date: 2009年06月03日

subject: きものをお直しに出す前に

from: 植田伊津子



さて、6月は「きもののやりくり」について考えたいと思います。先月後半よりお手入れについて私たちは話し合ってきましたけれど、お手入れの延長線上に「きもののやりくり」があるような気がします。
こまめに手入れをして上手に保管をすれば、長く着られる衣類が「きもの」。リサイクルきもの店や知り合いから手に入れるケースも多いでしょう。そういう私も、古いきもののやりくりに頭を悩ますひとりです。

私がきものを着はじめたときに、幸いにも身内から箪笥2棹ほどのきものをもらいました。おおいに助かった反面、これらを着心地よくするために、あらゆるお直しにチャレンジしてきました。ですから、この年齢にしてはかなりのお直し体験者ではないかと自負しております(^_^)。今月はそれらの体験が大いに役立ちそうなテーマですね。

古いきものを手に入れたときに、まず皆さんならどうされるでしょうか。いきなり、お直しに出されます? でも胴裏や八掛もきれいなものをお直しに出すのはちょっと……という場合がありますよね。私は以下のような流れで、数年にわたって手直しをしていきます。

1、許容範囲内のサイズで、よほど汚れてなければ、そのまま着る。
2、しばらく着倒した後、洗い張りに出す。
  (ここで染め替えなどの加工をほどこしたりすることも)
3、胴裏を新調し、八掛を自分好みの色に変え、自分サイズに仕立て直す。

許容範囲内のサイズかどうかは、Myサイズについて知っておかなければいけません。きもののサイズでとくに重要なのは身丈と裄ですね。身幅もポイントのひとつですが、こちらは極端に太っていたり痩せている人でなければさほど気にすることはないと思います。
まずは、自分がいちばん着やすいきものの身丈と裄を計ってみましょう。

身丈の寸法は2通りあって、背中心の衿の付け根から裾まで計る場合と、肩山から計る場合とがあります。背から測って4尺2寸の場合と肩から計って4尺2寸では、繰り越し分の寸法によって、若干長さが異なってくるはずです。どちらの寸法を覚えていてもよいのですが、背か肩かを記憶しておきましょう。

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背中心の衿下から計ると繰り越し分だけ短くなります(左)。肩山から計っても(右)。


裄寸法は、背縫いの最上部から肩先を通って袖口までの寸法を指します。裄は、手を45度くらいに上げて、背中心から肩骨を通って手首のくるぶしまでを採寸しているはずです。
私の場合はならば、身丈は背から4尺2寸(159.6cm)、裄は1尺8寸5分(70.3cm)。この寸法は、忘れないように手帳にメモしておきましょう。

これで古いきものの身丈・裄を計れば、すぐに着られるきものかどうかがすぐにわかります。けれどこの寸法控えがなくても、仕立て上がりのきものを羽織れば容易に判断がつくでしょう。私のチェックポイントはといえば……。

・羽織ってみたときの裄が、手首のぐりぐりよりも3cm以上短い。
・身丈の寸法が自分の身長(163cm)より3cm以上短い。
・前を合わせたときに、両腰骨のぐりぐりよりもかなり狭く合わさる、反対に深く合わさって巻き込む。

このような場合は、よほど気に入っていないかぎり、仕立て直しが必要と思われますから、買うにしてももらうにしてもちょっと躊躇するかも。

しかしそれが自分好みのもので、どうしても手に入れたいなら、裄や身丈などが余分に出せそうなのかを再度確認します。
リサイクルきもの店での話なら、店の方に縫い代がどれほど縫い込まれているかを見てもらうとよいでしょう。ほどいて中が見られると安心ですが、表側から触って縫い代の厚みを確認することもできます。けれど私も含め、専門家以外の人はわかりにくかったりもします。
ただ昔のものはたいがい小さくて、縫い代を出せない場合がほとんどです。

昔の人は小柄でしたが、今は身長が160cm以上の方もざらです。きものの幅も、昔は30cm前後のものがめずらしくありませんでした。実際、手許にある少し昔の麻のきものの布切れの幅を計ってみたところ32cm。今のきものの反物幅といえば、37、8cmが標準となっています。

幅の短い反物でつくられたきものは、寸法をいっぱい出して裄を調整しても、小柄な方以外は残念ながら着るのがむずかしいのです。けれど、身丈が足りない場合には、おはしょりで隠れるところに別布を足す「胴継ぎ」という方法で解決することが多いですね。

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胴継ぎしたお古のきもの。胴継ぎはふつう、掛け衿を外して、きものと同布を継ぎ合わせることが多い(きものは、衿本体の上に同布の掛け衿をつけているものです。掛け衿を胴の継ぎ布に利用したときの本体の衿は「見せかけ衿」にして、掛け衿がかかっているようにします)のですが、これはそうできなかったので、違う布を継いでもらいました。きものを着ておはしょりを整えたら、接いだところが隠れます。


ところで、許容範囲内のきものといっても自分寸法でないものはやはり着にくい。という場合は、少々のことでしたら私は着付けでカバーしています。
きものは、着付け方によってスタイル調整できるところがおもしろいところですよね。

たとえば丈が短いものなら、「腰紐を結ぶときに下目に結んで、おはしょりの寸法を出す」。裄が短いものは、「広衿を折る際、半分に折るのではなく、表側を少し広めにとって、衿を遠目に合わせる」。そして、身幅が足りないときは「下前を浅くとって加減し、上前はきちんと重なるように」などの工夫ですね。

といってもわずかな寸法を加減するための工夫ですから、根本的な解決ではありません。けれどせっかくきれいなお古ならば、ちょこちょこと着付けを工夫して、数シーズンを充分着てから洗い張りに出しても遅くありません。賢いやりくりをしていきたいですものね。

今月はブログをお読みの読者の皆さんから、きもののやりくりのお悩みをぜひうかがいところです。私たちがお答えするのがむずかしい内容なら、お仕立てのプロの方のところへ出向いて代わりに解決法を聞いてまいります。悩める子羊の皆さん、どうか気軽に質問をお寄せくださいませ(^_^)。

date: 2009年06月05日

subject: 裄丈のお直しと対策

from: 佐藤文絵



植田さん、箪笥2棹とは、なんとまあ。すばらしいです。
だけど身丈が4尺2寸、裄が1尺8寸5分ならば、普通だとなかなか難しいですよね。お身内の方々も、お背が高かったのでしょうか。

かくいう私のベスト寸法も、身丈が肩から4尺4寸、裄が1尺8寸5分。
身丈はウエストで腰紐を結んだときの長さにしていますので(腰骨よりウエストで結ぶ方が好みです。腰骨は安定するけれど、帯より下に腰紐があるのが落ち着かなくて)、腰紐を腰骨に下げれば4尺1寸くらいまでなら十分着ることができます。
裄のほうは、1尺7寸5分あればなんとか。ちょっと短めね、という印象にはなりますが“つんつるてん”ではない。むしろ活発に動くときは、このくらいのほうが何かと動作がしやすかったりします。
つまり私の場合は
・身丈=ベスト寸法−3寸(約11.5cm)まで
・裄丈=ベスト寸法−1寸(約3.8cm)まで
が許容範囲です。

とはいえ、裄丈は長襦袢と揃っていないと袖口から飛び出してみっともないことになるから、本来ならマイ寸法に直したいところ。きものを着始めたころはお直しに何度か出しましたが、最近は自分で直すことも覚えました。ちょうど今、単衣のお稽古着をチクチク中です。

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中古品からみつけた「きもの英」の洗えるきもの。そのままでも着られないことはないのですが、やはり直すことに。裄だけでなく、袖丈直しにも初チャレンジ。左=重ねた下のほうは直し済み。右=縫い目はこんな感じ。袖付けにはきもの特有の「キセ」がかかっています。


これはもっとも簡易的な「袖付けのみ直す」やり方。仕立屋さんのお直しメニューには、袖を完全にはずして袖巾を全て直すやり方や、肩幅もしっかり出すために脇縫いから直すやり方など、いくつかパターンがありますよね。

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このやり方で、かつ単衣のきものなら、わりと簡単にできると思います。和裁の「わ」も知らない私ですが、自己流でやってみました。もとの縫い目をよく観察して、同じように戻せばいいのです。そう綺麗にできるわけではないけれど、いずれマイ寸法に仕立直すときまでのことだから“だましだまし”。

