date: 2009年05月01日

subject: 今様単衣ごよみ〜5月の単衣

from: 樺澤貴子



伸びやかな5月となりました。枝葉も、陽も、そして気持ちもすっきりと伸びやかになる季節です。今月は、衣更えとお手入れのお題で、3人3様の考えを巡らせたいと思います。

まずは、単衣の時季について一考。本来、単衣の季節は6月と9月のふた月ですが、最近では温暖化の影響からか、5月、6月、7月の梅雨寒の時、9月、10月・・・・・・と着用時季が確実に長くなっていますよね。暦に従うのではなく、肌で感じる気候の移ろいに照らし合わせている方が増えているためでしょう。

4月末のゴールデンウィークの頃を皮切りにする方もいれば、東京では神田祭(毎年5月の第2週目週末)や三社祭(毎年5月の第3週目週末)を初夏の入りと考え、単衣解禁の目安にしているという話を伺ったこともあります。
なかには、「大相撲の夏場所を迎える5月は、透けないゆかたも解禁よ。だって関取の移動着だってゆかたになるし・・・・・・」という気風のよい江戸っ子お姉様もいらっしゃいました。

私自身はというと、<ちょい着>としては5月の早い時季から単衣を着始めます。
ただし完全に袷を封印せずに、きもの暦に敏感なお茶まわりや<よそゆき>のシーンでは、まだ袷のきものが手放せません。こんなふうに袷と単衣を行きつ戻りつする5月は、単衣の着こなしも6月のそれとは意識して変えています。

私の小さなルールは、5月の単衣には半衿や帯に絽目のあるものを合わせないということです。見えない部分で絽の長襦袢は着ていても、見える部分の半衿は塩瀬。
楊柳などの単衣衿や絽の半衿は、6月に入ってから付け替えます。帯に関しても絽の染め帯は避け、すっきりとした柄行きの塩瀬の染め帯か、イカット柄の木綿や博多献上帯や綴れ帯など透けない単衣の織り帯を締めるようにしています。

自分の快適さも大切ですが、やはり傍から見てどう映るかということを、そっちのけにはできません。5月も下旬になると「先取りね」と好意的に見てくださると思うのですが、中旬頃までは「寒々しいわ」「暑がりね、あなた」と、方々からつっこまれかねない環境にいるため、目につくものに関しては前倒しにしすぎないことを心がけています。
小物や帯の季節の移ろいに関する詳細は、また追々にお話しさせていください。

また、きものに関しても5月は地風のしっかりとした単衣の御召のみを解禁にしています。
御召はシャッキリとした風合いで、汗ばみはじめる陽気に快適な着心地となります。細い糸で織られた単衣紬や柔らかものは6月以降に出番を迎えます。

などと述べてみたものの、数少ない手持ちのきものでは単衣ごよみを語り尽くせないため、今月は追々きものの達人方にお話を伺いたいと思っています。同じ単衣でも生地の織り目や密度、地紋や透け具合、色合いなど・・・・・・それぞれの持ち味を、いかにの季節の移ろいに調和させて着分けるか。今の私にとっては、それだけの単衣のバリエーションを揃える余裕が箪笥にもお財布にもありません(悲)。おふた方の単衣ごよみは、いつから始まりますか?

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手持ちの単衣のなかでは、この2枚が5月に着ても違和感がありません。春単衣として着る事が多いのですが、秋単衣として着るときには帯や小物の色合わせに気を配ります。左:黒地×アイボリー色のドット柄の御召。右:縹色×生成り色の刷毛目模様のような御召。

date: 2009年05月04日

subject: 単衣の解禁と、今ごろの袷

from: 佐藤文絵



気持ちのよいお天気が続きますね。今こそ“帯付き”が心地よい季節。きもののことを考えるなら何か羽織るのが望ましい…けれど、身も心も軽やかに、のびのびと町を歩きたくなります。
つい先日東京で植田さん樺澤さんとお会いした日(三人連れ立って一衣舎春展へ出掛けました)はまさにそうで、塵よけとショールを携えていたものの、それらを羽織ることなく一日を過ごしました。わたしたち、三人とも帯付きでしたよね。

さて単衣の解禁については様々な意見があるけれど、今や5月の単衣も10月の単衣も立派に市民権を得ているものと理解しています。たぶん感覚的には樺澤さんとほぼ同じで、<ちょい着>なら、その日のお天気に応じて5月の前半から単衣を着はじめます。同様に10月も。秋色の真綿紬を「どうかしら」と思いつつ11月に着たこともあるくらいです。

木綿やウールは一年中単衣仕立てなのだし、絹でも浜松の「伊兵衛織」は一年中単衣仕立て――そんなことを考えると、袷/単衣、裏のある/なしより、きものの素材次第、と思っています。たとえ同じ「単衣」でも、厚手の伊兵衛織や太い番手の木綿と、真綿紬、大島紬を比べてみれば、それぞれかなり季節感が違いますよね。あるいは伊兵衛織の単衣より、大島紬の袷のほうがずっと軽やか。見た目にも、実際のところも。
ただし柔らかものは別で、紬のように素材感にバリエーションのない柔らかものは、原則どおり6・9月=単衣、7・8月=薄物なのだろうなあと思っています。

といいつつ実は柔らかものは単衣も薄物も持っておりません。目下検討中! また改めてご相談させてください。単衣まわりは昨年痛い目にあった「背縫いが切れる」件とか、長襦袢についてとか、お話したいことがてんこ盛りです。


ところであの日私は初めて「御召」を着て外へ出掛けたのですが、これがまことに心地よかったのです。堅いわけではないけど、しゃきっと張りがあって、とっても軽い感じがしました。若葉の緑まばゆい季節に、艶感もしっくり馴染む気がします。そうかあ、こういうきものが今の季節にいいのなのだなあと実感しました。

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以前にもご紹介しましたグレーの御召小紋。織り込まれている蝶々柄も、今が旬。


そして翌日は母の箪笥から、着物も帯も借りて外出。我が母は「なんといっても今時分は大島がいいわよ。大島!大島!」と一押しです。

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左=古い大島紬を洗い張りして仕立てた着物。古いものなだけにすっかり柔らかくなって、新物の大島とはかなり違う肌触り。右=こちらも大島紬。明るい青が爽やか。


纏ってみれば、母の主張に納得。御召よりもさらに軽やかで、さらっと、ひやっとした肌触りの大島は確かに今にぴったりでした。色柄もさることながら、素材感がもたらす季節感は大きいものですね。

私はすごく暖かいものとすごく涼しいものに惹かれるというちょっと困った癖があって、洋服でいうならいかにも暖かいコートと麻のワンピース(しかもノースリーブ)がやたらと層が厚く、秋春、つまり「合いの季節」はもひとつバリエーションがない…というふうになっています。きものも同様に真綿紬がすごく好き、麻が大好き、ということで箪笥の中身がすごく偏っているんですね。
三月には「よそゆき度」についてあれこれお話しました。よそゆき度のバリエーションを揃えるべしと自戒したばかりですが、季節感のバリエーションも同じくらい大事にしなくちゃ、としみじみ感じました。ひとつひとつが大きなお買物なだけに、バランスをとらなければイケマセン。
つまり図にするとこんな感じ!?

