date: 2009年07月02日

subject: きもの好きになったきっかけは浴衣

from: 植田伊津子



今か今かと指折り数えた日々……やっと7月です。6月の後半に単衣を着るのはもはや苦痛で、薄物突入の7月が待ち遠しくて仕方がありませんでした。これでようやく気兼ねなく夏物が着られます。今日は少々寒いぐらいですけれど。

今月のテーマは「夏のきものと浴衣」。まずは、浴衣のお話からはじめたいと思います。
さて、きものの世界では、フォーマルな黒留袖や訪問着の需要が減っているのにくらべて、唯一、浴衣だけがフォーマル化しているという不思議な現象がここ近年の傾向ですね。昔の浴衣はお風呂上がりにくつろぐものであったり、お祭りに着るカジュアルなものでした。もちろんそういうラインが廃れているわけではないのですが、20〜60代の女性の間では、浴衣の下に半衿をつけた長襦袢を合わせ、「きもの風に着こなす」「おしゃれ着として着る」というスタイルが、市民権を得てきました。

ひとつは『七緒』(プレジデント社)の影響が大きいと思います。
「きものを着てみたいな」、でも「ふつうのきものはお金もかかりそうだし、手が出せないな」と思っていた人たちに、もっともカジュアルな素材で新しいおしゃれを提案してくれました。
私も『七緒』がはじめて手がけた浴衣特集を書店で見かけたとき、「かわいいなあ」「さりげない感じの『きもの』のおしゃれだなー」と速攻で雑誌を買って帰ったのを思い出します。
お祭り浴衣ではなく、浴衣を浴衣以上のものとしてコーディネートした頁は、きものを着たいと潜在的に思っていたある層の背中をポンと押してくれましたね。

ところで、私もはじめて自分のお金で買ったきものが浴衣でした。今から15、6年ほど前になるでしょうか。沼袋のシルクラブで催されていた「なつかしい江戸のゆかた」展で見かけた長板中形(ながいたちゅうがた)に一目惚れをしたのです。
長板中形とは江戸時代から伝わる日本の伝統染色工芸のひとつ。長板は染めに使う約6メートルほどの板を指し、中形は小紋や大柄というように文様の大きさを示す言葉です。

江戸小紋の小宮康隆さんが大切に所蔵していた型紙を使って復元したのが、この浴衣でした。その頃の私は親がこしらえてくれたきものをときどき着るぐらいでしたが、この浴衣は20代の私でも目を見張るような見事な柄でしたし、なにより若い私にとって、少し無理すれば手が届く値段だったのにも気持ちが動きました(反物代で2万9000円ぐらい)。その頃はもちろんのこと「長板中形」という言葉さえ知りません。

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シルクラブの今は亡きご主人の西村重博さんが「植田さんにはこの柄が絶対似合う」とプッシュしてくれたのが鯉の柄。20代には少々大人っぽい柄だったと思います。でも、今でも私が持っている浴衣の中で一番好き。ご主人に感謝しています。私はベビーピンクの帯などを合わせて少し甘めに。



当時の私は着付けがまったくできませんでした。でも、きものを着てみたいという気持ちはあったのでしょう。浴衣ならば着付けもかんたんそうだから……と衝動買いした体験からも、やはり浴衣は、きもの世界に入るきっかけになってくれるような気がします。

たぶんこの「きものBASICルール」をお読みの皆さんは、まったくきものを着たことがないという方ではなく、きもの世界の入口近くにいる方から中級者が中心のように思います。もしかしたら、すでに数枚、浴衣をお持ちの人が大半かもしれません。
次回から「ワンランク上の浴衣術」、そして「夏のきもの」についてものちのち詳しくお話ししていきたいと思います。

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2007年なごみ別冊6月号『京都で、きもの』(淡交社刊)。当時、私が編集に関わっていた雑誌なのですが、「きものBASICルール」の相棒となったおふたりが、八面六臂の活躍をしてくれた思い出の号です。この号は、佐藤さんと樺澤さんのどちらともが、お顔を出してゆかたの楽しい世界を紹介しています。今でも買えるようですので、よかったらご覧になってください。



date: 2009年07月05日

subject: 袖口から薫るゆかたのお洒落

from: 樺澤貴子



植田さんの長板中形のゆかた、雰囲気にとてもお似合いだと思いました。お見立てしたシルクラブの西村さん、そして大人達の言葉を信じて20代でこのゆかたを求めた植田さんもアッパレ。

負けじと、私も自前のゆかたを自慢しようと、桐の衣裳箱を探すと・・・・・・アレ?! どこを探しても見当たらない。数十分を経た頃に、ようやく思い出した。そうだ、悉皆屋さんに預けたままだった・・・・・・(涙)私が利用している悉皆屋さんは、季節の変わり目に洗いが必要なものをごっそりと持っていってくれ、次の出番まで預かっておいてくださるのです。先日単衣と薄物を届けていただいた時には、ゆかたの存在まで気付かず、今日に至りました。

そんな私ですが、ゆかたには一家言あり(失態をお伝えしたあとで、説得力がありませんが)。なにせ、小唄の稽古のゆかた浚いの会のために、毎年誂えているんですもの。稽古6年。その前から持っていたものも含めると、10数枚を数えます。春を迎えるころになると、7月のゆかた浚いに向けての曲が決まり、それに合わせてゆかたを誂えるのが毎年の楽しみ。私は主に東京好みのゆかたの代表格である竺仙と銀座の伊勢由で誂えています。

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左:伊勢由のオリジナルゆかた。昨年袖を通さなかったため、かろうじて箪笥に居残っていました。竺仙のゆかたを粋とするなら、伊勢由のゆかたは愛らしいお嬢さん風の柄が多く揃います。紺地はアロハ柄のようにも見えますね、ワンピース感覚で着られる一枚。鈴の柄はさすがに可愛くなりすぎて、友人に貸し出す用に。
右:竺仙の綿コーマよりも細い糸を使っているとのこと。そのため生地も若干薄く、より涼やか&軽に装えます。


なぜ、わざわざ毎年ゆかたを誂えるのか・・・・・・と、お思いになる方もいらっしゃるでしょう。小唄会で義務づけられているわけではないんですよ。その理由は、きものを着始めたばかりの頃に、幾人かの先輩方に「ゆかたは、おろしたてを着るもの」と言われたことにあります。「そんな贅沢な〜」と内心思いましたが、その言葉をすぐに実感することとなりました。

おろしたてのゆかたと、一度でもクリーニングに出したゆかたとでは、素肌に触れるハリというか、ゆかた特有のシャッキリ感が格段に違うのです。ならば、クリーニングで糊を多めにしてもらおうと試みましたが、奴さん状態になった上にバリバリとした感触が肌に痛くて着心地は最悪でした。ところで、おふたりはゆかたの洗いはどうされていますか?自前ですか、クリーニングですか?糊の有無はどうされていますか?私は奴さん事件依頼は、糊なしでクリーニングに出しています。ちなみに、我が小唄の師匠はじめ比較的年配の方にお尋ねすると糊なし派が圧倒的でした。

さて、手元にゆかたがないとはいえ、ここで話を終えるのは恐縮なので、私がゆかたを着る際に愛用している半襦袢をご紹介させていただきます。それが伊勢由のオリジナル半襦袢です。

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左:衿の部分が広めになっているのがわかりますか? 肌襦袢でありながら、直接半衿をつけて着ることもできる半襦袢の役割も果たします。Mサイズ1万4,700円〜。右:紅梅のように畦状に織られた綿麻地。肌にはりつかないため、快適な着心地です。


ポイントは何と言っても袖口の華やかなレース。きものでも、袖口からのぞく長襦袢の色味は重要なお洒落の鍵となりますよね。それと一緒。長襦袢のように袖口に添うものではありませんが、乾杯の時だったり、ふと手をあげた仕草で繊細なレースがチラ見えするのです。また、紺地の綿絽の下に着ると、ゆかたの袖のシルエットから薄っすらとレースが透けて見え、優雅な表情を醸しだしてくれます。

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左:こんな風ににチラ見えします。右:画面上が伊勢由の半襦袢。画面下の一般的な肌襦袢と比べるとレースの表情の違いが一目瞭然。袖の幅も少し広めなので袖のシルエットからうっすらと透けた場合にも、「いかにも肌着」という感じがなく、たおやかな印象となります。


さて、出張しているゆかたは、2〜3日内に持ってきていただく約束をとりつけたので、具体的な素材やコーディネートのお話は次回に。

date: 2009年07月07日

subject: 夏の肌着・自由自在

from: 佐藤文絵



七月ですね。もう夏です。梅雨が明けるまで夏気分にならないものだけど、おふたりの浴衣を見せてもらって気持ちが盛り上がってきました。数日前は祇園で浴衣姿の舞妓さんともすれ違いましたよ。白の浴衣に博多の紗献上、和日傘をさして。もうこんな季節なんだなあと嬉しくなります。その浴衣、梅の文様だったのですけどね(笑)。