ただしこのきものの場合、反物の巾が9寸5分しかなく、ぎりぎり出しても1尺8寸5分には届きませんでした。こういうことはままあります。そんなとき、重宝するのは「大うそつき」。

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長襦袢を、半襦袢・袖・裾よけの3つに分割した通称「大うそつき」。「京都きもの市場」で購入、袖と裾よけの素材は麻の楊柳(ジョーゼット)。マジックテープで袖丈を調整します。柔らかものの下に着ると、袖付けのあたりが多少もたつきます。でも紬や麻ならあまり気になりません。


いつもの長襦袢を着たい場合は、袖を少しつまんで軽く縫うとか、安全ピンで留めるといった工夫をしますよね。私もいろいろやってみたけれど、最近はこんなふうにしています。

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前袖と後袖にひとつずつ、詰めたい長さの分だけこんなふうに留めます。外すときは、生地にひっかかりがちなので、そっと扱いましょう。


針や安全ピンで穴を空けるのはできれば避けたい。できるだけコンパクト、そしてカンタンに使えるのがいい。ということで文房具店にある「CLIPPIE」を使いはじめました。CLIPPIEは「ガチャック」の亜種というところでしょうか。本体は要らない、手だけで使えるタイプです。
これがね、なかなか具合がいいのですよ。

date: 2009年06月08日

subject: 違うアイテムとして生まれ変わる

from: 樺澤貴子



植田さんの箪笥2棹には及びませんが、私のワードローブも母の箪笥から持ち出したものを含めると、実は半数以上が頂いたきものや骨董店のきもの展などで求めた古いきもの。おふたりのアイディアや工夫、寸法や仕立てについての考え方は大いに参考になります。それにしても佐藤さん、裄丈をご自分で直してしまうなんて!本当に尊敬します。

今月のテーマを好機に、私も手元のきものの「やりくり」を真剣に考えたいと思います。そこで、まず各アイテムの身の振り方を考えてみました。
1.<きもの>→自分寸法のきもの、羽織、コート、付け帯
・・・・・・きものはもっとも汎用性がありますね。

2.<羽織>→自分寸法の羽織、付け帯
・・・・・・羽織からきものに仕立てることはできないので、選択肢はぐっと狭まります。

3.<コート>→自分寸法のコート、衿のデザイン変更
・・・・・・コートはつい丈のため、着丈が大幅に合わない場合はアウトですね。二部式コートの腰巻くらいには再生できるのかしら?衿のデザイン変更は、もとの衿の形にもよります。道中着仕立てならデザイン変更の幅が広がりますが、逆は難しいですよね。

4.<染め帯>→付け帯
・・・・・・洗いに出してそれでも汚れが目立つ場合は、きれいな部分をいかして付け帯に。胴に巻く手先の部分は、外から見えない一巻き目に違う生地を用いれば、限られた分量でも付け帯にすることができそうです。

本日は1と2の話題についてお話したいと思います。まずは、<きもの→自分寸法のきもの>のエピソードを。私のサイズは、着丈:4尺2寸、裄丈:1尺7寸5分、袖丈:1尺3寸なので、ありがたいことに大手術するものは少なく着付けや長襦袢の調整で事足りる場合が多いです。

今回ご紹介する大手術が成功したきものは、数年前にきもの好きの間で有名な新井薬師の骨董市に連れて行ってもらったときに、一目惚れをした一枚。一見して何紬かわからなかったので、行商のおじさんに訊ねると「たぶん高機の結城だから1万円でいいよ」とのこと。焦げ茶地にクリーム色とこっくりとした赤の十字絣が愛らしく、さっそく羽織ってみると丈も裄もかなり小さくてガックリ。それでも諦めきれず、つい丈でカジュアルに着てもいいし、コートに仕立て直してもいい!と覚悟を決めて購入。

さっそく知り合いの呉服店に相談すると「あら、これ結城縮じゃない。貴重ね〜。状態もわるくないわ」と言われ、素性が「たぶん高機の結城紬」から「貴重な結城縮」に格上げされると、現金なものできものとして着たくなりました。そこで、植田さんがご紹介していたように胴継ぎをすることに。しかも、着丈がかなり足りなかったので4寸2分も胴継ぎをする結果に。継ぎ布は同系色のものを選ばず、あえてコントラストをつけてみました。というのも、以前、継ぎ布をわざとチラリと見せて紬をきているきものの熟練者にお会いしたことがあり、その遊び心がこなれた印象で格好いいと感じたから。私の年齢でそれをやるには早いかもしれませんが、グレーヘアになったら「継ぎ布のチラ見せ」スタイルを試してみたいと目論んでいます。

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洗い張りをしたら糸にハリが戻ったようにシャッキリとし、生地そのものも蘇りました。継ぎ布は黒をひと色抑えた墨色、八掛けは絣の色に合わせて蘇芳色をチョイス、古いきものが若々しい表情に!ちなみに、裄はギリギリ1尺7寸2分まで出す事ができました。


続いて<羽織→付け帯>のお話を。年配の方から譲っていただいた羽織のほとんどは、お太鼓の垂れがやっと隠れる程度のショート丈。元の持ち主との身長差は2〜3cmしかないため、当時短い羽織が流行っていたことや、ただ単にその方の好みであることが考えられます。私の今の気分としては膝丈くらいが好み。短いものは、長くしようがないため、羽織として着ることは断念し、付け帯に仕立て直しました。

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左:もとは総柄小紋羽織だったもの。総柄の小紋地は、帯の柄付けに迷うこともなく、胴前もたっぷりと華やかな柄付けになります。右:もとは絽の絵羽織。かなり汚れが目立ったため、染み抜きや洗い張りの下ごしらえに手間取りましたが、涼やかな風情ある帯として蘇りました。柳の枝が胴前の部分で横になってしまうのですが、そのくらいはご愛嬌ということで。


最後に私の愛用する付け帯の仕立てのディテールをご紹介します。付け帯には
A.二部式でお太鼓の形が出来上がっているもの
B.二分式でお太鼓が形作られていないもの
C.帯を切らずに使い、お太鼓の形が出来上がっているもの
という3タイプに分けられます。(他にもあるかもしれませんが、私はこの3つしか知りません。その他のタイプをご存知でしたら教えてくださいね)

私は小唄の師匠の影響からAのタイプを愛用しています。手先の部分は開き仕立てにして、少し幅を広めにして巻いています。

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左:お太鼓部分は、出来上がりのお太鼓サイズよりも帯枕ひとつ半くらい縦長。背にあたる面の両耳の上部が内側に折り込んだ状態で縫い留められています。右:帯枕を背中側に巻き込むようにセットすることがポイント。着付け終わったあとは、お太鼓の姿が奴さんにならないように、お太鼓山の内側の両耳の部分(写真でいう左端の耳の部分)を下にひっぱり、ゆるやかな曲線になるようにします。


さらに、付け帯を締めるときに欠かせないのが、帯枕を支えるための小道具(結ばないお太鼓派の方にもおすすめです)。インターネットの和装小物サイトを検索すると、さまざまな形状のものがあります。私は通常のお太鼓用と、少しお太鼓を高い位置に固定したい場合の小枕付きの2種類を使い分けています。

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左:私が愛用しているのは大叔母から譲られたスチールタイプのもの。右:最初に着付けを習ったハクビ京都きもの学院の着付けセットに入っていたものです。*どちらも、同類のものをネットで探せませんでした。すみません(._.)



date: 2009年06月10日

subject: 帯のやりくり実例

from: 植田伊津子



なんだかこちらの想像以上に、皆さんから「引かれている」みたいですけれど、箪笥2棹といっても、普段着のウールやポーラ、性能アップ前のバリバリとした感触のポリエステルのきもの、褪色気味のきもの、上っ張り、長襦袢、「誰が締めるの。そんな帯!」というものも含めてなのですから、お恥ずかしいかぎりなのです。どうか誤解なきようお願いします。

前回、樺澤さんが羽織を付け帯にしたものをいくつかご紹介くださいましたので、今日は私の帯のやりくりの実例を上げてお話をしたいと思います。


帯→帯へ
[Case 1]
このなごや帯は母からもらったもの。白地に銀糸で有栖川文様が織り出されたもので、長さは3メートル60cmほどです。高価な品ではありませんが、こうした伝統文様はお茶の用向きに役立ってくれますから、できることなら潰さずにそのまま締めたいと思いました。
古い帯は長さが3メートル20〜40cmという短いものもあって、それらはそのままだと長さが足りません。現在は、なごや帯なら3メートル70〜80cmだからです。この帯はそれほどでもありませんでしたが、どうしても短いときは別布を入れて長さを足したりもします(およそ5000円前後です)。

