from: 佐藤文絵
昨年の3月にはじめた「きもの*BASICルール」は、もうすぐ1年になろうとしています。最初に設けた12のテーマのラスト、今月のテーマは〈着付けと仕立て〉です。語るべきことが多いですね。そしておそらく文章にするのが一番難しい。いやはや、うまくいくでしょうか。
まずは仕立ての元になる「寸法」のことから、話をはじめたいと思います。
わたしの場合は、きものを好きになって最初に手にした一枚はアンティークのお店で買ったきものでした。なぜなら手元にも実家にも自分が着られるサイズでかつ普段に着られるきものがなかったから。後から思えば、そのきものは自分の寸法に合ったものではなく、全体的に小さいけど「まあ着られる」サイズのものでした。でもそのきものに合わせて長襦袢をつくってしまったんですね。
それからしばらくして、縁あって沖縄旅行中に反物を買い求め、仕立てをどこかにお願いしないといけなくなりました。特に当てもなくどうしようかなあと考えた末、ときどき立ち寄っていた呉服店へお願いすることに。この時もあまりよく考えずに、その小さめの長襦袢をお渡しして、それに合わせて仕立ててもらいました。夏は夏ものでやはりアンティークのきものを買い、それに合わせて長襦袢を一枚お誂え。ああ、迷走してます(笑)。
とりあえずで用意したきものに合わせて、きものを作っていくのはまずい。ちゃんと自分のサイズを測ってもらわなくちゃ。……とようやく気づいたのは、きもの熱を発症して1年ちかく後のこと。それで評判の仕立て屋さん、一衣舎の木村さんのところへ反物を抱えて相談に行き、初めて自分の身体にちゃんと合った寸法を出してもらいました。もちろん仕立てもお願いしました。身体に合ったきものはとても着心地がよく、着付けがヘタでもそれなりになるようでした。ああよかった。これで大丈夫。ほっと胸をなでおろしました。
だけど、これで終わりではないんですよね。なぜなら、その時わたしはどこで腰紐を結ぶのが気持ちいいのか、どんなシチュエーションできものを着たいのかなど、きものとの付き合い方がまだ定まっていなかったのです。
一衣舎・木村さんの著書『きものの仕立て方・頼み方』(世界文化社刊)
1) 正しい位置で正しく採寸する
2) 仕立てを頼む人に普段のきもの姿を見せる
3) 自分のライフスタイルを伝える
4) 衣紋の抜き方、帯の位置など着方の好みを伝える
5) 腰紐の位置を伝える
この5つは本当に大切なポイント。
たとえば腰紐の位置。そのときホントはよくわからなかったのですが、腰骨のあたりで結びます、と伝えました。理由はそれまで着ていたきものの身丈が短かかったから腰骨で結ぶことに慣れていたこと、それと何となく腰骨で結ぶほうがツウっぽい気がして(笑)。
でも今ではウエストで結ぶ派です。理由は着崩れがしにくいこと、腰紐の結び目が帯より下に出てゴロゴロするのを避けたいから、きものを着たあとに長襦袢の衿先を引っ張りやすいこと(腰骨で結ぶと届きにくい)の3つ。だから身丈はその後長くしました。それ以外もいくつか気になるところに修正を加えて、今に至っています。
しみじみ思うのは“寸法は一日にしてならず”ということ。どんなふうに着たいのか、どんな場面で着たいのか、そのあたりが定まるにしたがって、いい寸法がみえてくるように思うのです。それに、年齢や体型の変化、きものを着るシチュエーションの変化に合わせて、今後もまた変わっていくのかもしれません。
個人的な話を長々としてしまいましたが、いただいたきもの、母や祖母が着ていたきものからスタートすると、同じパターンになりがちな気がします。読んでくださっている皆さんはいかがでしょうか。
もちろん着付けが上達すると、ぴったり寸法でなくても着付けでカバーすることができますよね。それはそれできものの魅力。でもせっかく反物から仕立てるのならば、きれいな着姿になる、気持ちのよい寸法で仕立てたいなあと思います。
ただ、悩ましきは、相談できる窓口がすくないこと。信頼できる呉服店一軒とお付き合いし、寸法はそこに全て把握してもらっている――そんなきものライフを送れたらいいのですが、なかなかそうもいきません。きものを誂える店はひとつではない、いただきものやリサイクルきものを仕立て直すこともある、時にはオンラインショップで反物を買うこともある。そういった浮気性のきもの好きは、寸法を相談し仕立てをお願いできる相手が必要です。一衣舎さんのような窓口が全国に増えることを切に願っています。かくいう私も、そうそう東京まで相談に伺えないものだから、身近におられる仕立て屋さんをつかまえては、相談させてもらっています。
それと、自分自身もある程度は寸法について知っておいたほうがいいですね。仕立て屋さんに相談するにも、そのほうがずっとスムーズにいきます。着やすいきものと着にくいきものがあったら、どんなふうに寸法が違うのか、測ってみれば「なるほど」と思えることがいくつも見つかると思います。