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もしくはこんな感じ。

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ちなみに今のところ、空きだらけです(笑)。


さてその日はこんないでたちで神奈川は葉山町の「葉山芸術祭」の様子をほんのちょっぴりのぞきにゆきました。青空のもと、さらりとした大島紬はまさに“今の気分”。
気分ときものがぴったり合うと、おでかけがますます楽しくなりますね。

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帯はおそらく絹の更紗を名古屋帯に仕立てたもの。こちらもつるんとした布の感じが五月らしい気分にしてくれます。

date: 2009年05月08日

subject: 単衣(夏用)の長襦袢について

from: 植田伊津子



ゴールデンウィークが終わり、日常生活となりました。皆さんはいかがお過ごしでしたか?

私はゴールデンウィークの後半はお茶会がつづいて、スタッフとして動き回ったりすると充分暑いものですから、袷と単衣に頭を悩まされたのでした。

ちょうど今月のテーマは、「衣更えとお手入れ」。まさにリアルタイムな問題です。
えーっと、このところきものブログが長文過ぎて最後まで読めないという声を多数聞きますので、すぐに本題に入りましょう。佐藤さんや樺澤さんが、上物のきものについて先に触れてくださっていますから、私は長襦袢についてお話ししたいと思います。

本当は衣更えルールに関してもきちんと守りたいところなのですが、私はとにかく暑いのが苦手。きものを着ると汗が止まる、という方もいらっしゃるようですが、私は残念ながらそういう体質ではないらしい。
ですから、「こんなに暑いと単衣にしたいけれど、やっぱり単衣じゃマズイよなあ」とか「こんなに暑すぎるのに、もう袷に変わるわけ?」と内心ぼやいてばかりです。

本来衣更えとは、体温気温の調整のために衣服を着替えるものだったと思うのですが、地球温暖化の影響なのでしょうか、今の衣更えの時期はおおいに身体感覚とずれて「我慢大会」のようになっているような気がします。

けれども、何事も決まりごとが優先されるお茶の世界に足を踏み込んでいる私は、「衣替えのルールは現状に合ってないから無視、無視」というわけにもいきません。どうにかして折り合いをつけなくてはいけないのですね。

そのためきものと半衿など他人から見てパッと目につく部分は衣更えのルールを原則として守りますが、目につきにくい長襦袢は気候に合わせて使い分けをするようになりました。


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絽(左・夏用)と塩瀬(右・冬用)の半衿。
私は、半衿と帯揚げについてはルールを守っています。

【半衿の使い分け】
10月〜5月……塩瀬→秋単衣〜春袷の時期
(12月〜2月……縮緬→袷の中でもっとも寒い時期)
6月……絽縮緬・楊柳・絽→春単衣の時期
7・8月…絽・紗・麻(絽のきものには絽、紗には紗、麻には麻が理想だけれど、紗のきものに絽の半衿もアリ)→薄物盛夏の時期
9月…絽・楊柳・絽縮緬→盛夏の名残り〜秋単衣の時期



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同じ色柄の帯揚げ。夏用の楊柳絽(右)と縮緬(左)をセットでそろえていたりもしています。

【帯揚げの使い分け】
6〜9月…夏用帯揚げ(絽目のあるもの 絽縮緬・絽)→春単衣〜薄物盛夏の時期
10〜5月…冬用帯揚げ(絽目のないもの 縮緬・紋意匠など)→秋単衣〜袷の時期



具体的にいうと、3、4月や11月の暑い日は、単衣の長襦袢に袷用の塩瀬の半衿をつけていますし、本来7、8月に合わせる薄物の麻の長襦袢も、前倒して6月から着ることもあります。

そうしたところ、私の場合、単衣の長襦袢の出番が、3〜6月と9〜11月という具合に、1年の半分ほどになってしまいました。
といっても最近の長襦袢はご存じのとおり、袷のものは「袖無双(そでむそう)」がほとんどでしょう。ちなみに、無双とは「同じ物が2枚重なっている」という意味です。ですから袖無双は、袖は2枚で袷だけれど胴は1枚の単衣というものです。
単衣の襦袢は、胴と袖の両方ともが1枚仕立て。
ということは、単衣と袖無双は袖にしか違いがありませんから、実際、暑さはほとんど変わらないのです。

次第に私は、もっと高性能で涼しく、手入れの簡単な絹の長襦袢地を見つけたいと思うようになっていきました。
色柄に目を奪われがちだったのが、生地そのものに本格的に目を向けるようになったのです。長襦袢地こそ機能性や強度をおろそかにできない、と考えはじめました。

きものを着る頻度の高い人ほど、これこそ洗いたいアイテムですので「自宅で洗えて、縮まないこと」がゆずれない条件。
先日うかがった一衣舎春展では、私と樺澤さんの2人が「王上布(おうじょうふ)」という布地で長襦袢をつくることにしました。どんな感じなのか、今からできあがりを楽しみにしています。

私は、もともと京都の「浅見(あさみ)」という長襦袢地メーカーのある生地で、袖無双襦袢をつくっていました。
浅見の襦袢地は、スルっと身体に添うタレ感、裾さばきの良さが特筆すべきで、なおかつ絹ですから涼しく温かい。なのに自宅で洗えて、ほとんど縮まないという夢のような襦袢なのでした。
私の持っている生地を観察してみると、少々目の詰んだ羽二重の感触に似ていました。針を突き刺そうとしても、なかなか通りません。
けれど、目が詰まっているからこそ、水に入れたときに収縮が少ないように感じます。