もらったときに確認したところ、シミはなかったものの、白地全体が汚れと日焼けで、ほこりっぽい状態で黄ばんでいました。京のお手入れ処・土本に「ダメもとの帯です。どういう方法でもよいので、とりあえず白くなるようにしてください」「ついでに開き仕立てに変えてもらえます?」と相談しました。
解いて洗い張りして5000円、焼けを抜くのに5000円、整理直し(布地をまっすぐにする)3000円、開き仕立て(芯を新しく替える、芯代込み)9000円、計2万2000円でした。
その他、銀綴れ帯を丸洗いしたものは4000円、同じく白地の袋帯の丸洗いなら4000円ほどでした。

【Point】白(淡色系)の帯でも洗えたら生き返る。いろんな悉皆処、お手入れ処があるので、そういう注文が可能か聞いてみるべし。


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左=変わり襷に鹿の意匠の有栖川文様。お茶の世界の名物裂に由来した文様です。右=織り幅が少々狭かったので開き仕立てにして、前の腹部分を加減して出せるようにしました。そのほうが私の場合、着付けのバランスがよいからです。元の筋が残りましたが、さほど気になりません。


[Case 2]
きものを着はじめたころは、袋帯を締めるのが苦手でした。この帯は、写真をご覧になってもわかるとおり、インカ文様風のしゃれ袋帯です。こういう柄は、お茶会ではなくお稽古やお出かけに頻繁に締めたいのに悪戦苦闘の日々。
もらいものならではの気楽さで「切っちゃおう」と、付け帯にしました。
ランドセル型に成形したお太鼓の中に、手づくりの帯枕もつけてもらいましたから、胴回りの腹帯を巻いて、これを背負いさえすればよいのです。簡単ラクチンな一品です。帯枕込みの仕立て直しで4万円でした。一衣舎さんの仕事です。

【Point】帯を締めるのが苦手なときに助けてもらった付け帯。もらいものやリサイクル品の帯こそ、付け帯にして上手に活用。


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誤算だったのはこの形は収納に場所をとるのです。お手製の帯枕も縫い付けてありますから、ペタンとしまえません。けれど1分ほどで帯が締められるのですから、袋帯が憂鬱な時代の救世主だったと思います。右=ランドセル型の裏中央に小さなヘラがついています。これに腹帯を引っかけて固定します。



羽織→帯へ
[Case 3]
祖母の持ちものだったものの中に、格別見どころのない無地紬の羽織がありました。裄が短いのはもちろん、茶羽織なので身丈も短いのです。羽織として再生するのがむずかしいとなれば、帯につくりかえるのが常套手段です。
そこで洗い張りをして、ふつうの無地なごや帯にしようと思ったのですが、一衣舎の木村さんのアイデアで正倉院文様風の柄を型染めしてもらいました。地色より濃色の柄を染めることによって、布に複雑な表情が生まれました。この頃から付け帯をつくらなくなってきたので、締めて隠れるところを接いでもらって、長いなごや帯にしてもらっています。

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柄は全通ではなく、六通の柄付けです。腹と太鼓のみに柄を置いてもらい、なるべくコスト削減。ですからタレには柄がありません。洗い張り、型染め、ハギ入れ(帯芯代含む)で5万円強でした。

【Point】無地紬の羽織などは、それがつまらない紬であったとしても、よい「ベース」となる。ただし、こういう加工のアイデアは、経験豊かな方が相談相手(悉皆、和裁士、呉服屋)でないとむずかしい。


[Case 4]
伯母がその昔使っていた絵羽の羽織がたいそう汚れていました。汚れているといっても、絵羽ものは普通の羽織よりは上等ですから、できればきれいに洗って仕立て直しをし、再び絵羽羽織として着たいと思っていました。ところが寸法的にNG。そこで京都の帯の製造卸の帛撰に相談をして、なごや帯に仕立て直しました。
ぼかしは元々入っていたものです。刺繍や手描きの墨線を考えると、何か別の色を掛けたりせずに、現状をそのまま生かしたほうがよいと判断しました。絵羽の羽織を帯にする場合、柄付けの関係でお腹の部分の柄が横になります(前回の樺澤さんの柳の付け帯もそうですね)。

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左=水仙、梅、菖蒲、菊、紅葉、竹などの四季の花が描かれた絵羽の柄を最大限生かして、あちこちパッチワークしてもらいました。タレ下の継ぎ目がわかるでしょうか。右=いろんなところに継ぎの縫い目があります。和裁士さんから「こんなに継ぎ接ぎせんと、付け帯にしたらよいのに」とぼやかれました。加工代は芯代を含め、2万5000円強。

【Point】昔の大柄な絵羽羽織は見違えるほどよい帯になる。メインのお太鼓部分や、横に流れてもおかしくないように前腹の柄をよく考えて。


[おまけ Case 5]
昨年「なるほど! これはいいアイデアだな」と思って購入したアンティークの本麻の帯です。
感心したのは、この帯が昔の男性の麻羽織を加工してつくったものだったからでした。昔の男性用麻羽織を骨董市やインターネットのオークションでもたくさん見かけますが、いくら男性ものといっても、今の女性には小さいサイズが多いのです。
これは、糸や色に味のある状態のよい古い麻羽織を、解いて洗い張りをし、小さな穴が開いているところはふさぐなどして、なごや帯にしていました。ですから前腹の隠れるところには、男性用の大きな日向紋が残っていたりします。

【Point】麻は絹にくらべると耐久性があって丈夫。昔の麻は、糸に味わいもある。女性用のなごや帯につくり直したら、無地でも充分カッコイイ。


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これは灯屋2の夏の展示会で見つけました。灯屋2さんは、きもののやりくりに一日の長のあるアンティークきもの店。というのも、アンティークをそのまま売るのではなく、加工をほどこしたり仕立て直したりして、新しい命を吹き込むべく手間をかけているからです。こちらのアイデアは、個人的なきもののやりくりに参考になるものが多いですね。写真の腹部分の日向紋も、締めてしまえば隠れますから、問題ありません。アレンジの発想力に惹かれるお店のひとつです。これはたしか2万6000円ほどでした。




date: 2009年06月13日

subject: 対丈のきものを綺麗に着る

from: 佐藤文絵



見事に生まれ変わった帯の数々にわたしはびっくりしてしまいました。なんということでしょう! 樺澤さんの柳の帯は本当に涼やかで美しく、植田さんの型染も四季の花の元羽織も、どれもこれも、それぞれ感想を述べたいくらい。すばらしいです。
これからアンティークの羽織を見る眼が変わりそう。羽織はサイズ的に着られるはずもなく、手に取ることもありませんでした。でもこんなに素敵に変身できるなら。夢がふくらみますね。

おふたりとも書いてらしたとおり、きものや羽織を帯に仕立てる際は、柄出しが大事なポイント。型染めの小紋を帯に仕立て直したわたしの帯、気に入って締めているのだけど、お太鼓柄にちょっぴり心残りがあるのです。

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左=普通に締めるとこんなお太鼓になります。これも悪くはないけれど…。 右=願わくばこんなお太鼓にしたかった。赤と黄色の松がアクセントになります。左のパターンだと松が逆さになるから、隠さざるを得ないのです。残念!