樺澤さんは毎年浴衣を誂えているのですね。すごいですー。樺澤さんの浴衣話が待たれます。私といえば、植田さんが紹介してくださった一昨年の『京都で、きもの』(淡交社刊)以降、残念ながらほとんど進化なし...。浴衣のワードローブは白地、紺地が1枚ずつ、それに有松鳴海絞りが2枚。それでも浴衣は着る場面と時期が限られるから、昨年は袖を通さなかったものもあるくらいでした。一方“寝巻き”の浴衣も同じだけあり、こちらは逆に暑い真夏を避けて、ときどき湯上りの浴衣ライフです。

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左=植田さん・樺澤さんと出会うきっかけになったのは『京都で、きもの』の浴衣特集でした。右=寝巻き浴衣コレクション。一番左のクルマ柄がお気に入りです。ユーモアのある柄は浴衣だからこそ。樺澤さんの鈴柄も可愛らしいですね。


さて、半襦袢の話題がでました。今日は夏の肌着についてお話したいと思います。夏の肌着はバリエーションもいろいろあるし、少しでも快適に過ごすために、誰もがそれぞれ自分なりの工夫をしている部分かと思います。

まず浴衣のときは「ゆかたスリップ」が一般的でしょうか。上半身は汗を吸い取るよう木綿、腰から下はキュプラなどがよく用いられますね。私も「お祭りモード」で浴衣を着るときはゆかたスリップ。ウエストと腰は普段どおりタオルで補正します。汗も吸い取ってくれますしね。
スリップと浴衣だけでは薄手でこころもとないと、普段は使わなくても和装ブラジャーを使ったり、晒しを巻く方も多いかと思います。

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ゆかたスリップは気軽に着られるのが魅力。ただ私のゆかたスリップは裾が短すぎました。後悔!もっと長いタイプに買い替えたいところ。京都の「ゑり正」、Webショップ「コイキモノ」がバリエーション豊富。楽しく悩めそうです。


ゆかたスリップではなく、「肌襦袢&裾除け」を着ることもあります。その場合、肌襦袢をいつものガーゼではなく、肌離れのよい晒やクレープ素材のものにします。あるいはご存知「あしべ織汗取肌襦袢」も大活躍。蝋燭の芯に使われる天然繊維が胴まわりにキルティングされていて、強い吸水力があり、それでいて肌触りはさらり。それなりの厚みがあるから物理的に暑くなるのは否めないけど、長時間汗をかくであろう日には重宝。特に絹ものを着るときに欠かせません。つい先日、六月末に単衣で早朝から夕方まで歩き回った日は、あしべ織汗取に感謝状を贈りたいくらいの気持ちでした。最高気温は32℃、あしべがなかったら、どんなだったろうと(笑)。

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左=晒とクレープ素材の肌襦袢。右=あしべ織汗取肌襦袢。脇にも燈芯の入ったパッドが。これがなかなかいい仕事をしている気がします。この肌襦袢は補正にもなります。


『京都で、きもの』の取材でお会いした芸妓さんは、浴衣には「筒袖の肌襦袢&東スカート」とおっしゃっていました。東スカートは踊りの方がよく着られるそうですね。東スカートはその名のとおり筒状になっているから、裾がはだけても素足がにょきっと覗くことはない、というのがメリット。私は試したことはないのですが、気になっています。

肌襦袢は新素材のインナーに代えてもいいですね。
それから、裾除けをステテコにしても。暑い日に足の内側を汗がツーっと流れること、ありますよね。ステテコはそんな汗をしっかり受け止めてくれます。モンダイは市販されているステテコの股上が長すぎる点にあったのですが、そんな沢山の声をうけて、“ローライズのステテコ”が登場してきました。さきほども紹介した「コイキモノ」の“レース付きステテコ”、「注文の多いキモノ店」の“ロングレースステテコ”がそれです。見た目にも可愛らしいですよね。

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左=ユニクロの「サラファイン」という素材のインナー。その名のとおり、汗をかいてもサラサラ。右=こちらはローライズではない普通のステテコ。クレープ素材です。


一方、半襟あり&名古屋帯の「きものモード」のときは、先日樺澤さんが紹介していただいた筒袖の半襦袢や、ちゃんとした袖のついた半襦袢の登場。そして「大うそつき」、長襦袢へと続きます。沢山パターンがありますね。お二人の工夫もまたおいおい、きかせてください。

いずれにしても大切なのは、枚数を減らして物理的に涼しくすること、でも汗はちゃんとキャッチすること、肌離れのよい素材を選ぶこと――そんなところでしょうか。

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左=竹繊維の布で誂えた一衣舎製の半襦袢。夏にはもってこいの素材ですが、今では生地が手に入らないということで製造中止に(涙)。右=身頃は木綿、袖と裾よけは麻の「大うそつき」。これなら肌着は特に必要ありません。


なかなか奥深い(?)夏の肌着。肝心の浴衣や着物の話の前に、ついつい長話になってしまいました。

夏は麻に限る!と私はずっと決めてかかっていたのですが、やはりお茶関係で絹ものも必要になり、さてどんなふうに選んだらいいものやらと迷っています。そのあたり、植田さんにぜひご指南いただきたいところ。今月もどうぞよろしくお願いします!


追伸(下着のこと)>>

date: 2009年07月10日

subject: お茶のお稽古に着る浴衣

from: 植田伊津子



佐藤さん、肌着のお話をありがとうございます。
表ではいかにも涼しい顔をしたいものですから、夏は肌着にこだわらずにはいられませんよね。いろんなタイプがありますけれど、私も「あしべ織汗取り」を5月ぐらいから愛用しています。夏はこれがないと外に出かけられませんので、洗い替え用も常備しているんですよ。胸の補整もできて便利な一品ですよね。

さて、「きものBASICルール」をお読みの皆さんはよくご存じかと思いますが、今日はまず浴衣生地の主立った種類について軽くおさらいをしておきたいと思います。

[コーマ地]
コーマ糸を使った平織りの綿生地。はじめはハリがありますが、洗濯を繰り返すと、くたっとやわらかくなります。白・藍の注染のコーマ地の浴衣はもっとも浴衣らしいものといわれています。価格は比較的抑えめ。

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樺澤さんがお持ちのコーマ地の浴衣です。乱菊は竺仙。白地はとある呉服店で誂えたものだそうです。波に舟と花の柄行きがちょっとクラシックで、可愛らしいですね。


[綿絽 めんろ]
綿生地で絽目があるもの。コーマ地より少しだけ上クラスの扱いなので、ちょっとしたお出かけや軽めの会食にも使えます。半衿ありのきもの風でも、半衿なしの浴衣風にも、どちらにも使えます。ただ絽目があって透けますから、下着に要注意。

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少し細かい絽目です。


[綿紅梅 めんこうばい]
太細の綿糸で格子状の畝(うね)を表したもの。格子の骨、地部分とも木綿。糸の凹凸組織が生地にハリを与えているため、サラリとした肌感触になります。綿絽よりやや格上の扱いをします。これも半衿ありのきもの風でも、半衿なしの浴衣風でも。綿絽以上に透けます。

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三越でつくった少し古いものです。浴衣なのに鮫小紋なのがめずらしかったので求めました。


[絹紅梅 きぬこうばい]
綿紅梅にそっくりな見た目ですが、格子の骨に当たる糸が綿で、地部分が絹なのが絹紅梅です。綿紅梅より繊細で上等ですから、長襦袢に半衿+足袋という着こなしがポピュラー。きものっぽい小紋柄や、最近は訪問着風の絵羽付けのものもあります。
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伊勢由の今年の新柄。樺澤さんが説明されたとおり、こちらの浴衣柄は粋というよりもおっとりしている感じ。どこか可愛らしい味わいが女性をやさしく見せてくれます。また数もたくさんつくられませんから、その点もうれしいですね。



その他、単衣の時期から着られるやや地厚な奥州小紋、夏きものそのものといってよい高級な麻100パーセントの麻小紋、昔ながらの絞り、無地系統の小千谷縮綿麻縮などもあります。
これらの説明が、書店に並ぶきもの雑誌の夏号には毎年出ていますので、詳しくはそちらをご覧になってください。


さて先月の私は、いろんな方たちから、はじめての浴衣選びについて相談を受けました。なかなか面白かったので、その応答を公開したいと思います。質問をした方は、いずれもお茶のお稽古をしている人たちなので、だいぶんお茶のきもの寄りの内容です。
お茶のシーンのきものにご興味のない方でも、一般的な浴衣選びのヒントにもなるかと思いますのでご一読いただければ幸いです。


Q お茶のお稽古に浴衣を着てもよいでしょうか?
A 暑いですもん。もちろんOKですよ。浴衣であっても「きもの」を着てお稽古をしようという気持ちが大切ですから。最近はいろんなタイプの浴衣があって、結構あらたまった感じもありますから、「夏に着る木綿のきもの」という感覚で選んだらよいでしょう。