浅見の襦袢地はきもののヘビーユーザーの期待に応えるものだと、と使えば使うほど実感しました。その浅見の単衣・夏用襦袢地のなかに「王上布」があったのです。
これは佐藤さんおすすめの長襦袢地。通気性・放湿性にすぐれ、なおかつ単衣でもお尻がビリっと破れない、という優れものらしいのです。

単衣や薄物の長襦袢のポイントは涼しさはいうまでもありませんが、強度も重要。
とくに正座の多いお茶の人や日舞をされる方など、お尻に負担のかかる動作をおこなう人は、ふつうの絹の長襦袢地で、通常どおりの仕立てをしたら、かなりの確率で臀部の背縫いのところから裂けるか破れるかするでしょう。
そのため呉服屋が「お茶をされているなら、居敷当てをつけましょうか?」などとアドバイスをしてくれるかと思います。
居敷当てとは、膝やお尻など負担のかかりやすい場所につける保護布です。

夏用の麻の長襦袢ならば、強度的に心配がないため居敷当ては必要ありませんが、単衣用の絹、絽・紗などの夏用の絹の長襦袢をつくる際は、そういう点も頭に入れておいたほうがよいかもしれませんね。

date: 2009年05月11日

subject: 単衣の背縫い問題

from: 佐藤文絵



先週末からぐっと初夏の陽射しに変わりましたね。“単衣ありやなしや”でいえば、ここ数日は確実に単衣解禁。半袖でも暑いくらいです。

さて単衣の長襦袢の話題がでました。私は昨年、お茶のお稽古中に単衣きものの背縫い(お尻の部分)を破ってしまう=縫い糸がほどけてしまう難に遭い、以来単衣の背縫いについて、あれこれ思い悩むこととなりました。

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問題のきものはこちら。素材は八重山グンボウ(経糸は木綿、緯糸は手績みの苧麻糸)、居敷当てなし、背伏せのみ。糸は二ヵ所切れて、布にも少なからずダメージが…。


その節は植田さんからアドバイスをたくさんいただきました。植田さんのメールを下記に少し引用させてください。

Itsuko Ueda wrote :

お尻の背縫い部分が切れたのならば、正座でお尻に負担がかかったのだと思います。皆お茶の人たちはよく破られます。とくに袷のように裏地がない単衣や薄物が危険。この場合、居敷当てを付けるとかなり防げます。私はきものだけではなく、絽の襦袢にも居敷当てをつけています。

もしくは帯の上の背縫いのところが切れたのでしょうか。それでしたら、着付けの際、はじめに襟がやや詰まり気味だった可能性があります。たとえば、前屈みの姿勢(正座で御礼をするとか)をとるたびに、やや襟は自然に詰まってくるものです。
※そして前屈みの身体を起こすと、少し詰まった分が元の位置に戻りますから、帯の上の部分のきものが少したるむはずです。この少しの「たるみ」がじつはクッションになるんですね。
元から襟が詰まっていると、前屈みの姿勢をとるたびにこれ以上詰まりませんから(クッションがない)、背に負担が来て、ビリっとやぶれちゃったりするわけです。着付けで、背を抜く利点はこういうところにもあります。

けれどおそらく一番の原因は、かっちりとした着付け方じゃないかな、と思います。
私は「細く見えるきもの」信仰者ですから、昔からグズグズした着方ではなく、ほとんど遊びのない着付け方をしていました。そうすると、あっちゃこっちゃが破れるんですよ。ワードローブは昔のものが多いわけですし。

で、あるとき、なんでこんなに破れるんだろうと思って、またもや研究に励みました。
そして着付けをキリキリにしすぎないのがよいのだな、と悟ったのです。
今は腰紐を締めるときに、ふわっピタぐらいの加減で前を合わせるようにしています。また最後の仕上げのときも、おはしょりを随分引っ張ってワキの余分な空気を抜いたりしていましたが、今はそれをしすぎないように気をつけています。強くおはしょりを引っ張って胸元をきれいにすると、加速度的に襟が詰まってきて、背中に負担をかけるんですよ。
背もはじめはかなり抜き加減にします。お茶できものを着るときは、何かと前屈みになりますから、お稽古中に詰まってきて、ちょうどよい具合になります。


思えばこの時のやりとりこそ、このブログの萌芽ですね。
着付けが関係しているとは考えが及ばなかったので、なるほどと深く頷きました。しずしずと歩き、椅子に腰をかけてお茶をする。そんな日ならぴしっと着て何の問題もありません。けれどお茶のお稽古はそうはいかない。躙って茶室に入り、正座をし、何度もお辞儀――となれば背縫いに負担がかかるのは当たり前!「単衣の背縫いとは弱いものである」という認識を持っていなかったことが何よりの敗因なのでした。

でも同じ憂き目に遭った方は意外に沢山おられるんですよね。「背縫いを破ったことは?どう予防を?」と聞いてまわったところ、「あるある!」「私はないけど、友人が」「ないけど、危険だなと思う」という方、大勢いらっしゃいます(もちろん「え?そんなこと一度もありません」という方もおられますが)。

参加させてもらっているサイト「KIMONO真楽」でも先輩諸氏から色々とアドバイスをいただいて、「単衣&長襦袢の背縫い考察」というキーワードにまとめました。こちらも読んでもらえたらと思いますが、居敷当ての有無、布の強度・伸縮性、背縫いの処理の仕方、着付け方、下着、動作・・・いくつかの要因がすこしずつ関係して「破れる」ところまでいってしまうのだなあ、というのが結論です。

ではどうするか。予防策として一番確実なのはすべての単衣に居敷当てを付けること。
居敷当ては「その1」の形に共布を付けるのと、裏写りを考慮して広巾の羽二重(胴裏)を「その2」の形で付けるのと、2通りやり方がありますね。昔のきものは1が多いけれど、最近の主流は2だと思います。裏写りを考えないでよい長襦袢は1が合理的。

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私はこれから仕立てる単衣には基本的にもれなく居敷当てをつけようと思っています。
でも何となくかさばるし、きっと暑いし、できることなら付けたくないのが本音。生地が強ければ、要らない場合もあるのですよね。植田さんが話題に出してくれた長襦袢の「王上布」は、とっても丈夫で、びくともしていません。

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左=単衣の長襦袢、たった一度お茶会のお手伝いをしただけでこの状態に。居敷当てはなく、背縫いの処理は「袋縫い」。生地が縫糸に負けてしまいました。糸が切れてくれればまだよかったのですが(涙)。右=王上布は生地としてもとても強いと言われています。背縫いには共布をバイヤスにした背伏せが付いていて、これがまたかなり補強してくれているように思います。さらに詳しくはKIMONO真楽へ。