どの部分をお太鼓にするか、これは好みによるところ。「ここはぜひ出したい」と考えがあるならば、事前にちゃんと伝えるべき。これは次への教訓です。
それから、この型染め場合、洗い張りによって赤の染料が少し流れてしまいました。そんなに目立たないんですけどね、こんなこともあります。帯ならなおのこと、色糸から染料が流れ出す可能性は十分考えられますね。

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写真では分かりにくいけど、赤だけちょっぴり滲んだようになってしまいました。




さて、きものの話題を再び。将来は“胴継ぎ布のチラ見せ”と樺澤さんがおっしゃっていましたね。今まさにグレーヘアの母はこんなきものを着ています。

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きものは伊兵衛織の原型ともいうべき無地の「ざざんざ織」。とても力のある布です。袂は極端に短い船底型で、はてさてどうしよう、生地に心惹かれて買ったものの。しばらく思案していたようですが、洗い張りののち袂に同系色の別布を足して柄のようにお仕立てしていました。身丈も足りず、こっそり胴継も。
で、これがなかなか素敵なのです。こんな遊びができるのは年輪の成せるわざでしょうか。グレーヘアの強みですね。


それから同じく樺澤さんの“4寸2分の胴継ぎ”。これはかなりの長さですよね? わたしにも、できることなら5寸胴継ぎをしたい宮古上布があります。だけど5寸はさすがに厳しいかな。たぶん遊びが1寸もないくらいなので、つねに“チラ見せ”になりそうです。さらに夏ものゆえ透け感があるから難しいだろうと、対丈で着ています。

対丈はちょっとね。若い子ならいいけれど。そんな意見の方は多いかもしません。私もおおむねそんな気分です。それでも、着付けを工夫して綺麗に着ると「意外にいけるなあ」と思うようになりました。対丈だということを気付かれない場合も多々あります。

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対丈のきものを着てみて、はじめておはしょりの効用に気づかされました。おはしょりがあるから、衿もとが固定し、衣紋も抜きやすい。そして背縫いのゆがみなどを吸収するクッションの役割も担っています。おはしょりのない対丈は、紐でカバーしてあげないときれいに着られないようです。


まず、おはしょりがない分、いつもより腰回りの補正を多めにします。そして普通に腰紐を結びます。次に衿元がどうしてもはだけやすくなるので、普段は使わないコーリンベルトで衿あわせを固定。胸紐をすることで胸のあたりをすっきりさせ、胸紐と腰紐の間にたるみを集めて「擬似おはしょり」にします。そして最後にそのたるみを伊達締めで押さえます。紐が4本になるのは煩わしいのですが、これを省くと、かなり崩れやすくなってしまいます。

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左=腰紐の上にたるみが集まります。右=後ろも同様に。たるみを下に向けて、最後に伊達締めで押さえます。


それと、寸法上ぜひとも直しておきたいのは「褄下」(=衿下)。対丈で着なければならないほどの身丈ということは、褄下もかなり短いはず。長ーい衿先が帯の下からのぞくと、おはしょりがない状態だからなおのこと目立ちます。そして「短いきものを無理に着てるのね」という印象に。だから、なんとしても褄下は適正サイズに直したいところ。これだけで、かなりすっきりとした着姿になるのではないかな、と思っています。

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褄下はよく身長の2分の1の長さといわれます。でも足の長さ、帯の高さによって変わるはず。おはしょりにぎりぎり隠れるくらいがいい長さだと思います。


綺麗に着られるようになり、褄下の長さを直したら、対丈コンプレックスが解消。このきものに袖を通す回数がぐっと増えました。


さて、そろそろ「きもののやりくり」へと話が移っていくのかな。植田さんは帯だけでなくきものの染め替えをたくさん試みているのですよね。興味津々!楽しみにしてまーす。

date: 2009年06月16日

subject: 夏きもののやりくり(妄想編)

from: 樺澤貴子



植田さんの帯のやりくり、感動です! とても勉強になりました。ある素材をそのまま別の形へシフトする「やりくり」しか経験のない私にとって、新たな楽しみが増えました。染めをほどこしたり、少し刺繍を刺すだけでも、ぐっと表情が変わりますね。しかも加工費用は新たなものを仕立てるより、かなりお得。金額の目安も参考になりました。生かし方がわからずに、実家の“とりあえず”箪笥に眠らせているきものや帯、羽織を、改めて見直してみたいと思いました。

佐藤さんのお母様のざざんざ織のきものも素敵ですね。袂の別布や胴継ぎのグリーンのグラデーションが美しく、初めから趣向を凝らして誂えたもののように見えます。寸法はさておき、自分が心惹かれて求めたものであれば、思い入れたっぷりの魅力的なアイテムとして蘇るものですね。

夏物の対丈のきものは、宮古上布とのことでしたよね。大きめの飛び柄は背丈のある佐藤さんにお似合いになりそう。私は、対丈できものを着た事がないので、この着こなしの工夫は参考になりました。トルソーの登場で(笑)、着付けのポイントもわかりやすい!
佐藤さんの「できることなら5寸胴継ぎをしたい」という言葉に、長女・植田さんがメールで的確なアドバイスをしてくださいました。我々だけの密室トークにしておくのがもったいないので、皆さんにもご紹介したいと思います。

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佐藤さんの宮古上布の対丈のきもの


5寸(20cm)もの胴継ぎの場合、おはしょりの内側に接いだ部分を隠すことはたぶん難しいと思います。ちょっとはどうしても出ちゃうでしょう。けれど、掛け衿の布を前の衽と身頃の接ぎに使って、前は違った布が見えないようにしたらどうでしょうか。衿は「見せかけ衿」につくりかえます。後ろは、帯のタレの下になっちゃうんだもの。たぶん隠れちゃうわ。写真にあった無地場の多いきものなら、大丈夫のような気がします。

継ぎの布は、アンティークショップや弘法市で端布を買えばよいと思います。紺色は結構豊富にありますよ。無地っぽいものを選んだらよいですね。端布なら値段もそれほど高くないはずです。5寸の胴継ぎなら、用尺1メートルもあれば余裕でできますね。


さて、前段が長くなりました、今日は私の夏きもののやりくりについてお話させてください。といっても、これはきもの熟練者からのアドバイスで、現在は構想、いえ妄想段階。
皆さんは、夏の柔らかものを親類から譲られて、どうにも困った経験はありませんか? 夏場は汗をかくため、シミ率&変色率が高いですよね。柄付けは凄〜く気に入っているので、きものとして着たいという時は、まずシミ抜きにトライ。でも、大抵は頑固なシミが抜けきれず帯にしてしまう・・・というパターンが多いのでは。

そんな話をしているときに、とある呉服店の女将さんが「紗をかけて紗袷にしたらどうかしら?」と仰ってくださいました。見せていただいた紗は、淡いブルーグレーのもの。
これまでは黒や紫の紗袷しか見た事がなかったため、淡色の紗をかけるという提案がとても新鮮でした。後日、その女将さんと大寄せの茶会でご一緒した際に、お連れの方が、女将提案のブルーグレーの紗袷をお召しになっていたのですが、とても涼やかでエレガントでした。

この話の数年後、私の手元に一枚の付け下げが舞い込みました。

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納戸色におそらく葦垣と芝草を描いた、かなり渋い駒絽の付け下げ。垣根には、銀糸もほどこされています。


とても素敵な意匠で気に入っているのですが、納戸色という緑味のあるくすんだ青が、年齢のせいか肌色の系統が違うのか、顔移りが悪く見えてしまうのです。なんとか、コーディネートする帯でトーンアップを図るなど、あれこれ思案するものの、どれもしっくりこず。まだ一度も外出にまで至っていないのです(涙)。特に目立ったシミもなく状態も良好、サイズも過不足ないため、なんとかきものとして残したい・・・そこで、紗袷の話を思い出しました。そこで呉服店へ相談に行く前に、自分なりにイメージを膨らませてみることに。

用意したのは、納戸色に合いそうなチュール素材。付け下げに重ねてみると、こんなふうになりました。

[黒の紗をかける]
まずは、ベーシックな黒をチョイス。「どうせ作るなら、他にはない紗袷を作りたい」という欲があるため、黒は念頭に入れていなかったのですが、なかなかキレイですね。やはり黒は万能なのでしょうね。帯合わせもしやすそうです。でも、黒の紗+濃い地のきものは暑苦しいかもしれません。夏の黒を涼やかに見せるなら、内側の付け下げは淡いきもののほうがよさそうです。ということで、これは却下。

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向かって右手が紗をかけた状態、左奥が地色の状態。写真では納戸色の地色が鮮やかなブルーに見えますが、実際はもっとくすんでいます。実物の色に近づくように、カラーバランスをデータ状で調整してみたのですが、写真にバラつきがでてしまい・・・・・・ご勘弁を。


[茶の紗をかける]
夏の焦げ茶は白と合わせると、シックで涼やか・・・という発想で、茶を合わせてみました。思ったような焦げ茶のチュールがなかったのですが、それにしても少し色がにごりますね。これも、却下。

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[臙脂の紗をかける]
小唄の師匠が、臙脂の紗をかけた紗袷を着ていて、とても艶っぽく見えたので真似をしてみました。写真ではわかりにくいですが、肉眼でみると全体が紫のきもののように見えます。紫なら私の肌色に合うかもしれない!と、これは有力候補。白く染め抜いた柄行きも、ちゃんと存在感を発揮しています。


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[ブルーグレーの紗をかける]
紗袷熱の発端となった、ブルグレーの紗。もとの付け下げが濃色なので、淡い色合いの紗をかけると互いのよさを引き出してくれるようです。やはりブルーグレーはキレイです!