Q その場合、どんなものを選んだらよいでしょう?
A 20代後半から上の年代の方なら、綿絽以上の浴衣がよいと思います。具体的にいえば、値段的がこなれているのは、綿絽、綿紅梅、綿麻縮などでしょうね。これらは反物代が2〜4万円前後で、お仕立代を入れて総額4〜6万円ぐらいです。絹紅梅は反物だけで7〜8万前後、それにお仕立て代を入れると10万ぐらいになりますから。

Q 今挙げた中でも、植田さんがとくにおすすめするのはなんですか?
A それはもう好みになっちゃうのですが、私自身はガタイが大きいため、結構気になるのが、綿紅梅や絹紅梅の紅梅系。麻のきものと同じく肌につかないハリのある生地のため、着用するとヤッコさんになって、より身体が大きく見えるように感じます。正座をして立つと、ハリのあるシワによって、数センチは上がりますしね。綿絽のほうが、若干やわらかく身体に添う感じです。ただ、その分、紅梅のゆかたより暑いですけれど。
自分の譲れないポイントが暑さならば、綿紅梅の涼しさをとったらよいですし、すっきり見えるほうを優先するなら綿絽でしょうか。
小千谷縮や綿麻縮は、男性の浴衣によく使われているように無地や格子が中心です。30代前半〜の女性が無地感覚の縮を着ると、よほど帯とヘアスタイルに凝らなければ老けて見えるように感じます。柄物のほうが悩まないで着られるかもしれません。

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一昨年につくった綿麻縮。シンプルな黒が着たくて、めずらしく渋めを選んだのですが、着こなしに苦戦しています。さらりとした弱い感じの帯では、10歳ほど上に見えるのです。ヘアもただ単にまとめただけだと、かなり寂しいんですね。派手でおもしろい夏帯を探しています。


絞りの浴衣は、もともとシワがありますから、正座をしてもシワが目立ちにくいのでお茶の浴衣におすすめ。ただ絞りの浴衣ってクラシックな感じがして、ひと昔風の着こなしに見えたりすることがあります。おしゃれな絞り選びがポイントになりますね。

Q どんな色柄を選んだらよいですか。
A 浴衣はにぎやかな柄が多いですが、品のよいものが茶席には落ち着きます。浴衣らしいといえば、紺白のツートンカラーでしょう。ただし、総じて白地が目立つと「夜に着る浴衣(お祭り浴衣)」っぽくなりますので注意してください。お茶のお稽古に使うなら、あまり白くないものがよいと思います。

またきものと同様、大柄の人には大きな柄が映えますし、背の小さい人は小柄のほうがお似合いになります。顔の造作が濃いめの方は、紺白でも紺がパッキリとしたメリハリの強い色がおさまりがよく、やさしい顔立ちの方は、中間色から薄めの紺色のほうがよいかと思います。紺といっても明彩度いろいろありますから、反物を肩にかけて、顔映りを見てください。

Q 仕立て上がり品と、反物から仕立てるのはどちらがよいでしょう。仕立てる場合の注意点も教えてください。
A 予算が許すなら、自分サイズに反物から仕立てるほうが、きれいに着られます。また襦袢をつけてきもの的に着たい方は「広衿仕立て」に。ふつう既製品の浴衣はバチ衿。バチ衿の利点は着やすさです。広衿は衿元がふっくらするので、少したおやかな感じになりますね。またこちらのほうがバチ衿より深く胸元を押さえて交差する構造ですから、多少着くずれにくくなります。私の浴衣は広衿仕立てにしています。

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広衿仕立ては、付属品の衿裏代もふくめ、バチ衿より仕立代が少し余計にかかります。


また長襦袢に居敷当てがないときは、透ける浴衣生地には居敷当てをつけたりもします。綿絽・綿紅梅にも居敷当てをつける方はいますが、私は長襦袢に居敷当てをつけていますから、浴衣にはつけません。ただ絹紅梅はきもの扱いをしますから、これはつけますね。

Q 衿と足袋は要りますか?
A ふつう浴衣は裸足に下駄ですが、お茶のお稽古の場合は足袋が要ります。裸足で茶席に出入りするのは、夏でも遠慮してください。半衿をつけた長襦袢を着る・着ないはお好みです。けれど、足袋を履くなら衿もつけたほうがはきれいに見えるでしょうね。
それに浴衣に足袋を履いた着こなしなら、下駄だけでなく草履を使っても構いません。
さて、浴衣に合わせる長襦袢は、本麻か紋紗、海島綿がよいと思います。絹の絽でも悪くはありませんが、浴衣には少しナヨナヨします。いちばん涼しいのは本麻で、簡単にするなら2部式仕様を。バチ衿付きの半襦袢に衿をかけて、ステテコや裾除けを用いるのもよいですね。
浴衣につける衿は、ふつうの絽でもOKですし、綿のきものなので麻の衿でも素敵です。

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小千谷縮の本麻衿。浴衣だけではなく、上布や夏大島などの織りのきものにも合います。ただやわらかものには麻ではない絽の半衿がよいでしょう。


Q 帯は半幅帯がよいですか? なごや帯ですか?
A お茶の場面では半幅帯をほとんど使わないですね。文庫にすると、あちこちの壁に当たりそうになるからだと思いますが、もし半幅を用いるならかさばらない結び方「貝の口」「矢の字」「かるた結び」などがよいと思います。使ったらダメということではないです。
一般的に浴衣のお茶のお稽古は、なごや帯のほうが多いかもしれませんね。たとえば紗献上の博多帯などが一本あれば、お茶の浴衣によく合います。浴衣に合わせるなごや帯は、あまり大げさでない軽い印象のものがしっくりくるのです。
ですからまず袋帯は除きます。絽の凝った染め帯や紗のすくいの帯、絽綴れ、羅などは、本格的な夏のきものに似合うものですね。
ところで、浴衣に締めるなごや帯のお太鼓は、心持ち小さめのほうがおさまりがよいものです。

Q 浴衣を着るときには補整したほうがよいですか? どのようにして補整をすればよいですか?
A 浴衣こそ補整が必要。ああいう薄手のきものは身体の線が出やすいですし、浴衣は補整をしないと少し動いただけですぐに着くずれます。胸の凸凹を抑えるための方法は、さらしを巻くか、和装ブラジャー、スポーツブラ、あしべ織汗取りをつけるとよいでしょう。それにウエストにタオル、お尻の上の腰骨のくぼみもなだらかにしたいですね。
浴衣を取り扱うサイトでは補整具をいろいろ売っていますから、それを購入してもよいでしょう。それらはもちろんきものにも使えます。

他の質問もあるのですが、今日はこんなところでバトンタッチ。

date: 2009年07月13日

subject: 紺白ゆかた、お出かけカレンダー

from: 樺澤貴子



照りつける陽光と、湿った空気のまといつく日本の夏。
藍で染めた紺白ゆかたの、きっぱりとした綿の肌ざわり、涼やかに透ける絽や紅梅・・・・・・さらりとしたゆかた姿には、格別な美しさがあります。そのすがすがしい装いに、昔の人は美しさを見いだしたのでしょうね。数年前からのゆかたブームで、素材や色柄など多彩なゆかたが登場ましたが、今また、正統派の紺白ゆかたがが見直されているように思います。もちろん私も、紺白ゆかたの魅力を楽しんでいるひとり。

ゆかたの素材については植田さんがとてもわかりやすくご紹介くださったので、今日はコーディネートのお話をしたいと思います。昨年、私はきものスタイリストの秋月洋子さんの『大人のおでかけゆかた コーディネート帖』(小学館)にて編集者として携わりました。

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この本では、おでかけゆかたの3つのルールを設定。ルール1.帯結びはお太鼓で ルール2.衿元はあけすぎず、半衿は見せすぎない ルール3.足元は足袋を履くのがマスト このルールに基いて、粋な江戸風&はんなり京風のコーディネート術やお手入れ法、遊び心ある季節の小物の魅力をたっぷりとご紹介しています。

この時に秋月さんから教わったことを含めて、私なりに辿りついた柄行きやシーンに応じた帯合わせ、時間帯や季節のうつろいに応じた着分け方、ゆかたならではの着付けのポイントも含めて、カレンダー方式でまとめました。前回も書かせていただきましたが、小唄のお稽古の夏のお浚い会では、各自で紺白ゆかたを用意するため、自然と枚数が増えていきました。ならばと、あえて紺白ゆかたに絞り込んでゆかたダイアリーを作ってみました。(ちなみにご紹介したシーンは、私の実例だけでなく、カジュアル度・お出かけ度の目安として考えてみました。実際はゆかたを着るのはひと夏に2〜3回です・・・・・・笑)