また「お茶関係、長く正座をする場面には着ていかないぞ」というきものにも、やっぱり居敷当ては付けないつもりです。例えば夏の上布。これは完全に「しずしずモード」で着るきもの。元々繊細なものだから、丁寧に着てあげないと、とても生地が耐えられません。

悩ましいのは薄物です。長襦袢に居敷当てをして、きものには省く…というのがスマートでしょうか。そしてゆったりめに着付けて、下着でカバー。「湯文字でお尻をきゅっと引き締めるときものに負担をかけないよ」というアドバイスも貰いました。これから試してみようと思うことのひとつです。湯文字は簡単に作れそうだし、市販品もあります。

・・・というのが背縫いのお話でした。

で(まだ続くのか・笑)、今の新しい悩みです。
初めての柔らかもの単衣として蛍ぼかしの小紋を作ろうと思っています。
単衣向きの織のきものはいくつも思い浮かびます。でも柔らかもののほうはさっぱり。雑誌などをめくっても、あまり話題にのぼらないようです。鬼しぼちりめんや綸子は単衣には向かなさそう、その程度は想像するのですが、いかがなものでしょう。これ以外ならほぼ何でも大丈夫なものでしょうか。
どうぞご意見をおきかせくださいませ。

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左=候補は3種類。どれも長浜ちりめんで、上から東雲、変り一越ちりめん(たて縞入り)、変り三越ちりめん。右=東雲は凹凸が高めなので、変り一越ちりめん(たて縞入り)、変り三越ちりめんのどちらかにしようと思っています。立て縞入りはさらっとした雰囲気が出そうです。

date: 2009年05月13日

subject: 春単衣と秋単衣、そして帯

from: 樺澤貴子



湿気を帯びた気温の高さが続く日が続きますね。昨日私はお茶のお稽古だったのですが、我慢しきれず単衣を解禁に。前回の佐藤さんの「背縫い破れ事件」の記事を読んで、着ていく予定の単衣御召を慌てて見返したら、居敷当てはなく羽二重の背伏せがつけられていました。佐藤さんの教訓をいかすべく(笑)、植田さんご指導の着付けのコツに気を配ってみました。「ふわっピタ」の加減、納得です。

私はどちらかというと、生真面目にピシッと着るのが好み。そういえば、以前熟年者に「あなたのきもの姿は堅いわね。きものと一緒に空気を着なくちゃ」と言われたことがあります。正座をしたまま様々な動きをする茶の湯仕草だけに限らず、空気を一緒に纏うということは、かえって着崩れを防ぎ、きものへの負担も軽減するのだなぁ、と改めて考えさせられました。


さて、ここから本題に。今日は、春単衣(※ルールでは6月に着用。現状は5月から単衣を着る機会が多い)と秋単衣(※ルールでは9月に着用。現状は10月もまだ単衣を着る機会が多い)、そして単衣帯についてお話させてください。私ごとですがお茶の稽古をはじめて3年目にして、やっと気合が入ってきたこの頃。お稽古やお茶会に行くのに、単衣の柔らかものが手薄なことに気付きました。正直、茶の湯の門をたたく以前は、単衣の柔らかものの必要性をあまり感じることもなかったのです。お点前が未熟で時々建水に袖を落としてしまう私には、洗えるきものが必要性だわっ!ということで「きもの英」さんへ伺い、若女将の武田佳保里さんにアドバイスをいただきました。

英は皆さんご存知のとおり化繊のきものを扱う洗えるきもの専門店です。繊細な生地選びや、オリジナルの色・柄のクオリティーの高さ、さらに独自の仕立てのノウハウを追及しており、正絹のきものに近い洗えるきものとして、特にお茶関連の人に多く支持されています。今回は英オリジナルのきものをベースにお話を伺いましたが、単衣の反物の選び方や春単衣・秋単衣を着分けるコツなどは、正絹(柔らかもの)に置き換えても同じ事がいえると思いますので、ぜひご参考にしてください。

1)単衣の素材の選び方(総論)
――まず、どんな素材が単衣用にふさわしいですか?

「単衣の素材は、楊柳のように単衣用として扱われているものが少ないため、袷用の素材とほぼ兼用といえます。それを踏まえたうえで、一番気を付けなければならポイントは、生地の裏を見ること。単衣の場合八掛をつけないため、裏が白っぽいと安っぽく見えてしまいます。表地同様にちゃんと染料が通っているものを選べば、裾の返りや袖口なども美しく見えます」

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左:裏まで染料が通っていない反物(袷向き)。濃い地の反物ほど裏の白さが目立ちます。右:染めの技法の違いにより、裏までしっかりと染料が通っている反物。画面の右側が裏になります。


――なるほど、正絹の反物でも、型染めの反物などは裏の色が浅いものもありますよね。特に、型の緻密な江戸小紋は裏まで染料が届きにくいため、単衣に仕立てるときには裏からも型を置いて染料を「しごく」と聞いたことがあります。

「江戸小紋でしたら、英には表と裏とで色の異なる両面染めの江戸小紋というものもあります。これは、最初に地色(一色目)で型染めをしたあとに、上から同じ型をつかって差し色(二色目)をかけるという染め方です。裾の返りや袖口、袂から別の色がちらりと見える楽しみがあります。ちなみに、地色と差し色のどちらを表にするかは各々のお好み次第。ただ、両面で色が異なる場合、帯び合わせが少々難しいため、上級者向けの江戸小紋かもしれませんね」

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地色をたまご色、差し色をサーモンピンクに染めた鮫小紋。



2)春単衣、秋単衣の選び方
――春単衣と秋単衣の決め手は、やはり色の印象が大きいでしょうか?ちなみに、私の場合は春単衣は暑さへ向かうためスッキリと見える寒色系の色を。秋単衣には柔らかな色目を中心に、まだ残暑が厳しい折ゆえに白をベースにした色やこっくりとした秋色をもってきます。

「私は色よりも素材が大切だと思います。というのも色はその方によって似合う色が違うため、一言で定義づけるのが難しいからです。それよりは、素材をうまく着分けることがお洒落に見えるのではないでしょうか」

――具体的に春単衣にはどんな素材が相応しいのでしょう?