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[藤色の紗をかける]
実際、こんな色の紗があるのかはわかりませんが・・・・・・友人が藤色の紗の塵除けを着ていた姿がとても美しかったので真似てみました。さきほどのブルーグレーの時と同様、淡い色合いの紗+濃色の付け下げは合いますね。藤色の匂やかなニュアンスが、色っぽいかも。

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と、ここまで試してみて、ふと思ったのは紗袷を着られる期間の短さ。ルールでは、単衣から薄物、薄物から単衣へと移り変わる、わずか10日ずつ計20日しか着られません。かなりピンポイントで贅沢なきものとなります。・・・・・・う〜ん、となると躊躇してしまいますが、箪笥の中で眠らせているよりはよいでしょうか? もう少し熟考してみたいと思います。晴れて紗袷として生まれ変わりましたら、またいずれの機会にご報告を!

私のように妄想ではなく、ちゃんと「やりくり」を重ねている植田さんの実例、楽しみにしています。そのお話によって、私の付け下げも違う方向にいくやもしれません(笑)。


date: 2009年06月20日

subject: きもののやりくり実例

from: 植田伊津子


先日の樺澤さんの紗のチュール実験にはたいへん驚きました。紗の色目によって、これほど変わって見えるとは。手持ちの絽のきものなら……と、私も勝手に妄想しちゃいましたよ。

私自身、いつかは欲しいと思いつつも、紗袷のきものはいまだ持っておりません。樺澤さんの原稿にもあるとおり、紗袷は、6月後半の単衣→薄物、薄物→9月前半の単衣に切り替わる時期の、それぞれ10日間ほどに着用する贅沢なきもの。「絽+紗」、もしくは「紗+紗」の2枚を重ねます。紗と紗ともなれば、糸目がモアレ現象をつくり、複雑でおもしろい表情となります。
噂によれば、多少地に薄いシミがあるきものの場合、無理をしてシミをとろうとしなくても、紗袷にしたら隠れてしまうといいます。フィルター効果なんでしょうね。
色柄が派手な絽をもらったら、紗袷につくり替えてみたいと思います(^_^)。はい。

さて今日は、前回の帯のやりくり実例に引き続き、私のきもののやりくり実例についてご紹介したいと思います。お古中心の情けないワードローブを披露して、皆さんのお役に立つのだろうか、という不安がないわけではありません。が、お恥ずかしながら皆さんに見ていただければ、何かよい別のお知恵を授かれるものとも思います。


小手術
[Case 1]
私の場合、さほど汚れてなく、寸法もぎりぎり着られるようならば、しばらくそのまま着続けます。数年して汚れてきたり、八掛が切れたりしたら、「さてどうするかな」と判断するのです。
これは伯母からもらった板締め絞りに小花文様を散らした小紋。ある日、とうとう八掛が切れました。よいタイミングですから、こういうときに総点検。胴裏はまだシミもなくきれいな状態ですし、寸法も着られないことはない。表地のヤケだけ若干気になります。
私の年齢(42歳)からすれば、もう少しだけこのまま着てもおかしくない色柄だと判断し、表地のヤケを誤魔化す全体の染め替えは、次回に持ち越すことにしました。その結果、洗い張りをせずに、八掛のみを付け替えることにしました。

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八掛の色は前の色が気に入っていたので、再び同色にしました。写真上部にあるのが前の八掛です。ぼかし八掛の生地代と仕立代で2万円弱でした。


[Case 2]
これは知り合いからいただいた大島紬です。ほとんど袖を通されていなかったらしく、ほぼ新品でした。着てみると、身丈の寸法はOKでしたが、前幅・後ろ幅が多少狭いみたい。ご本人が痩せた方だったからでしょう。けれど、この程度なら着付けでカバーができますので、そのまま着ていました。ところがやはり古いきもののせいか裾がすぐに切れましたので、八掛だけを新調しました。これも洗い張りはしていません。
せっかくなら、ありきたりの朱系ではなく、これから50代に向けて、クールな色目の八掛にしたいと思い、自分好みの鈍色を白生地から染めてもらうことに。八掛染め代、生地代、仕立代で2万円ほど。

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写真上部にあるのが、前の八掛です。昔は、大島にさび朱の八掛を合わせたものでした。ぼかしではなく無地八掛ならば、切れたところをずらして、前のを再利用する手もありますが、これは生地が弱っていたので、安全を期して新しくしました。

【Point】自分の歳と雰囲気を考慮し、これからどんな風に着ていくのか、直していくかを長期的に見て、必要最小限のお直しからはじめてみる。



中手術
[Case 3]
袖にハギを入れて、袖幅を広くする
古いきものは幅や長さの足りないものが多く、あまりにも狭い幅だと、自分寸法に直したくても直せません。裄・丈が出ないのです。そういう場合は、袖にハギをいれたり、胴継ぎをして、寸法調整をすることもあります。

これは祖母から伯母、伯母から私のところへきた、絞りのきもの。戦前のものです。こんな味のある手絞りは今はもうないので、できるだけ再生して着たいと思いました。自分サイズにするために、袖に割りを入れて袖幅を確保し、なおかつ掛け衿をはずして同布で胴継ぎもしています。
洗い張り、八掛取り替え、袖と胴のハギ入れ有りの仕立てで、計8万5000円でした。一衣舎さんの仕事です。少々お金がかかりましたが、一衣舎さんのテクニック、こまやかな気配りが行き届いた仕上がりで、たいへん満足しています。

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左=矢印がハギのところ。このきもののように、ゴチャゴチャした小柄の総柄のきものは、割りを入れても紛れやすいのですが、この方法で無地や大柄のきものの幅出しをすると、ハギと袖本体との境目が目立つことがあります。その効果を逆手にとって、無地のきものに割りの足し布を柄物にして、デザインを強調する場合もあります。
右=裾部分。ご覧のように「抜け」がありますから、その当時はさほどよい手のものではないと思います。けれど、今はかえってそれが味わいになっています。

【Point】全部が全部、袖にハギを入れてよいものでもない。入れておかしくない柄というものがある。ハギが入れられない狭い幅のものは、帯や襦袢に仕立て直すことも。


[Case 4]
胴継ぎをして、身丈を伸ばす
伯母の泥大島です。今こそ小さな柄の大島が流行っていますが、この大柄は長身の伯母に似合っていました。もらって数年間、そのまま着ていたところ、これも八掛が切れました。胴裏もシミが浮き出て弱っていたので、思い切って表地を洗い張りし、胴裏・八掛を新調して総取り替えすることに。そして自分寸法にも仕立て直しました。
もともと伯母が着ていた時代から胴継ぎをしていましたけれど、私はさらに生地を足さないと身丈が足りません。その結果、後ろは4段もの胴継ぎ、前も2段の継ぎ接ぎだらけ。けれど腰紐を締めて、帯を締めたら、継ぎ目はほとんど気になりません。

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左=矢印が上前のハギ部分。4寸5分(17cm)接いでいます。胴継ぎの場合、一番気になるのは上前のおはしょりだと思います。ここの継ぎ目が、おはしょりの中や帯の下に隠れるようにしてもらえばよいですね。右=怒濤の4段接ぎ。6寸4分(24cm)接いでいます。4段目だけきもの生地が足りず、別布を使いました。きものおたすけくらぶの期間限定お仕立て特別サービスを利用して、洗い張り代、胴裏代、仕立代(複雑な胴継ぎ含む)で2万5000円ほどでした。これもとてもむずかしい胴継ぎだと思うのですが、ていねいな仕上げに驚きました。また限定サービスとはいうものの、これはかなりお安いと思います。
八掛は自前で用意しましたので、八掛代は上記に含みません。

【Point】胴継ぎもまったく怖くない。ただしはじめて胴継ぎをするときは、腰紐の位置を事前に和裁士さんに確認してもらうほうが安全。ウエストか、それとも腰骨かの腰紐の位置によって、接ぎ目の出方がまったく変わってくる。



