですが、習い事のお稽古着でも長めの袖丈にするケースを目にします。

もともときものの原型である小袖は身八つ口やおはしょりがなく、脇は縫いつけてあり、袖自体も短いタイプでした。
しかし、江戸時代中期〜後期にかけて、徐々に長めの袂が流行っていったのですね。おそらく身分制度が定着し、堂上や公家、大名たちといった上級階級の女性たちをうつくしく、そしてかわいらしく見せる形態として好まれていったためともいえます。良家の子女たちは、働くためのきものを着る必要はありませんでしたので、装飾的な要素が発展したのでしょう。これが振り袖の原型ですね。

また帯が幅広になり、胸高に締められるようになったことも、身八つ口ができたり、振りが独立する要因として挙げられます。対丈で帯を下目に締めていた頃なら、長い袂は邪魔になりますよね。

そして、明治以降は振り袖が未婚女性の晴れ着として定着していきました。そして今でも振り袖は、まわりに『独身』だと知らせるアイコンです。
いや、もちろんいろんな方がいらして、既婚でも舞台衣装やお好みで着用になる方もおられますよ。けれど一般論として、振り袖は若い未婚の女性のものといっても異論はないでしょう。

なんだか話がどんどん横道に逸れてしまって、ごめんなさい(^_^;)。
話を元に戻しますね。さて、わたくし自身は、あんまり袖丈にこだわりを持っていないのは前述したとおり。

ただ皆さんのいろんな袖丈を拝見してきて、個人的な印象をいえば、いかり肩だったり、体の厚みがある方は裄が長めになる傾向ですから、こういう方があまりに長い振りにすると「バッサバッサ」と袖を揺らして、かえってたおやかな風には見えにくいように感じています。織物のきものは、とくにそうかもしれません。
撫で肩の方でしたら裄がさほど長くなりませんから、長めでもそれなりにバランスよく見えるんですけれどね。

全体に対する袂のバランスは、身長に対するそれもありますけれど、じつは肩のかたちや体型にも微妙に関係するのではないかと思っています。はい。

date: 2010年04月12日

subject: 袖丈に関するご質問〜その3

from: 佐藤文絵



今日はいちにち雨降りの京都です。この雨でソメイヨシノはすっかり散ってしまいそう。少々うらめしい思いで大きな雨粒を眺めています。

さて袖丈について、質問者の方が「猫も杓子も1尺3寸になっているというか、呉服屋さんでなんの確認もなく1尺3寸がまかり通っているのが疑問です」とおっしゃっていましたが、私もまったく同感です。
寸法の話のときも書きましたけど(2010/2/32010/2/18の記事参照)、最初に自分で誂えた一枚を何の考えもなしに1尺3寸にしてしまったことを、のちに後悔することになりました。お二人がご指摘のとおり、身長、肩のかたち、体型にあわせて、あるいは好み、どんなイメージできものを着たいかによって調節すべきところだと思います。

ところで、植田さんが「今は袖丈に関していろんなお好みがありますけれど、身長×0.3ぐらいがバランスがよいとされ、これが袖丈の標準サイズとして定着しています」と書かれていました。私は1/3が標準だと思っていましたので、植田さんも筆の誤り?なんて思ってしまったのですけど(スミマセン)、手元の本を確認すると袖丈の標準は身長×0.3〜0.33と書かれていました。京都発行の和裁の本にはきっぱりと身長×1/3との記述だったので、このあたりも地域差ということかもしれませんね。

樺澤さんが例にあげてくださった、身長155cmの方が「未婚のうちは1尺5寸、結婚したら1尺3寸5分に直します」というのは、身長の1/3を標準とする考えからすると自然です。つまり155cm÷3=51.7cm≒1尺3寸6分、という計算。

だけど1尺3寸が当たり前の感覚だと、長めの印象になりますね。かくいう私もきものに興味を持つ前に高島屋(ちなみに横浜高島屋です)で誂えた付け下げ訪問着の袖丈は1尺4寸7分でした。なぜ1尺4寸5分ではなく1尺4寸7分なんだろう?と不思議に思ったのですが、これがちょうど身長の1/3なんですね。普段の紬は1尺3寸5分にしていますので、このきもはたった一寸強の違いなのに袖がだいぶ長く感じられて、ちょっぴりエレガントな気持ちになります。

袖巾と袖丈の比率もわりと大事な気がします。というのは、袖丈短め(1尺3寸)の自分の袖をみたときに、「なんだか正方形にちかくて、袖っぽくないカタチだなあ」と感じたことがあります。

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柔らかものなら、袖らしく感じる比率の1尺4寸5分に。普段っぽい紬には1尺3寸5分、というのが今の私の結論です。残念ながら撫で肩でない私は、普段の紬を1尺4寸5分にすると、まさに「バッサバッサ」になってしまうかも!

date: 2010年05月13日

subject: 裾がめくれる問題

from: 佐藤文絵



こんばんは。ものすごーく間があいてしまいごめんなさい。植田さん、樺澤さん、みなさまいかがお過ごしでしょう。
ここ数日また寒さがやってきていますが(農作物が心配です)、気候のよいこの季節は催しも多いし、いろんなところへ出掛けたくなります。はーい。私はあちこちせっせと出歩いております。