「まず春単衣には、楊柳がおすすめです。ならば、楊柳は9月には着られないかというと、そんなことはないのですが、せいぜい9月の一桁の日にち(9日)まででしょう。それ以降になると、少し寒々しく見えてしまします。楊柳で気に入った染め柄が見つからず袷の反物から選ぶときにも、春単衣には素材の軽やかさやシャリ感などを重視して選ぶといいですね。また、透け感のよわい夏物も春単衣としてはおすすめです。英で<かわり竪絽>、<夏紬>として扱っているものは、ほとんど透けないため、春単衣から夏のきものとして長く楽しんでいただいています」

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単衣として扱っている楊柳素材の付け下げ。グレーがかったドライなピンクが、上品かつ涼やかな印象です。


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夏物として扱っている素材。左:楊柳のような生地にシボのあるかわり竪絽。横絽よりも透け感が目立ちません。右:夏紬


――夏ものを単衣として着る場合の留意点などはありますか?

「長襦袢にパッキリとした白ではなく、白をベースに淡い染め柄のあるものや、淡い地色のものを選ぶと透け感が気になりません。袖口からのぞく長襦袢に少し色が差してあることで、コントラストが弱まり、表地の表情も和らいで見えると思います」

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左:緯糸にヨリをかけた楊柳のような絽の素材に墨流し染めをほどこした長襦袢。単衣〜夏に活躍する素材としておすすめとのこと。右:画面左の白の絽と比較すると違いがわかります。


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左:パッキリとした白の絽の長襦袢を合わせた場合の袖口。右:ぼかし染めの楊柳のような絽の長襦袢を合わせた場合の袖口。



――秋単衣はいかがですか?

「例えば、地紋のある生地や縮緬でもシボの表情がほっこりと見える袷用の反物を、秋単衣としておすすめしています。また、秋単衣の場合はきものよりも、帯び合わせが重要だと思います。私の感覚では、絽の帯は9月の9日まで。それ以降には、少し寒々しく見えてしまいます。とくに帯の場合、季節を前倒しに装うことはあっても、過ぎた季節のものは野暮に見えてしまいます。10日を過ぎたころには袷の時季に締める染め帯びや織り名古屋帯、軽めな柄裄の袋帯なども合わせています」

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英で緞子として扱っている付け下げ。生地にほどよい重みがあって、楊柳よりも季節の深まりを感じます。



3)単衣に合わせる帯
かなり長い原稿となってしまいましたが、もう少々のお付き合いを。最後に単衣の帯についてお話したいと思います。単衣の頃の帯に関しては、5月8日のブログに寄せられたコメントのなかで、植田さんがお答えしている内容がとてもわかりやすく、コメントを読まれていない方もいらっしゃると思うので抜粋させていただきます。


単衣に便利といわれている博多帯は「帯芯を入れないで仕立てる八寸帯」です。じつは、博多帯以外でも「織りの八寸帯」というものがあり、西陣などで製造されています。

ただこれは、製造者側が袋帯のように高値をつけられないので、あまりつくりたがらない背景があるため、製造数が少なくなっています。が、よく探せばときどきあります。これが単衣の帯として(というか袷の帯としても)、たいへん重宝します。

八寸の織りなごや帯は、縫い代なしの端かがりをしただけの構造で、二重太鼓をつくらないなごや帯ですから、博多帯同様、手軽で締めやすいものです。単衣にはもちろんのこと、袷の季節にも用いることができますので、一本お持ちになるととても便利です。

いっぽうで、袷の帯でも単衣に合わせてまったくおかしくありません。
ふつう単衣のきものに合わせる帯は以下のようにいわれています。

【春単衣】
6月前半→袷のきものに合わせる帯を用いる
6月後半→夏のきものに合わせる帯を用いる

【秋単衣】
9月前半→夏のきものに合わせる帯を用いる
9月後半→袷のきものに合わせる帯を用いる

ですから、「博多帯」や、先ほどわたくしが申し上げた「八寸織りなごや帯」がなくても、手持ちの袷の帯と夏帯でやりくりが可能です。とくに博多帯や八寸織りなごや帯は、建前からいうと「ふだん使いの帯」ですから、気張ったお出かけやフォーマル的な場所にはあまり好まれないものとされています。

(*質問内容が単衣の無地紬に合わせる帯の種類とあったため)
単衣の無地紬をもし気張ったお出かけに着用されるならば、時期によって「袷のきものに合わせる帯」「夏のきものに合わせる帯」を用いられたほうがよいでしょうね。袷用の帯でも、単衣に合わせるのは、やや涼しげで軽やかに見えるものがよさそうに思いますよ。生紬地の帯や櫛織などもよいんじゃないでしょうか。



これに少し付けたさせていただくなら、私は単衣の時季に便利な帯として綴れ織りの帯を加えたいと思います。博多帯同様、綴れ織りも帯芯を入れないで仕立てる八寸帯です。博多帯よりも格が高く、<よそゆき>にも活躍。銀綴れなら<大よそゆき>にも締められます。私の小唄のお師匠さんは赤坂の芸者さんだったのですが、「赤坂(の芸者衆の装い)では6月は綴れって決まっているのよ」と仰ります。実際に私も単衣の季節に愛用していますが、帯芯が入らない分だけ軽やか、きりりとした質感で緩みにくく締め心地は快適といえます。

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左:霞の柄を織り出した綴れ帯。右:小唄のお師匠さんから譲り受けた付け帯の銀綴れ。


袷用の帯に関しても、素材や柄付けの重さといった要素が、春向きか秋向きかを判断する目安となると思います。例えば私の場合、染め帯なら塩瀬のさらりとした質感は春単衣に、ほっこりとした縮緬素材は秋単衣に合わせます。1ヶ月のなかで夏用と袷用の要素が共存する単衣の時季は、衣更えの明確な定義づけが難しいといえます。半衿や帯揚げなどの小物類、長襦袢などの要素、さらにTPOまで考え合わせると、とても複雑なマトリックスに。でも、迷った場合には、自分の温度調節は見えない部分で行い、その場に居合わせる人にどのように映るかという周りとの調和を重んじることが大切ではないでしょうか。

単衣談義も3人なりのベクトルが交錯しましたが、そろそろ今月のもうひとつのテーマであるお手入れの話にも触れたいところです。おふたかたは、日頃のお手入れをどのようになさっていますか?