大手術
[Case 5]
色無地の染め替え
お茶を嗜むわが身内のきものは、色無地やぼかし、江戸小紋、蒔き糊などの無地感覚が中心で、もちろん今も私がそのまま活用しているものもあるわけですが、お下がりは古色然とした印象が否めません。
ハードに着ているために色褪せたものが多かったので、徐々にいろんな色に染め替えたりしていました。色無地は染め替えのしやすいきものといえるでしょう。
染め替えには、元の色をいったん抜いて新規に色を染める方法と、元の色の上に色をかける方法があります。脱色しても、たいがいの場合、内側の縫い代と表地の差、ヤケの跡が残ります。私の場合は脱色をせずに、そのまま上から色をかける方法が多いですね。

さて、これは伯母の色無地を染め替えたもので、ちょっと変化球の再生品。元は青磁色の抜きの一つ紋付きの色無地ですが、青系統の色味は日焼けしやすく、客観的に見てかなり重症でした。しかし生地はまだコシもあって、上手に染め替えればもう少し着られそう。
色無地→色無地ばかりではおもしろくありませんので、ほたる絞りの小紋にチャレンジしてみました。

今のヤケた青磁色をベースとし、それよりもっと濃色をかけたら、ヤケもほとんど気にならないのではないかと考え、黄味のある松葉色をかけようと思いました。染め直しを手がけたのは、京都の呉服製造卸の「染めのみずぐち」。このエピソードの詳細は、以前、こちらに書きましたので参照ください。
ここは染めものが得意な卸業者で、悉皆の人に指示を出して、染めの着尺や染め帯を製作しています。私自身は想像以上の出来映えに喜んでいますが、さていかがでしょうか。

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左=ハリの強い生地にほたる絞りをほどこすのは、本来はとてもむずかしいのだそう。シワっぽい絞りになりやすいからです。けれども工夫をして、きれいな丸い絞りに調整してくださいました。写真ではほたるのぼかしが消えて、水玉のように写っていますね。
右=私の注文は「おとなのほたる絞り」。絞りをほんの少し小さくして、そういう印象に。八掛は表地と同色に染めてもらいました。ホタル絞り加工、仕立て代、八掛・胴裏代(八掛の染め代含む)で、およそ8万円ほどでした。

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元のきものと、松葉色の染め見本。絹地の染めを指示するときは、私はいつも絹糸の染め見本をつけます。出来上がりのイメージにおいて、染め違いを少なくする工夫ですね。

【Point】色無地は染め替えのしやすいきもの。色無地→色無地ではなく、加工をほどこすことも可能。色無地をつくるときは、最初が薄色であれば、のちに中間色や濃色に染め替えてもおもしろい。よい白生地を選んで、ずっと楽しみたい。


[Case 6]
江戸小紋の染め替え
江戸小紋はポピュラーなきもののひとつですが、染め替えがむずかしいように思います。というのも、江戸小紋を染め直すと、細かな柄が消えて「ただの無地」にしかならないからです。
さて、母がつくってくれた朱地の鮫小紋の話です。昔、母がお茶のきもの用に1枚誂えてくれたのですが、何を勘違いしたのか、次の年にまたもや同じ色の鮫小紋をこしらえたのでした。2枚とも私が大学生の頃につくったものですから、約20年選手のきものです。

同じ色、同じ柄の鮫小紋が2枚あっても……と思い、とくに傷んではおりませんでしたが、1枚を染め替えることにしました。縫い代を切りとってテスト染めをしたところ、やはりただの無地にしかなりません。
どうしようかと、洗い張りした反物を手許に引き取って考えていたときに、京都の呉服店「に志田」さんが、相談にのってくださいました。「ちょっとお金がかかりますけれど、おもしろい加工をしてみませんか」。なにかよいアイデアがあるらしいのです。信頼して、全面的にお任せすることにしました。

ようやくできあがったものを見たとき、私はため息をつきました。なんの変哲もないありふれた鮫小紋が、オリジナリティーにあふれた洒落た付下げ小紋へ生まれ変わっていたからです。それはかなり手の込んだ加工でした。元のきものに、絵羽的に切箔模様の糊伏せをし、上から濃い葡萄色をかけたのちに、糊伏せを洗い落とします。そして、切箔模様の周りを細い金彩でふちどっていました。「そういう手があるのか!」と驚かされたに志田の発想です。
染めの色は、私の雰囲気と年齢、顔映りなどを考えて調整してくださいました。

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左=染め替えていない鮫小紋(右)と、染め替えたほうの絵羽付けの付下げ小紋(左)。肩や衿、袖、上前の程よいところに模様を配してくださいました。松葉色のほたる絞りにしろ、このきものにしろ、あらためて京都の悉皆の底力を思い知らされました。だって、元はどれもただの古いきものなんですよ。
右=切箔模様の拡大写真。金彩の細い縁取りがわかるでしょうか。生地加工、八掛誂え染め、仕立代込みで13万円強。洗い張りした反物を渡したので、洗い張り代はこの中に入っていません。胴裏はそのまま利用し、八掛は染め替えましたが、生地は元のものを再利用しています。

【Point】経験豊富な呉服屋さんは、いくつもの引き出しを持っている。引き出しの多い呉服屋さんの見つけ方は、そこがオリジナルのきものをつくっているかどうかが、ひとつの目安になるような気がする。最近のお店は、呉服卸問屋から借りてきた商品をそのまま並べているところがほとんどの中、自前でオリジナルのきものをつくっているところは、その呉服屋好みの染めものをつくれるツーカーの職人さんを抱えているということ。染め替えは、そういう職人さんがいるところに頼むとうまくいきやすい。



date: 2009年06月23日

subject: きもののやりくりご相談

from: 佐藤文絵



植田さん、帯に続いてたくさんの実例をありがとうございました。
怒涛の胴4段継には驚き。ここまでできるのですね。私の宮古上布も次の夏にはおはしょり有りの姿に生まれ変わるかも知れません。無地から小紋へ変身、江戸小紋から付け下げへ、絽から紗袷へ…などなど、きものの可能性を大いに感じました。

ところで先日「単衣向きの白生地は?」とご相談させていただきました。その後日譚。検討のすえ、適度なシャリ感と涼やかな雰囲気のある「変り一越ちりめん(たて縞入り)」を選びました。そしてなかなかすてきな色無地が染め上がりました。地紋のたて縞が江戸小紋の万筋のようにみえて、おトクな感じも(笑)。
いつまで着られるのかなあ、という淡くきれいな色だけど、合わなくなったときは染め替えを考えたらいいのですもんね。長い年月をともに歩んでいける一枚にしたいです。

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私にとって初めての柔らかもの・単衣です。白生地は長浜の「南久ちりめん」さん謹製。染めは京友禅の工房「高橋徳」さんにお願いしました。すでにお気に入りの一枚です。



さて本題です。つい最近きもの好きのお友達ときもの談義に花を咲かせていたのですが、「こんなに反物があるの、どうしたらいいと思う!?」なんて話になりました。どれも実家のお母さまが買い置きしてくれていた反物で、見せてもらったのはそのうちの一部。実家にはまだ10本以上、反物の状態で置いてあるそうなのです。

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数々の反物から「これなら着られるかな」とピックアップしてきた6本の反物。でも好みとしては「どんぴしゃ!」ではないようです。


母が用意してくれた反物なら、仕立てて着てあげたいと思うのが娘の心情。しかし母の好みと娘の好みにはギャップがあることもしばしば…。さて困った。仕立て代もかかることだから、悩ましいところです。どんなふうに活かしていくのが良さそうか、ひとつひとつ想像してみたいと思います。

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まずこちらは大島紬。旗マークの証紙は鹿児島産の大島紬ですね(地球マークの証紙が奄美大島産)。
これはやはりそのまま袷のきものが順当。雨コートの用意がなければ、贅沢な雨コートという選択もあり!?