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先週は仙洞御所と修学院離宮に。橋の上の藤棚がほぼ満開。しとやかに咲いていました。修学院離宮を訪ねた朝は生憎の、いえ折良くも雨。1時間半の参観を終えると、緑したたる深い森を長時間歩いた気分でした。


さて、お茶に色半襟はありやなしや、のお話。
私の感覚はほぼ樺澤さんと同じで、自分自身は白ないしほぼ白のごく淡い色までと思っています。「お稽古での装いは、基本的には教えてくださる先生に準ずる」というのも同じように思います。
ただし絶対的に色半襟がダメ、とは思わないです。清潔感があって、その人らしさ、その人にとってのお茶らしさが出ている着こなしなら、アリではないでしょうか。


こんなご質問もいただきました。

袷のとき後ろの裾のふきの部分がめくれて見える状態になることが気になっています。いつもではないのですが、後姿が気になって振り返ってチェックすることがしばしばあり、自信を持って歩きたいと願っています。どうぞ知恵をお貸しください。


うんうん。まったく同感。
裾がめくれるのは、いつもというわけではなく、私の場合は特定のきものだけがめくれます。具体的にいうと、まずは真綿紬の袷のきもの。ふと振り返って足元をみると、よくめくれてます。御召も多少めくれます。どういうのがめくれやすいのか、その共通性に確信が持てないのですが、いずれにしても柔らかものはめくれたことがありません。うーん。なんなんでしょ。
余談だけど、もとは洋服デザイナーで着物のデザインも手がけるある方は、どうせめくれるのならと、ちょうど裾がめくれる場所(八掛)に、柄をつけておいででした。ぺろんとめくれたらそこに柄がみえるのです。面白いですよね。

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ある日の後姿。右側が私です。これも真綿紬だけど、裾のめくれは気になったことのない一枚。不思議です。しかしこうしてみると、私は隣の友人に比べてだいぶ大また歩き。とほほ。


ご質問にたいして、植田さんがこんなアドバイスを寄せてくださいました。

植田さん wrote:
後ろの裾がめくれ上がる件ですが、わたくしの経験では裾すぼまりの程度が激しいと、めくれ上がる傾向にあるようです。
きものは裾すぼまりに着付けるのがうつくしい姿。ただし歩幅分+アルファのゆとりがないと、歩くときのゆとりがありませんから、きものはゆとりを出そうとして裾の周囲を広げようとするのです。めくり上がったら、周囲は若干広がりますよね。裾がめくり上がるのはそのせいではないかと思います。
落ち感のあるやわらかものでしたら、そうなったとしても生地の重みと生地のすべりがよいせいでストンと直ってくれますけれど、ハリがある紬などはすべりが悪いですからめくり上がったままとなります。

対処法としては、今よりも少しだけ裾すぼまりの角度をやわらげるとよいと思います。それでもめくれ上がるようでしたら、裾すぼまりの角度をゆるめた上で、少しだけ着丈を短めに着付けてみてください。
これでたぶんお悩みは解消するような気がいたします。


樺澤さんも同じく〈裾つぼまり着付け〉、そして〈歩き方〉も肝心、とのこと。

樺澤さん wrote:
「きものの筒のなかに足の歩幅を納めればよい!」といわれた記憶があります。足だけを前に出すのでなく、骨盤から進むようにして、歩幅をできるだけ筒のなかにおさめるように工夫して歩いてみたら大丈夫でした。


めくれる=きもののせいにしていた私は反省しきり。着付けと歩き方、めくれが気になったときには気をつけたいを思います。


ところで、私は足袋についてひとつ悩みをもっています。
足袋の傷む場所は、そのひとの足のかたちによって異なると思いますが、私の場合はなんといっても親指の爪の先。お茶の稽古で立ったり座ったり(正座)を繰り返すことがダメージを与えるんですよね。
お茶を始めるまでは、足袋はほとんど傷まなかったのですが、しいていえば鼻緒の当たる部分が擦り切れたことがありました。ただそれはかなり長く履いての話。しかし今では茶会のお手伝いなど一日しただけですぐにほころび始めるのです。親指の爪はしっかり切るようにしているのだけど……。

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局地的に傷んでしまうのがかなしい。これで捨てたらもったいないオバケが出そうです。


そんな話になったとき、稽古場の先輩から「親指を畳に擦らないように心がければだいぶ違うのでは」との助言を得ました。親指を擦らぬよう、ただいま実践中です。でも親指を擦らないようにすると、動作が大きく、かつ「カクカク」とした感じになってしまって、まだ上手にできません。

植田さん、樺澤さんは何か気をつけておられる点などありますか?
また、足袋の繕いはどんなふうされているのでしょう。植田さんは上手に繕ってらっしゃるご様子(以前ブログ「一より習ひ」に紹介されていたのを拝読しました)。
やはり裏に当て布をしてチクチク補強するのかな。すでに穴があいてしまったものなら、袷になっている間に生地を入れこんでやってみてもいいかもしれませんよね?
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