date: 2009年05月15日

subject: きものを汚さないために

from: 植田伊津子



肌寒かったり、暑かったり、どうも気候が安定しませんね。
袷と単衣をニラメッコする毎日が続いています。

さて、前回、の武田さんから的確なアドバイスをいただきました。
袷生地の中でも裏まで色が通っているかどうか、春単衣は素材の軽やかさやシャリ感などを重視する、秋単衣の場合はきものよりも帯び合わせが重要など、どれも納得することばかり。ありがとうございます。

今日はもう少しだけ単衣に関する2、3のことに触れてから、お手入れの話に入らせてください。
私もちょうど先日、京都呉服関係者数人にお会いした折りに、単衣にふさわしいやわらかものの生地とはどういうものかと質問したところ、以下のようにうかがいました。

「単衣は1枚で着るわけですから、やわらか過ぎては下着の線が出るなどして落ち着かない。かといってハリがある生地はストンとした『落ち感』はあるけれど、硬い感触ですからシワも出やすい。下着が透けない程度に肉厚で、身体に添って、適度なハリがあり、フガフガしない生地が単衣向きだといえます」

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「いいから、ぎゅっと生地を握ってみてください。触ってもらうと判りますけれど、やはりやわらかものの単衣の問題はハリとシワのバランスにあるんですね」。左が単衣向きで、右が袷向きとして扱われている着尺。単衣用の生地は握ってもシワが消えていきました。


「単衣用の生地は少ないので、袷に使用する生地の中から、それらの条件に合うものを見つけてはいかがでしょうか。専門的にいうと、単衣でよく使われる生地は『変わり無地』『光悦』『紋意匠』などがあります。『光悦』は楊柳です。生地の端に『光悦』とその白生地の名称が記してあったりします」


単衣に合わせる帯についても、ひと癖あるものを見せてくれました。
染めがお得意の問屋さんいわく「絽の染め帯は6月後半からが望ましいといわれますけれど、たとえば絽目の間隔が広いものなら、6月はじめから締めてもよいですよ」。

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八重七宝の段絽(左)と抽象柄の竪絽(右)の染め帯。暑すぎる日でなければ、もちろん真夏にも使用可。(上の2点を含めこれら4点の撮影協力・染めのみずぐち)



また、織りものを扱う問屋さんの商品から単衣の紬(もちろん染めにも)に合いそうなものをピックアップさせてもらいました。

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山野に自生する藤の蔓を使って織った丹後の「藤布(ふじふ)」の横段絽織八寸帯(左)と菱紋絽織八寸帯(右)。冬以外のスリーシーズン使えるすぐれものだそう。大人っぽい染めに合わせてもスタイリッシュ。


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どちらも新垣幸子さんの八重山上布の帯。これまた貴重品。薄羽のような質感のうつくしい絣です。こんな帯を単衣や薄物に締めたら、きっとまわりに自慢したくなりますね。(4点とも撮影協力・室町の加納



さてさて、ようやくお手入れ話に突入です。
「お手入れはどうしてしてる?」っていわれると、怠け者の私は言葉に詰まってしまうのですが、その前にきものの手入れを軽くするための「汚さない」工夫についてお話ししたいと思います。汚さなければ、きもののメンテナンスにかかるお金は、いうまでもなく少なくなりますものね。

着る回数が多い方ほど痛い目をあっていらっしゃるはずで、私もそのひとりに違いありません。
帰宅後に、明るい色のきものにポツネンとあるシミや抹茶の粉、帯締の結び目に落としてしまった日本酒、知らないうちに汚れていた裾の黒ずみ……どれだけ恨みがましく思ったことでしょう。シミの他にも、ある日ハタと気づく全体の薄汚れもあります。
私はなんと乱暴に着ているのかと、愕然としたのが一度や二度ではありませんでした。安い染み抜きでも、積もり積もればそれなりの金額。

そこで、とても簡単なことから注意しはじめたのです。

まずは手洗いの徹底でした。冬もハンドクリームをつけるのは晩だけで、きものを着る朝はつけません。
きものを着た後に頭の後れ毛を触ったらすぐ手洗いをしますし、きものを着て出かけるまでにしばらく間があくときは、引っぱりという上着(コレに似た感じのもの)か割烹着を着ます。

きものを着る部屋はどうでしょう。フローリングや畳にほこりがうっすらとあるのも厳禁です。裾を決めるときに、かならず床面にきものがつかえます。そんなときは衣装敷をさっと広げて、その上で着付けをしてください。
陰干ししたきものを畳むときも衣装敷の上。きものを扱うときは、衣装敷を敷くクセをつけておきたいですね。

また、私は出先できものを着る機会でも、念のために衣装敷か風呂敷を持っていきます。
たとえば、前日にホテルに入ってきものをクローゼットハンガーに掛けたときにも裾が床に触れたりしますから、そこにきれいな風呂敷を敷いておくのです。
こういう用途には、洗濯できるポリエステル製の風呂敷が最適でしょう。

さて、着てからの話。できるだけ余計なものに触れず、きものや帯にも不用意に触らないようにします。襟元を直すときにおこなう半衿や掛け衿をつまむ動作も最小限。腰掛けたり正座をするときに、上前を撫でるように整えますけれど、それもむやみに繰り返しません。
着くずれるとアチコチ触りたくなりますが、そうしたいときはお手洗いに入って手を洗ったあとにおこないます。自分の手がいちばん汚れているものなんですよ。

外出するときや乗り物のときには、コート類をはおっておきたいもの。上着を着ていたら、背もたれの汚れも安心です。
階段を上がるときは、上前の裾が段に当たったりするので、段の前に余裕をとって足を後ろ気味に置いてのぼるようにします。いつもと違って元気に足も上げません。

食事時は、どうしても汚したくないきもののときは汁気物をあきらめ、スバゲッティーやカレーもパス。
そうすると食べられるものはおにぎりかのり巻きだったりして、まことに精神衛生上よくないわけですが。

こんなことを書くと、「きものを着るってなんて不自由なのかしら」とお思いの方がいるでしょう。私もそう思います。

ですから一番大事なのは、どのきものも同じ扱いにせず、「汚してもよいきもの」を持つこと。汚れが目立ちにくい濃色のお下がりの紬、洗えるポリエステルのきもの、木綿の単衣、なんてのは最高です。
あまりにシンプルですが、「多少汚しても大丈夫」というきものがあるだけで、気持ちがすごく楽に。

けれど全部が全部それだったら、少し物足りない。だって、きものを着る気持ちを高めてくれるひとつに、「汚れたら困るわ」という大切なものを身につける昂揚感が含まれているのではないかと思うからです。
そのために、どうしてものときはコレという「逃げのきもの」を持った上で、日頃から汚さない練習を私はしています。