呉服店や仕立て屋さんは、きっとこんな表を参照しながら、寸法を出してくれています。身丈を出すには、身長を基準に。身幅を出すには、ヒップを基準にして。その上で、お茶をするならプラス何分とか微調整をするはずです。ただし店によっては「身長○○センチ、標準体型」くらいの情報で寸法を出してしまうこともあるようです。これはちょっと乱暴ですね。
上記の写真は『和服寸法百科』(ふたば書房刊)の本とその付録の表です。呉服関係の方からお借りしてきました。一冊まるごと寸法について書かれたプロフェッショナル向けの本ですが、わたしたち素人にも参考になります。残念ながらすでに絶版になっているのですが...。
上記の写真は『和服寸法百科』(ふたば書房刊)の本とその付録の表です。呉服関係の方からお借りしてきました。一冊まるごと寸法について書かれたプロフェッショナル向けの本ですが、わたしたち素人にも参考になります。残念ながらすでに絶版になっているのですが...。

寸法を測るときは、なんといっても竹差しがベスト。鯨尺メジャーも持っていますが、使い勝手は竹差しにかないません。2尺の竹差しを愛用してます。
さて、わたしが一衣舎さんに出してもらい、その後いくつか調整して至った寸法はこんな感じです。
寸法表 | ||
身丈(肩から) | 4尺 5寸 5分 | ( 172.4 cm) |
裄丈 | 1尺 8寸 5分 | ( 70.1 cm) |
肩巾 | 9寸 2分 | ( 34.8 cm) |
袖巾 | 9寸 3分 | ( 35.2 cm) |
袖丈 | 1尺 3寸 5分 | ( 51.1 cm) |
袖丸み | 1寸 0分 | ( 3.8 cm) |
袖口 | 6寸 0分 | ( 22.7 cm) |
袖付(前) | 6寸 5分 | ( 24.6 cm) |
袖付(後) | 6寸 0分 | ( 22.7 cm) |
前巾(腰) | 6寸 7分 | ( 25.4 cm) |
前巾(裾) | 6寸 5分 | ( 24.6 cm) |
後巾(腰) | 7寸 6分 | ( 28.8 cm) |
後巾(裾) | 7寸 3分 | ( 27.7 cm) |
抱巾 | 6寸 2分 | ( 23.5 cm) |
合褄巾 | 4寸 0分 | ( 15.2 cm) |
衽巾 | 4寸 0分 | ( 15.2 cm) |
褄下 | 2尺 2寸 5分 | ( 85.2 cm) |
繰越 | 7分 | ( 2.7 cm) |
衿付込み | 7分 | ( 2.7 cm) |
衿肩あき | 2寸 5分 | ( 9.5 cm) |
衽下り | 5寸 5分 | ( 20.8 cm) |
共衿丈 | 1尺 3寸 0分 | ( 49.2 cm) |
身八つ口 | 4寸 0分 | ( 15.2 cm) |
ついでに図にもしてみました。文字だけだと、頭がごちゃごちゃになってくるのです(笑)。赤字の三桁を、○尺○寸○分と読んでください。


ところでこの図は、普段目にする“きものの図”と少し違うことに気づかれたでしょうか。

きものって、すべて直線で直角に縫われているイメージを持ってしまうのですが、じつはバストからウエストにかけて細くなっていたり、裾つぼまりになるよう裾にかけて細く仕立てている場合があります。日本人の体型の変化に伴って、より洋服的なシルエットに近づいているんですね。
ちなみにこの図は私の寸法をそのまま縮小したもの。みなさんのきものはどんなカタチをしているでしょうか。
さて、どうしてこの寸法になったのか、ここはこのあたりを気をつけたほうがいい・・・などの細かい話に移りたいところなのですが、だいぶ長くなってきました。いったん休憩。ふ〜(笑)。続きはまた日を改めて。