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鬼しぼちりめんに写し友禅を施した小紋。生地はしっかりしています。
「きれいな色の色無地がほしい」とはその方の希望。色柄に思い入れがないなら、色を抜いて色無地に。ただひとつ気になったのは、すでに「スコッチガード」が施されていること。ガードも抜いて染めることができるのか否か、要確認です。


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綸子の麻の葉文様に、鹿の子絞りを施した小紋。
「これは好み。羽織にしてもいいよね」。賛成。


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こちらは色無地。地紋は小さな変り亀甲です。
色白で小顔のその方に、このくすんだ色目はちょっと勿体ない印象。染替えて単衣の色無地か。
ただ色無地にするならば、「白生地の質」と「地紋の好み」という観点で、実家にある反物をもういちどチェックしたほうがよさそう。


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絣柄の着尺。経糸(たていと)に表情があります。しっかりした生地だから、そのまま単衣に仕立てるのが順当。絣柄が好みと違うなら、濃いめの色をかけて無地紬もありか。


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生地の凹凸がはっきりとした羽尺。辻が花風の文様が写し友禅が染められています。
ビロードのような、暖かそうな風合いが魅力的。ただ色柄は昭和な雰囲気。染替えたら、高級感ある道行or道中着になる予感。



そんなことで、想像したようにできるとするなら、こんな6着に。かなり私の好みが入っていることは否めませんが、これだけで、かなり着回せそう!

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樺澤さん、植田さん。おふたりのご意見もぜひおきかせください。「こんなふうに活用したらステキそう」「私ならこうしたい」、そんなアイディアが聞けたらうれしいです。

ちなみにその方は、年齢は40代なかば、一児の母。お仕事上人前でお話をする機会が多く、そんなときにきものをよくお召しです。あとは「おでかけ」。お茶はされていません。参考にご自分のワードローブのなかから、好みのコーディネイトを見せてもらいました。

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その方のワードローブで好みのものはこんな感じ。
左上=顔うつりがよくて誂えたという夏物。右上=生紬に絞りを施した単衣。左下=紬と染帯。シンプルな組み合わせが今の気分。右下=染物のなかで気に入っている一枚。「でも帯が派手かしら。どう思う?」。

date: 2009年06月25日

subject: 古い未仕立て着尺、どうしたらいい?

from: 植田伊津子


ちょうど今週はじめ、佐藤さんが東京へいらした折りに、「きもの*BASICルール」の3人が顔を合わせて打ち合わせをしましたが、脱線につぐ脱線で、まったく本編にゆきつきません。原因は、おしゃべりなわたくしのせいかと思います。爆裂トークとはこのことですね。ずっと笑い転げていた3人でした。

ところで、今月の「きもののやりくり」テーマも終盤戦に突入。
佐藤さんから、古い未仕立て着尺の相談がもちかけられました。お知り合いの方のところにあったデッドストック品です。自分の好みとはちょっと違う反物をどうするか……用意してくれた母の気持ちも粗末にできないし……というそのお気持ち、よーくわかります。これらの反物を生かすために、私も一緒に考えてみたいと思います。


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大島紬。佐藤さんのいうとおり、これはそのまま袷か単衣のきものをおつくりになるのがよいと思います。雨ゴートという選択もアリですね。
着用になる方の体格がわかりませんが、雨ゴートはきものよりも裄が必要なので、幅の寸法確認が必要かと思います。


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鬼しぼちりめんの写し友禅の小紋。
私は「写し小紋」についてわからなかったので、佐藤さんにうかがったところ「糊友禅、しごき友禅ともいいます。糊に染料を混ぜて染めるやり方。そのため、裏が白になります。おそらく手描きとは違って、ある程度の量産品だと思われますから、柄を消して色無地にしてもいいかなーということがいいたかったのですが、わかりにくかったですか?」との答え。型友禅の仲間ということでした。



これの持ち主はもともと「きれいな色の色無地がほしい」という希望なので、佐藤さんは小紋の柄を消して色無地にしたらどうかと提案されましたが、私はこの柄がきれいに消えるかどうか微妙な印象を受けました。精錬をほどこして白くしても、柄の跡がやや黄色く残りそう。もし残ってしまったとしたら、今以上にもっと強いゴチャゴチャとした柄付けが必要となります。

京都の染色補正業・大宮華紋の森本景一さんにうかがってみたところ、「安全を期すならば、色を抜いたあとに、明るい色というよりは濃度のある中間色を、焚き染めで無地に染めるほうがよいように考えます。そうしたら色ムラも生じません」とのことでした。

焚き染めとは、簡単にいえばお釜に入れた染料にドボンとつけてしまう方法。それに対して引染は、伸子(しんし)を張った反物に、職人さんが刷毛で染料を引いて染め上げる方法です。
引染は一般的にデリケートなものです。繊細な色目をきれいに染めるのは焚き染め以上ですが、その反面、色ムラが生じないとも限りませんし、正直、土台の白生地に難があるものを引染するのはもったいないと、私も思います。客観的に見れば、新品の反物で引染の色無地をつくるほうが、そこそこ安く、望みどおりにつくれそう。

また、いったんかけたガード加工は落とせないらしいのです。「けれど、染色時の温度を上げることや浸透剤により、染め替えは可能ですよ。スコッチガードでもパールトーンでも同じこと。大丈夫、染め替えできますよ」。それなら安心。
ちなみに大宮華紋サイトの「難物見極め講座」では、森本さんが古いきもののさまざまな事例についてアドバイスをされていて、じつにおもしろい読み物となっています。

さて、色無地のことは、いったん横に置いて考えてみましょう。
現実的に私なら下記のような選択を考えます。
1、身内や知り合いにお若いお嬢さんがいるなら、その方に差し上げる。
2、緑がかったベージュ、もしくはグレーなどの色をかけて、染め替えをし、きものか長羽織に仕立てる。
全体の赤みを抑えるには、反対色の緑系統の色味をかけると落ち着くものです。また総柄の長羽織はよい風情があって、秋口に活躍してくれそう。上着にするなら、裄寸法が足りるのか、やはり反物幅を確認してください。


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麻の葉の地紋に鹿の子の一目絞りをほどこした小紋。羽織でもよし、袷のきものでも。


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小さな変り亀甲地紋の色無地。人によっては、このままでもかろうじて着られないことはないと思いますが……。
ただ、デッドストック品で肩のヤケもないでしょうから、これは比較的、染め替えがしやすいように思います。色を抜いて、新色に染めるのがよさそう。ふたたび色無地にするなら、精錬(5000円以下ぐらい)の後、焚き染めなら数千円〜、引染なら1万円強〜で、染め直してもらえると思います。「色無地以外にしたい」という場合は、先日の「きもののやりくり実例(6/20)」でご紹介した、ほたる絞りの小紋に加工しても。


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絣柄の紬は、まずは、そのままきものにお仕立てになったらどうでしょう。


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生地の凹凸がはっきりとした羽尺は、わたくし的にも染め替えたい感じがしますね。この色の上に色をかけるか、それとも色を抜いて染め替えたほうがよいのかについて迷います。その点専門家と相談したいところ。
後者のほうが、色の選択肢が多いかもしれません。佐藤さんと同じく、羽織か道行に。




さて、織物の染め替えについて、少し付け加えます。
織物は糸を先に染めてから織ります(先染め)から、後染めのやわらかものより染め替えがしにくいといわれています。いったん定着した色を「抜く」のが大変むずかしいため、通常、織物の染め替えは上から色をかけるやり方が一般的ではないでしょうか。
昔の紬には赤を利かせた絣模様が多く、今の私たちの感性からするとどうしてもやぼったい印象なのですが、新しい染め色をほどこすことによって、昔風の赤を落ち着かせることができます。

一番最初の大島紬でも、たとえば赤の補色の緑系統の色をかけ、次に明度彩度ともに中間ぐらいのグレーをのせてみたとします。おそらく一度目の染めで、赤が補色の関係でダークに転ぶはず。少し丁寧な工程ですが、色を2度かけしたら、深みのある落ち着いた着尺に生まれ変わるでしょう。赤が気になる紬に関してはそういう方法もあります。

その点、後染めのやわらかものは染め替えしやすいですね。今回私は「これは色を抜いて染め直したほうが」、「こちらは色をかけたほうがよいのでは」という点も含めて、少し突っ込んでお話ししました。
前回、私がやわらかものを染め替えるときは、色をかける方法が多いと書きましたが、今回は色を抜いたのちに新しく色をかけたほうがよいと思われるケースがありました。染め替えに対する私なりの判断基準はといえば……。