はい。次回こそ、お手入れの詳細についてあれこれお話を繰り広げたいと思います。



date: 2009年05月18日

subject: 柔らかもの単衣、そしてお手入れ

from: 佐藤文絵



雨の週末から一転、今日はとても心地のよいお天気でした。洗濯物がよく乾きますね。きものの虫干しにもぴったり。雨の後は湿気が残るから、明日あたりが最適でしょうか。

さてさてさて。樺澤さん、植田さんからいただいた単衣についてのアドバイス、大変勉強になりました。ありがとうございます! 生地の写真もたくさんみせてもらって、心ときめき、そして選択肢が広がりました。個人的な好みでは英さんが上級者向けとおっしゃる裏表の江戸小紋が気になります。おしゃれに着こなせたらいいですよね。

柔らかものの単衣・白生地選びは“ハリとシワのバランス”が要――なるほど、合点。まさにそういうことですね。
白生地の種類でいうと「変り無地」(これは変り三越と同じ意味ですね)楊柳、緞子(いわゆる名物裂の緞子ではなく、繻子組織の白生地のことを緞子と呼ぶのですね)、紋意匠、などの名前がでてきました。逆に一越や鬼しぼちりめん、綸子はでてきませんでした。でも単衣に向き・不向きは、白生地の種類だけでなく、その生地次第。適度にハリがあってそれでいてシワになりにくいかどうか、ということに尽きるのでしょうね。
もう少し検討して、秋を目指して初・柔らかもの単衣を誂えたいと思います。

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そこで、手持ちのハギレをシワ・チェック。かなりぎゅうっと10秒ほど握ってみたところ、このとおり。左=袷でも「シワになりやすい」と思っていた紋意匠はかなりくっきり 右=雨コートにした大島紬はさらにくっきり。想像通りでした。


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単衣の候補NO.1の変り一越はシワはつくけれど、シワの線がおぼろげです。そして時間が経つにつれ元に戻っていきました。



さて単衣のお話はこのくらいにして、“お手入れ”のお話。
うーん、お手入れ。着用の頻度がそう高くない私はそれこそ言葉に詰まってしまいますが、まずは植田さんのおっしゃっていた「汚さない工夫」は本当に肝要。
やはり手はこまめに洗うよう心がけています。着付けの前に、脱ぐ前には必ず手を洗います。ささくれがあったり、爪が欠けていないかどうかも確認します。生地にひっかけて糸がするる…なんてこと、ならないようにしなくては。特別大事にしている白っぽい帯や唐織を結ぶ際には医療用の白い手袋をすることも。着ているうちに手に汗をじっとかくこともあるし、気をつけていても爪に糸がひっかかること、ありますもんね。

お手入れはまだ「必ずここにお願いする」というお店は決まっておらず、いろいろ試してみている段階です。お手入れの代金はかなり開きがありますね。もちろんお安いほうがお財布には有難い、でも当然ながらきちんとやっていただけなかったら意味がない。しみ落としや丸洗いは、汚れが落ちているかどうかが見た目にわかるので、多少冒険してもいいかなと思っています。でも、汗まわりは注意が必要。すぐは分からなくて、あとから黄ばみとなって現れる汚れは、厄介です。いちど黄ばんでしまうと、それを落とすのは困難。多少高くとも汗ぬきをきっちりやってくれるであろう方にお願いしています。
例えばこんな淡い色の単衣。汗を多く吸っているであろう単衣や薄物は、毎年きちんとしたメンテナンスが欠かせません。

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左=単なる「丸洗い」では水性の汚れ=汗は取り除くことができません。汗抜きは別の工程なのですよね。右=一方、こういった裾の薄汚れは丸洗いの範疇。そろそろ出さなくては…。


それにしても、お手入れについては分からないことだらけ。丸洗い(=つまりドライクリーニングのことですが、生洗い、京洗いという表現も使います)はどんなふうにされているのか、袖口洗いは、ベンジンはどんなふうに使っているの? などなどいちど現場をみてみたいもの。近いうちにお手入れの現場へ取材に行きたいと思っています。


今日の夕方、あまりのお天気のよさに思い立って絹の長襦袢をお洗濯しました。この長襦袢は以前にも話題にのぼった一衣舎さんの「洗える仕様」。生地を十分に水通しして、湯のしで伸ばしすぎることなく仕立ててあるから、自分で水洗いができる優れものです。中性洗剤(アクロン)を使って、洗面台でじゃぶじゃぶ。軽く脱水をして室内に吊るします。生乾きのうちにアイロン…と思っていたのに、1時間も経たぬうちに重なっていない部分はすっかり乾いてしまい、焦って霧吹きをしつつアイロンがけ。干して30分でとりあえずアイロンが正しいのでした。それから衿などの重なっている部分をまたゆっくり乾かします。

暑い季節の長襦袢は、洗えることが本当に心強い!
水で洗える気持ちよさは代えがたいものです。

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和室の天井にフックをつけて、障害物に当たることなく干せるようにしています。ちなみに半襟はついたまま。褒められたことではありませんが、つい。

date: 2009年05月21日

subject: 縮緬考察〜単衣に向くのか&縮緬のお手入れ

from: 樺澤貴子



おふたりの話から、きものを汚さないように日頃から気を配る事の大切さを改めて考えさせられました! お手入れ話に加わりたいところですが、今日は少し話題を戻って、佐藤さんが思案しておられた単衣の蛍絞りの素材について触れたいと思います。また、コメントに寄せられたちっちさんの内容を拝見して、<縮緬素材は単衣に向くのか>ということについてお話させていただきます。

ちっちさんが、縮緬について詳しくお知りになりたいということでしたので、ここでちょっと縮緬のお勉強を。簡単にまとめると縮緬とは、経糸に生糸、緯糸に強撚糸を用いて織り上げたあとに、生糸に含まれる雑物を取り除くべく精練した生地です。緯糸となる強撚糸は、1メートルあたり3000回前後の撚りをかけたもので、右撚りと左撚りがあります。経糸に右撚りと左撚りを、どのように組み合わせるかによって、一越、二越(白生地産地によっては変わり古代縮緬ともいわれる)、三越、鬼しぼ縮緬などという縮緬の種類が生まれます(縮緬の呼び名は丹後や長浜など産地によっても違います)。