【7月上旬 小唄のお稽古へ】
7月はゆかた解禁ですが、梅雨寒のころは肌で感じる季節を優先させて、夏帯ではなく単衣帯を合わせたり、衿元も半衿ありの装いに。お稽古へは、手持ちの紺白ゆかたのなかで最もきもの感覚で着られる、紫陽花を描いた長板中形の綿紅梅で。ゆかたの花柄は「季節無し」と言われ桜や梅の柄などもみかけますが、やはり気になるので紫陽花柄は7月中旬頃までの間にせっせと着るようにしています。
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左:博多帯、右:木綿に刺し子柄。小唄のお稽古では、師匠のお好みに合わせて赤や鮮やかなピンクなど、帯締めに強めの色を効かせます。どちらのコーディネートも半衿あり、足元は足袋+草履

【衿合わせのPoint】
半衿をつける場合には、衿を深く合わせ、きものの場合よりも半衿を細めに見せるようにします。また、半衿をつけない場合はとくに衿元がゆるまないように注意します。ゆかたを両胸をしっかり覆うように合わせて、少しだけ詰めぎみにします(窮屈に見えない程度に)。衣紋も抜きすぎないのがポイント。衿合わせも衣紋も、暑いからといって肌を多く見せてしまうと、かえってだらしない印象に・・・・・・ゆかたは、とくに清潔感が大切だと思うので、控えめを心掛けます。



【7月中旬 下町散歩】
7月も半ばになると、特にお祭りや花火大会などのイベントがなくても、ワードローブの一枚としてサマードレス感覚でゆかたを楽しんでいる方を多くみかけます。変わり格子のゆかたは、江戸風ゆかたの代表格のような柄行き。チェックのワンピース感覚で小粋に装えます。
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左:露芝を織り出した鮮やかなオレンジの八寸帯をお太鼓に結んで。半衿はつけずに、足袋&右近の下駄というスタイルなら、カジュアル度の高いコーマ地などの平織りのゆかたも大人顔に。右:同じゆかたでも、電車に乗らずご近所を散歩するなら、気軽な半幅帯で。半衿なし、素足に下駄。

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右上のコーディネートに赤系の半幅帯を効かせると、若々しく、より一層ゆかたらしいコーディネートになりますね。一時、そんなコーディネートにはまって、赤い半幅帯がこんなに増えてしまいました。

【ゆかたのお太鼓結び】
植田さんも書いていらっしゃいましたが、ゆかたの場合、お太鼓をやや小さめに結びます。また、大きさはそのままに帯枕を小ぶりなものに替えてお太鼓を薄くすることも、ゆかた姿をシャッキリと見せるポイント。(小ぶりな帯枕がない場合は、タオルなどでも代用できます)帯揚げも、ほとんど見せずにスッキリと装うことで、涼やかさと「きもの未満」のゆかたらしい雰囲気を演出。



【7月中旬 夏祭り】
夏の風物詩的なイベントには、ゆかたらしい大胆な柄行きのものを選びます。流水に団扇は、いかにもゆかたらしい大胆な柄行きの綿絽。竺仙で求めました。
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左:力強いイカット風の半幅帯。グリーン×朱色という夏らしいきっぱりとしたコントラストによる、江戸風コーディネート。半衿なし、素足に下駄。右:竺仙の綿絽は、絽目が均等に揃ったものでなく、あえて不規則な幅の乱絽となっています。というのも乱絽によって、紺と白のコントラストや図柄の線が際立つそうなんです。また、不規則な絽目によって着たときにモアレのような効果が生まれ、シルエットがぼやけて体のラインが目立たなくなるという嬉しい効果もあるそうです。

【紺地と白地の着分け方】
紺地と白地をおでかけの時間帯で着分けるなら、昼間から出かける場合は強い日差しのもとで紺地がすっきりと見え、夕暮れどきから夜のお出かけには白地の美しさが際立ちます。色の映え方だけでなく、昼間のお出かけで白地のゆかたの透け感が、どこか心許ないように思えるということも理由のひとつ。



【7月下旬 小唄のお稽古のお浚い会】
<白地のコーマのゆかた+博多帯+半衿なし+足袋+草履>という方程式は、日本舞踊などをはじめ、伝統芸能のゆかた浚いに共通したスタイル。波に渡し舟のコーマ地のゆかたは、「蚊やり香」という花魁が愛しい人を待ちつづけるという少々色っぽい唄を与えられたときに誂えた一枚。「大川(隅田川)を間男が舟で通う」というイメージで、この柄を選びました。
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お浚い会の時には、博多帯が定番。銀鼠の帯が地味に見えない洋に、ピンクの帯揚げと赤い帯締めで華やかさを。半衿なし、足袋+草履



【7月下旬 花火大会】
花火大会はゆかた率の高いイベント。大人っぽく着こなすなら、お太鼓結び+足袋ありというスタイルに。夕暮れどきから出かける花火大会には、白のゆかたがほんのり色っぽく映るため、千鳥柄をモダンにアレンジした竺仙の綿絽をチョイス。
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左:レストランやホテルで花火を鑑賞する場合は、ピンクの博多帯×鶸色の帯締めという色合わせは、はんなりと京風の装いに。半衿なしでも、足袋に下駄できちんと感を演出。花火の後に、ちょっと気取ったところで食事をする場合も同様にお太鼓結び&足袋がおすすめです。右:同じゆかたでも、河川敷でカジュアルに花火を鑑賞するなら半幅帯を文庫結びにして軽やかなスタイルに。半衿なし、素足に下駄。

【着丈のPoint】
足袋をはく場合と、素足の場合では、ゆかたの丈を若干調整します。素足の場合はくるぶしが半分みえるくらい、やや短めに。足袋をはく場合はくるぶしがギリギリ隠れるくらいに。それでも、袷のきものの装いよりは短めを心掛けることで、きりりと涼やかな印象に。



【8月上旬 納涼寄席】
歌舞伎やお能にゆかたで行くのは抵抗がある・・・・・・という人も落語なら気楽にゆかた姿で楽しめるでしょう。実際、若い方のゆかた率が高く、男性のゆかた姿も多く見かけます。変わり格子のゆかたで、チャッキリと男前な装いに。
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臙脂色の帯締めをアクセントにミンサー織りの半幅帯を矢の字に結んで、気風のよい粋なコーディネートに。半衿なし、足袋+下駄。

【半幅結びのPoint】
長時間椅子席に座る場合、文庫結びは形がくずれてしまうおそれがあるため、背中がフラットになる矢の字結びや貝の口が便利。半幅帯は帯締めや帯揚げを使うと、表情豊かな結び方が可能となります。



【8月上旬 カフェレストランで暑気払い】
休日のボートカフェやオープンエアのカジュアルなレストランで、まだ日が暮れきらないうちからシャンパンで乾杯・・・・・・というシーンにもゆかたでおでかけ。アロハ調の花柄のゆかたは、和に偏りすぎないため、洋装の方が多い集まりで、周囲の目に涼やかさを誘います。
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左:寒色系の帯合わせで涼やかさを演出。片花結びや変わり文庫など躍動感のある半幅帯の結び片は、ビアパーティなどカジュアルな立食パーティで華やかな印象に。右:黄色の博多帯+グリーンの帯締めは、洋装感覚のビビッドな色合わせ。



【8月中旬 夕涼み】
幸田文さんのエッセイ『季節のかたみ』(講談社文庫)にて、夏から秋に向かう頃の紺白のゆかたについて書かれた文章がありましたので、引用させていただきます。このエッセイを読んでから、白地のゆかたはお盆の頃までと決めています。過ぎ行く夏に名残を感じながら、どこかノスタルジックな雰囲気もある鈴柄のゆかたを纏います。

ゆかたの色で、秋の予告をきいてしまうひともありました。ゆかたの模様は多くは白と紺とで成立っています。白地に紺染め、紺地に白抜きです。ゆかた独特の闊達で引立つ配色です。白も、紺も、両方とも負けずに強い色なのです。それが、見た目の感じに白のほうが際立ってしろじろとみえたときは、もう秋が来ているのだ、とその人はいうのです。
(中略)
私もそう聞いてから、浴衣の白にカンを立ててみましたが、なるほど晩夏には、紺がへこんで白が勝って見えることがあります。大気の清澄度のせいか、陽光の色調のせいか、それとも秋冷が白色を嫌うのか、よくわかりませんがとにかく白は、調和の納まらない、ことごとしい感じがあります。いまも私はこの季感を大切に思い、晩夏の着物に白は用心しています。

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左:ひと色抑えたグリーンや辛子色、紺の多色使いの格子柄半幅帯を一文字に結んで。半衿なし、素足に下駄。右:そのほか、秋のニュアンスを感じさせる深い色味の半幅帯。

【白地のゆかたのリミット】
晩夏の光には白場が浮き立って見えてしまうため、白地のゆかたはお盆までがひとつの目安。立秋を迎えた後は、臙脂色や茶系、スモーキーなピンクなど・・・・・・少しずつ秋の色味を足し算して微妙な季節の移ろいを表現。