ひとつは、ヤケの有無です。未仕立ての反物でも経年のヤケはありますが、実際に着用しつづけたきものほどではないはず。もしあっても、未仕立てならば下前にヤケの部分を配して仕立ててもらうとわかりません。ヤケがなければ、色を抜いたのち新しく色をかけるほうがきれいに仕上がります。
ふたつめは、色の選択肢。濃色のきものを抜染して薄色に染め直すことはできない、という人もおられますが、私の経験ではそうでもありません。真っ白とまではいいませんが、無地の中間色のデットストック品なら、そこそこ白くなります。中間色の上に色をかけるより、生成りの白に色を染めるほうが、色の選択肢が広がりますね。

ただし柄物の小紋地などは、さまざまなケースがありますけれど、無地より跡が残る確率が高いように思います。そういうタイプは、上に色をかけるほうが安全かもしれません。染めに通じた呉服屋さんや悉皆処で、納得いくまで相談したいところです。

さて、「色を抜く方法は生地が傷むのでは?」という疑問があるやもしれませんが、よほど経年劣化してなければ関係なかろうと思います。というより、もともとの生地質が問題。じつは白生地こそ大切な土台。よい土台だと立ったり座ったりを繰り返してもシワになりにくく、しなやかなコシもあります。そして染め替えをして長く着られます。
ペラペラの生地にインクジェットでプリントしたきものは、今でいうところのファストファッション。残念ながら、そういうものは染め替えのしがいがありませんので、おすすめしかねます。

今回ご相談になった方は、お茶もされていないとのことですから、色無地もさほど枚数は必要ないと思います。
生地質の優劣、染め替えの手間賃、そののち発生する裏物代(胴裏・八掛)、仕立代をトータルで考えたら、今の状態のまま仕立てて生かしてくれる誰かに、そのまま差し上げるという選択もアリだと思います。お財布とニラメッコしながら、楽しんでやりくりしていただきたいですね(^_^)。

date: 2009年06月27日

subject: 眠っていた着尺、染め替え+刺繍で表情豊かに

from: 樺澤貴子



佐藤さんのお友達の箪笥に眠っている着尺、お写真を見ていて思わず「実家にも、ある!ある!」と頷いてしまいました。そのうえで、おふたりのアドバイスは、我ことのように読ませていただき、実家で日の目を見ないきものたちを思い返し、「やりくり」の意欲が湧いてきました。

ただし、いくら新しいものを仕立てるよりも安くできるとはいえ、数が積もればそれなりの金額になるわけで、植田さんが仰るよう十分に計画を練る事は大切ですよね。その場合、きものの雰囲気が持つ年齢と、今の自分の年齢を照らし合わせて優先順位を決める事がポイントとなってきますよね。

私も母から譲られたきものの一枚に、ピンクの絣柄の単衣があります。これは、母が祖母に作ってもらったもので、いわば祖母が母に見立てたもの。きものを着始めた頃はシックな色合いのものが好きだったので、明るいピンクは置き去りに。30代に入ってようやく明るい色のきものに目覚めた頃に取り出したら、いつの間にか私の年齢がきものの年齢を追い越してしまい、今は可愛らしすぎて着られない一枚になってしまいました。

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花や霞を絣で織り出した単衣。淡いピンクと萌黄色がきれいなのですが、30代後半の私が着ると、ぼやけた印象になってしまいます。



ここで、一冊の本をご紹介したいと思います。私の大好きな作家・幸田文の長女である青木玉さんの『着物あとさき』(新潮社刊)は、まさに今月のテーマにぴったりのエッセイ。青木さんがお母様に譲られたきものを、染め替えたり工夫を凝らして仕立て直し、自分に似合う一枚にやりくりしていく様子が綴られています。そのなかで、青木さんは「人は年を取るけれど、着物は年をとらないと、改めて考えさせられる」と語っており、私が母の絣のきものに対して感じた体験とピタリと重なりました。

この絣をどうしたものか・・・・・・先頃の植田さんのアドバイスを読んで、色を抜かずに、上から色をかける方向でシュミレーションを。最初は青味系の淡いグレーを想像。淡い色をかける=うっすらと昔っぽい柄が見えることを考えると、グレーでは一気に老け込んでしまう気がしました。そこで、次のような計画をイメージ。
1) まず、現段階では40〜50代に着られるように、クリーム系の色をかける
2) 50代になったときに、もう一度、自分の雰囲気や肌移りを見て、クリームが若くなってしまったら、グレーをかける。
3) おそらく、20年先になると、色ヤケなども出てくるかもしれない。ならば、60代以降になって濃地に染める。

と、段階的に染め替えることを考えると、気持ちも軽くなり、楽しみが増えました。そこで、きものを総点検してみると、自分が年齢を追い越してしまったきものが何枚か出てきました。こうしたものほど、優先的に「やりくり」をしなければ! たとえば、下記の写真の小紋など、濃い地の色をかけて羽織に仕立てたら素敵かも〜。実は、佐藤さんのお友達の黒地に鹿の子絞りの着尺を見て閃きました(笑)。

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●▲■の配列がユニークなワンピース感覚の小紋。よく見ると白場の色のヤケが気になります。潜伏していたシミもチラホラ目立ってきました。何色をかけようかしら?黒だと王道、薄い茶系をかけると面白くなりそう。



ついつい佐藤さんのお友達の「やりくり相談」を機に、自分の「やりくり計画」の談になってしまいました。これより本題に。染め替えの提案などは、植田さんが詳しく書いてくださったので、私は染め替えしたものに+αの表情=刺繍を添える楽しみをご提案したいと思います。きものの刺繍というと、友禅の染め柄をより華やかに際立たせるポイント刺繍などを想像されるかもしれませんが、私のアイディアは色無地にほどこす小付けのモチーフ刺繍です。

今の自分に相応しい色無地に染め替えたものに、吹き寄せや宝尽くしや桜の花びらなど・・・・・・好みの柄をリズミカルに刺せば飛び柄の小粋な小紋に、若松などを付け下げや訪問着調に柄の配置すれば、凝った一枚になるはず。私の手持ちのきものの刺繍はこんな感じです。ただし、これは後から刺繍をほどこしたものではありませんが、ご参考までに。

[Case.1]
直径1cmほどのお茶の仕服柄(通称どんぐり柄)を刺繍した付け下げ小紋(柄は全て上を向いています)。仕服の柄は3種類ほどあり、全体で約50個ほどがポッチリと配されています。

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気軽なお茶会にも何度か着て行きましたが、悲しいかな、お茶を嗜まれる方でもこれを仕服と気付く人は少ないのです。刺繍の加工賃は人によっても違うと思うのですが、私の友人が無地の帯のたれ下にだけ刺繍を刺してもらうのに立ち会った際には、ポイント刺繍(直径2〜3cm)3箇所で1万円程度でした。



[Case.2]
黒地の縮緬に宝尽くしの刺繍をほどこした訪問着。上前が埋まるほどたっぷりと贅沢に配置されています。宝尽くしは可愛らしい印象に傾きが地ですが、この刺繍は糸の色味が抑えられているため幼い印象にはなりません。宝尽くしはモチーフそのものが可愛らしいので、染めの場合も刺繍の場合も、柄の色味はひと色落ち着いたものが好みです。

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きものの地色との相性を考えながらどんな糸の色味で構成するかを決めるのは、誂えならではの楽しみ。佐藤さんのお友達のきものでいうなら、変わり亀甲地紋の色無地を染め替えて、そのうえに宝尽くしをもっとあっさりと、付け下げ調に配置しても素敵ですね。



[Case.3]
最後に変わりネタを。これは小唄の師匠から譲り受けたきもの。少し黄色味を帯びた渋いカーキ色に、太めに撚った白・水色・朱色・薄茶の4色を、ステッチのように全身に巡らせている一枚。こんな刺繍の使い方もあるのだと、新鮮に感じた一枚です。小付けの刺繍以外にも、こんな選択肢があるというサンプルとしてご覧下さい。

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左・刺繍のアップ。刺し子のようなタッチ? 私にはステッチにしか見えないのですが、全身でみるとなかなか面白い雰囲気です。右:全身がうまく写せないのですが、柄の入り方はこんなふうに幾何学的。


今月のテーマを経て、植田さんや佐藤さんのやりくりを見せていただいて、きものの楽しみを改めて感じました。また、あと数年で40代を迎えるに私には、植田さんの実例にあったようなきものに憧れました。前述した青木玉さんの『着物あとさき』には、さらにその先の60代以降のやりくりの楽しみがたくさん詰まっています。ご興味のあるかたは、ぜひご一読くださいませ。
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