【8月下旬 屋形船でお食事】
実際の体感温度はうだるような暑さでも、目に映る季節はほんのり秋めいて見せたいもの。晩夏のゆかたは、柄がパッキリとしたものよりも、ひと色抑えた藍が優しく映ります。黒のぼかしや、藍のグラデーションで乱菊をふわりと浮き立たせたコーマ地のゆかたは竺仙製。
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左:臙脂色の帯はゆかたはもちろん、晩夏のきものにも活躍する便利な帯。右:普通コーマ地の場合、撥衿に仕立てることが多いと思いますが、これは試しに広衿に仕立ててみました。植田さんも書いていらっしゃいましたが、撥衿に比べて衿元が少しふっくらとするため、優しい印象に。胸元を深く覆うので着崩れしにくいということも、植田さんと同意見です。半衿なし、足袋+舟形の下駄。

【晩夏を演出する小物合わせ】
小物合わせは、盛夏なら鮮やかなビタミンカラーでコントラストを際立たせたり、涼やかな寒色系でまとめます。晩夏には深みを増したグリーンや臙脂などの秋色をはじめ、ニュアンスのあるピンクやベージュなど中間色で柔らかくまとめるのがコツ。



今回はだいぶ長々と書いてしまいましたが、お付き合いありがとうございます(笑)。紺白ゆかた中心のかなり偏ったワードローブですが、読んでくださっている方のゆかたライフの参考になれば嬉しいです。

さてさて、佐藤さんはどんなゆかたライフを過ごしていらっしゃいますか?前回、ゆかたの洗い方をご教授くださると言っていたので、楽しみにしています〜。

date: 2009年07月17日

subject: 麻きもの偏愛

from: 佐藤文絵



植田さん、樺澤さん、浴衣のお話をありがとうございました。その後間が空いてしまいごめんなさい。
さて、まずはお茶のお稽古に着る浴衣。今ちょうど疑問に感じていたことのひとつでした。“夏に着る木綿のきもの」という感覚で選ぶ”、“具体的には綿絽以上の浴衣”との言葉に納得です。
二年前に作った有松鳴海絞のゆかたは「きもの的に着よう」と広衿で仕立てました(お二人ともおっしゃるとおり、衿元がふっくらして、きものらしくなりますね。はだけにくくなるのも嬉しい)。ではこれに紗献上などの名古屋帯を合わせてお茶のお稽古に――。コーディネイトして思案したものの、どうもピンときませんでした。

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左=浴衣というよりきものとして着ようと作った有松鳴海絞。絞りといっても鹿の子絞りのような凹凸のないもので、板締めという技法“雪花絞り”で作られたものです。生地はおそらく柔らかめのコーマ地。右=雪花絞りの浴衣は、一昨年は雑誌『七緒』の表紙で見かけました。今年は「金麦」の広告で壇れいさんが着てらっしゃいます。想像するに有松の張正が製作されたものではないかと思います。この写真は張正さんへ取材に出掛けた際に撮らせてもらったもの。張正の浴衣は複数の呉服店が扱っていると思います。例えば京都のSOU・SOUにはこんな浴衣が。


白&ブルーの色合いは、やはり浴衣度が高いよう。どうもカジュアルすぎるなあと気がひけてしまいました。もっともひとくちにお茶のお稽古といっても、先生の考え方、お稽古場の雰囲気によるところが大きいと思います。だからこれはあくまで私の感覚です。
プラス、少し気になったのは、昔の感覚では雪花絞りは“おしめ”を連想させるのだとか。おしめによく雪花絞りが用いられていたのですって。ある年齢の方からみたら「あら、おしめを着て」なんて思われてしまうのかも…(笑)。もちろん「そんなふうに着ると素敵ね」と考えを改めてもらう機会になるかも知れません。だけどちょっとリスキー。普段は堂々と誇らしく着ていますが、妙齢の方々とも同席する場では控えようかなという気持ちになります。

私の手持ちの浴衣は、コーマ地と有松鳴海絞だけ。絹紅梅や綿紅梅は気になりながらも、これまで縁がありませんでした。気軽に着られて、自分でお洗濯ができ、きちんと見える“お稽古浴衣”があったらいいなあ。「いずれほしいものリスト」に追加です。ブルー系を外すと、浴衣らしい浴衣と区別できて、より良いかもしれませんね。
といいつつ、樺澤さんの紺白コーディネイトは素晴らしいの一言! 楽しそうな情景が目に浮かぶようでわくわくします。私はお祭りなど、いかにも夏らしい場面以外ではあまり着ることがなかったけれど、樺澤さんを見習って、もっと自由に楽しみたいと思いましたです。


ところで私のきもの熱が本格的にはじまったのは、夏でした。はじめて自分であれこれ選んでひと揃えができたのが夏きもの。思い返せばそれは6年前の夏。2003年の『きものサロン 夏号』は思い出深い一冊です。「こんなのがいいなあ」「これはなにか違う」「こんなのもいいなあ」・・・想像を膨らませながら、食い入るようにページをめくりました。最も長い時間眺めた雑誌かもしれません。おかげで本棚のきもの雑誌のなかでも、いちばん傷んでいます(笑)。

和服洋服を問わず、麻が大好きな私の夏のワードローブは、おのずと麻ばかりになりました。蒸し暑いニッポンの夏。風通しがよく、湿気を吸収してくれて、肌心地の冷ややかな麻は何ものにも代えがたいもの。しかも自分でじゃぶじゃぶ洗えるのが最高です。


[縮]
麻の縮といえば、小千谷縮が代表格。撚りのある糸で織り上げ、最後に湯揉みという仕上げをすることで独特のシボが生まれるのだそうです。肌への接着面が少なく、通気性はばつぐん。シボのおかげでアイロン要らずなのが有難い。買いやすいお値段も嬉しいところ。涼しく、メンテナンス楽々、お値段かわいい――とくれば、1st夏きものに一押しです。唯一の欠点をいえば、ハリがあるから生地が身体に添わず、いわゆる“ヤッコさん”になりやすいこと。だけどこれは涼しさを得るならある程度仕方なし。トレードオフですね。

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左=数日前のお茶のお稽古に着ていった格子柄の小千谷縮。もともと麻には伸縮性がないけれど、小千谷縮はシボがある程度の負荷を吸収してくれるようです。右=アンティークで買い求めた縮(産地は不明)と、知り合いから譲り受けた生平(きびら)とおぼしき無地の麻きもの。この3枚は浴衣感覚です。


[上布]
宮古上布、八重山上布、越後上布、能登上布…。どれも麻きものの最高級品。“上布”の響きには無条件でうっとりしてしまいます。この名はもともと献上布であったことを示すもの。繊維の細い苧麻(=からむし)を使い、薄く繊細に織り上げた布は“蝉の羽”にたとえられます。宮古上布などは本当に薄く繊細だから、麻でも“ヤッコさん”にはなりませんね。

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おそれおおくも縁のあった宮古上布。庶民なのにごめんなさい、という気持ちで着ています。どちらもアンティーク、対丈で着ている旨を以前にお話しました。その後胴継ぎを計画中です。



そんなことで、麻きもの偏愛の私は、ぺっとり肌に添うときく「絽のきもの」に苦手意識をもっています。だけど絹ものも必要。植田さん、樺澤さん、いかがなものでしょうか。これはただの食べず嫌い!? しゃり感があるから涼しそうな夏御召や夏紬にも興味津々。夏の絹もののお話、きかせてくださいね。

今日はお洗濯のお話もしたかったのでした…。が、これはまた改めて。


追伸:祇園祭まっさかりの京都です。今日の山鉾巡行は逃したけれど、山や鉾の立ち並ぶ室町界隈を歩きました。祇園祭は和装小物のセールがちょこちょことあって、きもの好きとしては嬉しいオマケがあります。今年は腰紐を3本という地味な収穫でしたが、山鉾を飾る美しい絹織物に目が癒されました。

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date: 2009年07月20日

subject: 夏のやわらかもの

from: 植田伊津子



先日の佐藤さんの原稿からは、「麻のきもの」に対する愛情が伝わってきました。麻って水を通すほどしなやかになって、趣が深まる感じがします。佐藤さんが麻を好きなお気持ち、わかりますよ。

とはいうものの、じつを申しますと、私は麻のきものが一枚もなーい(笑)。身内からたくさんのきものを譲ってもらいましたが、そのなかにも麻は含まれませんでした。私のワードローブは浴衣以外の夏のきものといえば、やはり「やわらかもの」になってしまいます。
麻や上布のきものって、本当のおしゃれ着なのでしょうね。
ですから、佐藤さんの麻や上布のきものを拝見して、とてもうらやましくなりました。

夏のきもののよそおいのポイントは、他者に「涼しそう」と感じてもらえることではないかと思います。その点、麻のきものはシャリ感にあふれていてまぶしい。街中でそういう着こなしの方を見かけると、思わず後ろをついていきそうになります。
けれど私の場合、着ていく場所によっては、どうしてもやわらかものが必要でした。今日はタレものが中心のわたしの夏のきものについてお話しましょう。


[無地感覚のきもの]
暑い季節にきものを着るのは、きものを着る機会の多い私にとっても、正直なところ苦手です。着ていて暑い、というよりも、気重なのは手入れ。シーズン終了後、あれだけの汗をつけたまま仕舞ったら恐ろしいことになる、夏のきものを好きに着ていたらいったい手入れにいくらかかるのだろう、という脅迫的な思いからです。

ですから、夏はどんなところでも洋服で出かけたいのが本音ですが、きものを着なくてはいけないシチュエーションというものがあって、そこでの約束のきものというものは、やわらかものの絽や紗じゃなかろうかと思います。自分の好みとは別なところで、やわらものの需要があるのですね。

クソ面白くもありませんが、絽の一つ紋付きの無地なんてのは、お茶を嗜まれる方にとっては必要不可欠なものではないかと思います。お茶の制服ともいえる「無地の紋付き」の夏仕様です。
私も持っていますが、袷を何枚も持っているのにくらべて、夏の無地紋付きは1枚きりです。それ以上の必要性は今のところ感じておりません。

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無地ではありませんが、吹墨模様の絽のきもの(一つ紋付き)も無地がわりに使います。小紋とも無地ともいえない柄がおもしろいのではないでしょうか。これは伯母のお下がりで、まさしく伯母好みの柄。きものを頻繁に着るコアな層は、無地周辺の幅の狭いところでのおしゃれを楽しみます。江戸小紋やぼかしなどもそうですね。女子高生が制服の細かいところにこだわるのと一緒かもしれません。



[絽と紗のついて]
さて、ここで「絽」と「紗」の違いについて、少し触れておきましょう。

絽は「からみ織」の一種で、奇数の緯糸ごとに経糸をよじって織る組織で、定期的に隙間をあらわしたもの。紗は「からみ織」「もじり織」の布地で、経糸2本をひと組として緯糸が1本織り込まれるごとによじって隙間をつくるもの。

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左=絽の組織図(『染織事典』泰流社刊より複写)。奇数の緯糸の数に応じて三本絽、五本絽、七本絽、九本絽などがあり、絽目が経糸の方向にあらわれるのが竪絽(たてろ)。綾織を入れたものは綾絽。他にアトランダムに絽目を入れた乱れ絽なども。右=紗の生地アップ。(写真は小田織物提供)


どっちが先に生まれた組織かといえば、「紗」なのだそうです。つまり絽は紗の変形で、江戸時代初期頃からつくられはじめました。
紗は緯糸1本ごとによじって隙間をあらわしますから、隙間が多すぎて、友禅模様などの精緻な柄を美しく染めるのがむずかしかったのです。そこで、普通の平織の間に隙間を入れた「絽」という組織がつくられるようになりました。

ところで皆さん、夏のきものといえば「絽」と「紗」の名を並べて上げるのに、実際は紗より絽のきものを見かけるほうが多いな、って思いませんか? 実際のところ、留袖、訪問着、付下げ、小紋といった柄のあるきものは、ほぼ100パーセント近くが「絽」です。

それは、平織組織のある絽のほうが、構造上、絵をつけやすい理由があったのでした。また部分的に絹の平織を取り込めば、身体に添うタレ感も生まれます。しかし反面、平織は風を通しませんから、紗にくらべたら暑いという面もあります。

紗は、前述どおり絽にくらべると隙間が多い生地ですから、格段に涼しいものでした。中国では唐〜宋代にかけて大いに発達し、日本へは奈良時代に伝えられたといわれています。
(紗の親分に当たるのが「羅」という織物。詳しい説明は省きますが、これを織るのは大変むずかしかったのだそう。昭和31年に喜多川平朗(1898〜1978)さんが古代以来の羅を体系立てて復元し、人間国宝に指定されました。その後、北村武資(1935〜)さんが続きましたが、それまで羅の技法は奈良時代からずっと途切れていたのです。羅は2000年の歴史を持つ古い織り方で、中国で生まれました。日本で盛んに織られていたのは奈良〜平安時代。上流貴族たちの専有物でした。)織るのが困難な羅の代わりとして、紗が広汎に普及した背景がありました。

強撚糸を用いて織った紗は、よじる回数も絽より多いわけですし、ハリやシャリ感、透け感にすぐれます。紗の地は、先ほどお話ししたとおり、細かな柄をつけるのには適さないと考えられてきたので、使われるのは現在においてももっぱら無地。
たとえば茶道を嗜む男性で高位の教えを授かった人は、「十徳(じっとく)」という羽織ものを着るのが許されます。それに使われているのが紗です。

女性のきものならば、紗同士を重ねた「紗袷」が有名でしょう。薄羽のような紗を重ね合わせると、無地の生地同士なのに墨流しのような不思議な文様が浮かび上がります。紗のモアレ効果です。
ハリのある紗のきものは、絽よりはカジュアルに傾くように思われるためか、柄をつけにくい性質のせいか、夏フォーマルの第一夫人の座を「絽」に譲っているのが現状です。


[柄物のきもの]
さて私は、柄物を夏場に着る贅沢を感じます。ことに東京は織物全盛で、夏はいつも以上に渋好みといってよいのではないでしょうか。黒っぽい織りのきものに長襦袢の白を効かせて、これまたシックな麻の生成りの無地帯を合わせたりされていますので、そんな中で柄物を着ると目立ちます。

夏の柄物は、個人的にとても好きですね。袷なら「派手過ぎる」と思うような柄でも、夏なら勢いで着ることができます。洋服でも、夏は開放的な鮮やかなプリント柄やアロハが強い陽射しに合うじゃないですか!って、アロハを着ない人間ですが、そう思います。

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ちょっとしたお出かけに着ている絽の付下げ小紋。右の赤芒に夏草柄は母からもらったお古です。40歳も過ぎてこれを着るのはいささか抵抗があるのですが、一生懸命着ないともう着られないと思って、毎夏、これを着るためだけにおでかけの場所を探します。左は私が日本橋三越でつくった御所解柄。カマトトだろうが、なんとでも言ってください。こういうものが、生来好きなのだからしょうがない。ホテルでの食事や銀座へお出かけ、軽い茶会などなら、守備範囲の広い付下げや付下げ小紋が重宝。


私は、これまで本格的なフォーマルな場に出会わずに過ごしてきましたので、夏の訪問着は持っていません。準礼装の無地の一つ紋付きや付下げ、小紋でやりくりしてきました。もし必要に迫られても、よほどのことがない限り、訪問着をつくるのは躊躇するでしょう。あまりに着ていく場が少ないからです。
けれど、付下げならば欲しいですね。これまで総柄のインパクトのあるものを好んできましたが、次につくるならどんなものがよいかなと、いろんな反物を観察しながら、じっくり考えています。夏物は数が必要ありませんので、気に入ったものを最小限持ちたいのです。

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伯母から譲られた一つ紋付きの付下げ。六つ目籠のところが紗で他が平織という変わり紗の生地で、鮎と青紅葉が描かれています。どんな帯を合わせようかなと思っていますが、残念ながら一度も着る機会がおとずれません。



[おまけ 夏の絹織物]
私のワードローブはやわらかもの(+浴衣)がほとんどで、織りのきものが昨年まで1枚もありませんでしたが、昨年思い切って購入したのが夏大島です。上布や麻も欲しかったのですが、いちばん最初は、絹の織物にしようと決めていました。
候補としては夏御召や夏塩沢、明石縮。これらはともに強撚糸を糊付けして用い、織り上げたのちに糊を落とすと特有のシボが現れます。こまかな縮れによって、シワが目立たない特徴がありますから、強力な夏の座りじわに悩む人間にはもってこい。
ところが、夏大島の白の蚊絣に一目惚れしてしまいました。いつものごとく、どうせ買うなら背伸びしてやろうと決心。ただ、夏の織物を着る機会が私にくるのでしょうか? 今年はまだ出番がありません。

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左=夏大島は、大島紬の夏物として昭和初期からつくられはじめたといいます。夏御召や明石ほどではないですが、絹糸に撚りをかけて織り上げているため、上品なシャリ感があります。この駒撚りは糸がほつれやすく、ほつれると織りが困難なために、夏大島は泥染めをしません。右=初夏の6月中頃から夏をとおして着用できます。薄くて涼しげな地風が特徴で、指も透けて見えるほど。



さて、次回は夏の帯を中心にお話できたらと思います。樺澤さんの浴衣コーディネートを拝見していたら、紺白の浴衣に赤や朱系統の帯を挿し色にされているのが印象的でした(^_^)。

私の場合の夏の帯は、
〈1〉落ち着きのある無地(柄物のきものに合わせる)
〈2〉インパクトのある柄物(無地系のやわらかものやシンプルな浴衣に合わせる)の両極端です。
袷の帯なら、これらを足して2で割ったみたいな中間の印象のものがありますが、どうしてこうなのか、自分でもよくわかりません。ちょうどよい機会ですから、今一度整理をしながら考えてみたいと思います。


date: 2009年07月23日

subject: 紗のきもの考察

from: 樺澤貴子



佐藤さんの麻のきもの、植田さんの柔らかもの。それぞれ、おふたりのライフスタイルに寄り添ったワードローブで素敵ですね。
ちなみに私の夏きものは、やわらかものが中心。絹織物はなく、無地の縮みと上布が各1枚。というのも、夏のカジュアルなシーンはゆかたを代用することも多いため、気合の入る観劇やパーティには柔らかもので気分をガラリと変える!というのが今の私のライフスタイルに即しているからです。

前回は植田さんが絽と紗のきものについてわかりやすくご説明してくださいました。そのなかで、「紗の地は細やかな柄をつけるのには適さず、現在において使われるのはもっぱら無地」とありましたが、私の紗の小紋も柄行きはかなりの大柄。柔らかものでありながら、絹織物を持っていない私にとっては、染めと織りの間のような感覚で気軽なお出かけに重宝しています。

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左:茄子紺色に白で蜻蛉を染め抜いた小紋。昔きものを扱う店で求めたもので、昭和初期らしいのびやかな大胆さが気に入りました。右:織り感覚でカジュアルに装いたかったので、寸法を直していただくときに袖の丸みを大きくしていただきました。



さて、その紗のきものについて、実はまたもや我々3人の間では密室トークが交わされていました。お互い常々疑問に思っていたことが、植田さんのお知恵や佐藤さんの取材によって解決されたので、ぜひここにご紹介させてください。


Q.紗は絽よりお値段が高いのはなぜ?
A.織るのに手間がかかるからではないでしょうか。


紗は均一に織るのがとてもむずかしいといわれてます。製織をよほど注意しても、ちょっとしたことで、隙間の間隔が狂って、横に線が入ったように見えるんですよ。おそらくどんな紗も製織に難がないものはないはず。なにかしら筋が入っているように見えますし、織るのがむずかしいから反物の値段も高いのではないでしょうか。(植田さん回答)


Q.紗の無地を誂えたいけれど、あまり見かけません。一般的ではないですか?
A.もしお茶席で着るなら、紗無地は絽無地よりもカジュアルに見られます。


茶席では、紗無地紋付きは絽無地紋付きよりカジュアルに見られることがあります。紗の無地一つ紋付きと小紋は同格という人もいます。なぜなのか、明確な理由はわかりませんが、紗の素材感がそうさせているような気がしますね。
詳しく説明をすると、絽のきものを着ている人の中に紗の人が入ると、もうすごく「織物」っぽく見えるわけです。ハリがありますから、衿もとや袖、腰回りもフワーと膨らみます。また隙間が粗いところもカジュアルに見えるんでしょう。(植田さん回答)


Q.紗のきものは、くすんだ色が多いように思えます。紗をきれいな色に染めるのは難しいの?
A.絽より多少難易度が高いけれど、問題なく染められます。


発色に関しては絽との違いはないそうです。ただし、生地に張りがあるので折れやすいため、絽に比べれば少々難易度が高いよう。ちなみに、生地が折れやすいということは、着用によって膝裏などに強い皺がよりやすく、その部分に染料が溜まってしまうことがあるため、紗の染め替えは難しいとのことでした。(佐藤さん回答:悉皆屋さんへの取材に基く)



このやりとりは、以前ご紹介した思案中の紗袷のきものを誂えるのにとても参考になりました。

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左:紗袷にしようと思っている付け下げ。納戸色におそらく葦垣と芝草を描いた、かなり渋い駒絽の付け下げ。垣根には、銀糸もほどこされています。右:手芸店でチュールを買って、何色の紗をかけるかシュミレーションをしてみた写真。その後、植田さんと佐藤さんからメールをいただいて藤色の紗をかけるのが好評でした。


後日談ですが、あれから具体的に紗袷のご相談にいってきました。アドバイスしてくださったのはご自宅の茶室を開放して、サロン形式で呉服の展示会や着付けの教室などを行っている縞屋さん(残念ながらホームページはありません)。
縞屋さんのご意見を伺うと、「思い切って白または白に一色クリーム色をかけたような色をかけてはいかがかしら?」ということ。または、「露芝や流水紋などの地紋がある白の紗をかけても綺麗ね」と、私の妄想を超える嬉しいご意見も。さらに、「柳色のような淡いグリーンを、裾濃で染めてもきれいね」とのこと。いまのところ3番目の意見に一番惹かれています。
佐藤さんの取材の御蔭で淡い色もきれいに染まるようですので、トライしてみようかしら!

次回は、きものスタイリストの秋月洋子さんに取材した、織りのきもののコーディネート術についてレポートしたいと思います!


date: 2009年07月25日

subject: 盛夏の色無地、イメージトレーニング

from: 佐藤文絵



おふたりとも、夏は(夏も?)柔らかもの派なのですね。植田さんの付下げ小紋、可愛らしいなあ。夏は御所解は憧れの一枚。いずれ控えめの柄付けの訪問着か付下げをつくれたらよいなと妄想しています。あるいはきれいな色無地に、御所解の染帯。
数年前、やさしいレモンイエローの色無地に青緑の御所解の染帯という着姿を目にしました。その方はお茶のお家元の奥さまでした。テレビ番組で、なのですけどね、優美な着こなしにうっとり。今でもしっかりと印象に残っています。

夏きものは大好きです。だけど夏の終わりに振り返ってみると、じつは数回しか袖を通していなかった――ということをここ数年繰り返しています。やはり暑さにめげてしまうよう。大好きなのに(涙)。けれど一度でも着たら、絹物は必ずメンテナンスに出さないといけない。だからこそ絹物は「気に入ったものを最小限持ちたい」。植田さんにまったく同感です。

前にも書いたとおり、麻ラブの私の箪笥には夏の絹物が一枚もなかったので、今年絽ちりめんの小紋をつくりました(ただいま仕立て待ち中)。絽ちりめんは6月と9月(9月の下旬は避ける)に着るものとされていますが、7月の初め、8月の終わりも許容ラインと考える方も多いですね。それなら暑さも幾分ましな季節だし、絽よりむしろ袖を通す機会が多いかもしれない、と思っています。

あとは駒絽の無地が一枚があれば当分着まわせそうです。だけど絽の無地はあまりにストレートすぎかしら、面白味に欠けるだろうか、盛夏のことだし洗える絽にすべきかしら…などと考えているうちに、今シーズンは期を逸してしまいました。来年に持ち越しです。

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左=絽ちりめんは、ちりめんだから絽より多少生地が厚め。独特のシャリ感があり、着心地がよく皺にならない、と友人のいちおしでした。確かに長い正座のあとでも膝裏はすっきり。右=5本絽のアップ。小紋・色無地・喪服は5本絽、訪問着・付下げには3本絽が用いられることが多いそうです。(写真は小田織物提供)



ところでおふたりは、化繊の絽は着てらっしゃいますか? 化繊の夏きものはまるでサウナ、なんて声もあるけれど、どんなものでしょう。きもの英の絽の色無地も候補のひとつです。


あるいは紗もいいかな、紗――。そんなことで、前回樺澤さんがまとめてくれたようなやりとりをしていた訳ですが、夏の白生地のバリエーションはちゃんとみたことがなかったので、白生地店へでかけてきました。
いろいろ見せていただきましたよ。これまた少し時季遅れで、盛夏の白生地は在庫が少なくて…とのことだったのですが、私の眼には十分でした。

まず、地紋の一切入っていない紗。これは植田さんが紹介していた紗とほぼ同じもの(を染めたもの)です。写真のとおり、かなりの透け感があります。透け透けですよね。このタイプの紗は、お茶の宗匠の十徳や羽織にするなど、かなり限定された用途で使うものだそうです。きものにするには透けすぎているし、また弱いとのこと。

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地紋のない紗。ご覧のとおり透け透けです。(以下すべて撮影協力:小田織物



着尺の紋紗もたくさん見せていただきました。ところで、紗には「先練り」と「後練り」とがあるのですって。糸の状態で精練(絹にもともと含まれるセリシンを取り除く工程)をするのが先練り、布を織り上げてから精錬するのが後練り。袷用の白生地や絽はほぼ100%「後練り」だけど、紗は両方のパターンがあるそうなのです。

同じ紗でも、先練りの紗はハリがあり、打ち込みがしっかりしています(ただし染の工程でいくぶんか柔らかくなる)。後練りの紗は柔らかく、絽のように身体に沿いやすいのです。
ちなみに、先練り&先染め=いわゆる「かたもの」、後練り&後染め=「やわらかもの」ですから、紗は文字通り“染めと織りの間”ですね。

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左=ぱりっとしたこの風合いは「先練り」。特にこちらの紗には「柞蚕糸」が使われているから、さらにハリが。右=見るからに柔らかそうな風合いは「後練り」。鱗の地紋が織り込まれている「紋紗」(もんしゃ)です。

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さらには「摸紗」(もしゃ)という生地も見せてもらいました。右の反物がそれです。摸紗とはその名のとおり織の組織としては紗ではないが、紗に似せて作ったもの。どこかほにょほにょとしています。紗より安価なのだそうです。



そしてこちらは紋紗のバリエーション。なかなか素敵でしょうー。どれも見本帳からピンときたものを撮影させていただきました。受注生産で織ってくださるようです。

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左上=ススキ 右上=流水 左下=波立涌 右下=紗綾形(さやがた)


ススキや流水はいかにも夏らしく、わりと見かけるタイプかもしれませんね。波立涌は大柄で大胆です。紗綾形は珍しいのではないでしょうか。涼しさを直接的にあらわす文様より、こういった柄のほうが却っておしゃれかも。無地に染めて、白の長襦袢を重ねたときに、この地紋がどんな塩梅で浮き上がるのか・・・すぐにぱっと想像がつきません。

紗のきもの、実のところあまり着ている方をみる機会がありませんでした。折りしも明々後日は大徳寺の月釜があります。これはきっといい機会。夏の絹物の観察に励んでこようと思います。来年の夏に向けて、イメージトレーニングです。

date: 2009年07月27日

subject: ぎをん齋藤の夏きもの

from: 植田伊津子



紋紗の白生地を見せていただいたら、俄然、紗のきものがつくりたくなってきました。すごく素敵。ペパーミントグリーンを少し曇らせたような色で、3シーズン用の長羽織をつくるのもいいなあ。想像力がかき立てられます。

さて、佐藤さんからの化繊の洗える絽を着ているか、というご質問。はい。着ています。先日のブログで紹介した御所解のやわらかものは化繊です。

仰せのように夏の絹物は一度でも袖を通したら洗いに出さなくてはいけないので、袷のきもの以上に手入れが面倒。絽の洗えるきものは、その点ですごく役立っています。
暑いかと聞かれたら、もちろん暑いですね。それでもやわらかものを着たほうがよさそうなときに、私は絹物と化繊を天気や状況に合わせて両方を使っています。

上布は着たことがありませんので、そんなに体感温度が違うものなのかと興味津々なのですが、「化繊だから暑い」「浴衣だから涼しいわー」ってことは、正直なところ感じません。個人的な感覚ではどれも暑いんだもん。浴衣を着るときも、あしべ織汗取り+半衿をつけた長襦袢(居敷当て付き)+足袋なので、そりゃ当たり前かもしれません。

麻の襦袢を着るとひじ裏や膝裏の肌当たりがシャリっとしますから涼しく感じますけれど、胸とウエストあたりはあしべ織汗取りで覆われていますから、そこら辺りの暑さは五十歩百歩じゃないでしょうか。浴衣を肌着だけで着たらかなり涼しいのかもしれませんけれどね。

それより、洗えるやわらかものはメンテナンスフリーなので、臆せずにきものを着られるメリットのほうが大きいのです。汗をかかないために水分をとらないなども私には無理な注文で、ビールや麦茶だってバンバン飲んじゃっても、全然気を遣わなくてよくていいですね。世の中には大枚をはたいてサウナスーツを買われる方もいるわけですから、暑くて結構、ダイエットにも最高、と思っている私です。


ところで、じつは先月、京都の呉服店・ぎをん齋藤の夏物を見せていただく機会を得ました。今日は、前回予告したとおり私の夏帯のお話をするつもりでしたが、趣を変えて、京好みの夏のきものについてお話を展開したいと思います。

ぎをん齋藤は、古美術店が立ち並んでいる祇園の新門前通に暖簾を掲げる老舗呉服店。ご主人の齋藤貞一郎さんが、遼代の古代裂や、桃山・江戸時代の辻が花などの名物裂を蒐集されていることでも有名です。
こちらの澄んだうつくしい色柄の染めものはすべてオリジナル商品ですし、齋藤織物という自社の機工場で帯も自前で織っています。齋藤織物では、古代名物裂コレクションからヒントを得たすばらしい織り帯を手がけていて、そのクオリティーの高さは目を見張るものがあります。

自前できもの(染め)と帯(織り)の両方ともをつくっている呉服店は、私が知っているうちでは、ぎをん齋藤しかありません。創造性の高い商品を自分のところでつくって販売するのは、売れなければ在庫の山なので商売のリスクがすごく高いわけですが、客側は手の込んだ佳品を抑えめの価格で購入できます。
私がこちらの商品を見て、「これだけのものをこんな価格で」と驚かされることがたびたびあるのは、ひとえにぎをん齋藤がお客さまの側に立った物づくりをしているからだと思います。

「うちが得意とするのは、やはり少しあらたまったおしゃれです。夏にきものを着るのはたいへんだと思いますが、こんな暑さだからこそ、きもの姿は目を惹きます。夏こそ透明感のあるきれいな色にチャレンジしてほしいですね」と、ぎをん齋藤スタッフの宮林渉さん。

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柄の長い唐扇(とうせん)風の柄が洒落ている竪絽の付下げ。一般的に京都の呉服店は、「都ブルー」ともいうようなきれいな水色のきものを多く扱っている印象があります。これも微妙な色加減がなんともいえません。


今夏は夏大島に染めや刺繍の加工をほどこしたものも豊富だといいます。
「ここ近年の傾向ですが、『紬』や『ちりめん』といった単純なものではなく、『紬ちりめん』や『変わり織り』といった、染めと織りの中間みたいな地風に興味を示すお客さまが増えてきました。夏大島の加工品などは、そうしたお好みの延長線上にある商品といえるかもしれません」

このところ私もずっとその傾向を感じています。
それは、おそらく着る側のおしゃれが複雑になってきたからかもしれませんね。いろいろなシチュエーションが略式になったり、ドレスダウン的な着こなしのほうが時代を反映したおしゃれとして見なされるケースがあるからでしょう。
ぎをん齋藤のみならず、他店でもこうした傾向の作品を見ます。
染めもの的な織り、織物的な染めのような商品は、夏物に限らず袷のものでも、もっと増えていくような感じがします。

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上左=胡粉で立涌を、銀箔で菊をあらわした付下げ。地は細かな縞の夏大島。染めをほどこしてからこれらの柄を加工しているのですが、染め感覚の織物といった趣です。
上右=胡粉でつばめを描いたのちに、鳥の頭の一部などに刺繍を入れて、立体感をほのかに表現しています。銀箔を雲形に蒔いた軽快な印象の付下げ。
下左=やはり夏大島が地。銀コマ刺繍で水玉と渦巻きを散らしています。「染めでよく使うのは絽の生地ですが、ベースを夏大島にすると仰々しさがなくなって軽く着られます。ちょっとしたお出かけに最適なんですよ」。
下右=生紬に近い風合いの紗に大きな水玉を絞った小紋。独特のシャリ感があります。


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夏大島を染めた地に、抜染で蛍ぼかし加工をほどこしたもの。


上記の反物も含め、これらの作品を見せてもらうと、手間がかかっているなと思います。ふつう織物といえば先染めですから、織り上げたら完成。けれどもこちらのお店では白無地の夏大島を好みの色に染め、なおかつそれに加工を施して染めもののようにして柄をつける。自分のところのお客さまの好みに合わせ、なおかつ時代の空気をも取り込んだ独自のきものをつくっています。

また最近は、お茶会のようなシーンからお出かけに多用できる軽めの付下げが、お値段的にもおすすめなのだとか。付下げはこのところずっと人気ですね。しばらくこの流行は続きそう。

今回は、きものを中心に見せていただいたので、帯の写真をほとんど撮ってこなかったのが心残りでした。
こちらのお店の名物といえば御所解の染め帯。茶屋辻や花筏などを絡ませた「変わり御所解」柄もさまざまあります。「冬は黒や濃グレー、焦げ茶や小豆色などのこっくりとした地が好まれますが、夏の御所解の一番人気は白です。すっきりとさわやかに着こなしてほしいですね」と宮林さん。

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左=御所解は、地色に対して白あげ(文様の輪郭の内側を白で表すこと)で柄を構成するのが王道ですが、白地の御所解は友禅で仕上げます。そのため友禅を活かすために刺繍は金コマ刺繍のみ。ご希望によって色糸で刺繍も追加できます。
右=夏大島の地に描いた染め帯。アザミや蛇の目垣のモチーフに、水辺の風景を描いています。このような細かな表現ができるのは、夏大島が紗よりも目が詰んでいて絵が描きやすいからでしょう。


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ぎをん齋藤の夏の長襦袢は、絹の紋紗を提案。絽の長襦袢より肌にべたつかないのだそうです。「真っ白もよいでしょうが、表地に透けない程度に染めた淡色も女性らしいですね」。これは萩柄の紋紗で、薄いラベンダーピンクを横段に染めたもの。



今日は、ぎをん齋藤の宮林渉さんをゲストにお招きして、夏のきもの選びのお話を聞かせていただきました。
個人的な夏帯については、またの機会にお話できれば幸いです。

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