しぼが大きな縮緬は奥床しい光沢を放ち、ぽってりとした優しい表情が魅力。その一方で撚糸の収縮率も大きくなるため、きものとして仕立てるには難しいものもあります。以前、丹後の織物工業組合にお話を伺った際、かつてはしぼの大きさによって、きものの格が明確にすみ分けられていたそうです。あっさりとした一越は黒留袖や訪問着などを中心に格の高いきものに用いられ、二越は色無地、三越はカジュアルな小紋向き。一般的にしぼの大きいものほどカジュアル度が高くなるというのがセオリーでした。ただ、これはあくまでも目安。作り手が染めあがりの色彩効果を狙って、よりイメージに合った縮緬を用いる場合には、一越の小紋もあれば、三越の訪問着もあるのが現状です。

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きもの箪笥を改めて見ると私の柔らかもののワードローブは、小紋から訪問着まで柔らかものの7割が縮緬でした。あまり意識していませんでしたが、しぼの陰影や優しい光沢に惹かれているのだと思います。左上:付け下げ小紋はあっさりとした一越。右上:二越(変わり古代縮緬ともいわれる)の色無地。左下:変わり三越の蛍絞り。右下:鬼しぼ縮緬といわれる、ぽってりとした縮緬。(写真はすべて袷のきものです)


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プロフィール写真にも使われている鬼しぼ縮緬の帯。帯用の鬼しぼは、さらにしぼが大きくなります。


さて、これまでお話してきた一般論を踏まえて「縮緬は単衣に向くのか?」というお題に移りたいと思います。京都の絞り染めの作り手さんにお話を伺ってみたところ、以下のようなご意見でした。

「これまで私のところでは、しぼの大小にかかわらず縮緬素材を単衣に用いることはありませんでした。その理由は、撚糸を使っている限りしぼの収縮によって生地にくるいが生じるのが怖いからです。袷の場合は裏地に支えられているので生地が伸びる心配ありませんが、単衣の場合はダイレクトに表地のクセが出やすい。だからこそ縮緬は単衣に向かないという意識が我々作り手にはありました。ただ、最近は温暖化の影響で単衣の時季が長くなっているため、需要に応えるために各産地で単衣用の生地の開発が積極的に行われているようです。ことに長浜の縮緬は、糸の研究から、練り方(精練)、撚りのかけ方などを研究して、単衣に向く縮緬を開発していると聞きます」

という白生地産地の現状を教えていただきました。一般的に縮緬は単衣に向かないけど、最近は単衣に向く縮緬も登場している・・・。佐藤さんが単衣の蛍絞りを作ろうかと迷われていた変わり一越は、確か長浜縮緬でしたよね? ちっちさんが呉服店さんにすすめられている一目絞りの縮緬地の小紋がどちらの産地のものかわかりませんが、上記の染め屋さんのお話をもとに、伺ってみてはいかがでしょうか?

ちなみに、植田さんは以前メールでやりとりさせていただいたときに、縮緬を単衣にするのを好まれないとおっしゃっていましたね。その理由として、
「私の場合は、長襦袢にも居敷当てつけるし、単衣の後ろ身頃にも居敷当てをつけるんで(暑い!)生地の伸び縮みはさほど気になりませんのです。けれど縮緬の単衣って、<ふわふわ>してますで しょ。それが気になるわね」
と書かれていました。

私が以前取材した方のなかには、単衣縮緬を愛用者している京都の和菓子店の奥様がいらっしゃいました。拝見させていただいたきものは、ぽってりとしたしぼの大きな浅葱色の縮緬に柳と霞を染めた訪問着。正直、「単衣でこんなにしぼが大きい縮緬って、重さで生地がゆがみそう・・・」と思い、オブラートに包んでその旨を伝えると、その方は「でも、ちょっと梅雨寒の頃なんかは、縮緬が優しく映るわね。暑苦しくみえないように、色を抑えてもらいましたから」と、生地のデメリットには気にもとめておられませんでした。どんなに縮緬が単衣には向かないと言われようが、結局は人それぞれの好みなのね、と思えたエピソードです。ちなみに私の単衣も、よくよく見たら人のことは言えず、ぽってり縮緬でした。

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クリーム地に茶屋辻柄を淡い色目でまとめた付け下げ小紋。単衣の柔らかものは手持ちのバリエーションが少ないため、帯を変えて春・秋のどちらにも着ていますが、気分的には柔らかな色目が秋単衣に向いていると思っています。


さて最後に、縮緬のきもののヘビーユーザーならではの、ちょっとしたお手入れのこだわりをご紹介したいと思います。縮緬は他の素材と違ってアイロンをあてるとしぼが潰れてしまうため、シワ対策に気を配ります。

まず、着ていく前には2日前くらいからハンガーに吊るしておきます。そう教えてくださったのは雑誌でご一緒していた着付け師さんで、さらにアイロンのかけ方も伝授していただきました。「上質な縮緬は生地の重みによって大まかな畳ジワはとれるため、極力アイロンは使わないでね。外出から帰ったら、やはり2日くらい吊るし、それでも座りジワなどが着になる場合は、吊るしたまま手拭い越しに蒸気をあてるといいわ」との言葉を実践中。紬や表面に凹凸のない生地の場合は台に置いて手拭いをかけてアイロンをあてますが、縮緬の場合アイロンの重みをかけないように気を配ることが大切なのです。こうして箪笥に仕舞う前に、ひと手間をかけることで、次に着るときに最小限のシワだけですむことを実感しています。

と書くと、さも細やかに手入れをしているかのように聞こえますが、手を抜けることには極力手をかけたくない性分。長襦袢などは、ここ2〜3年はファスナー式の衿に作り変えたものを愛用しているため、帰宅後にジャッとファスナーを外し、洗濯機まかせで洗うことに胡座をかいている次第です。その勢いで、長襦袢も洗濯機で洗ったら、かなり縮んでしまいました(涙)。洗える絹と聞いていたのに・・・・・・なんでだろう?

date: 2009年05月25日

subject: 半衿の汚れを落とす

from: 植田伊津子



熱い単衣論議が続いています。樺澤さんの縮緬の単衣考は、私にとってもたいへん参考になるものでした。ありがとうございます。
私自身は、日に日に夏に近づく時期に着る単衣は、少々カタメにすっきりと着たいほうですから、すとんと落ちる感じのする生地が好み。やわらかものでもそういう生地を選ぶわけですが、私の好みに一番フィットするのは御召です。

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本シボ柳条(りゅうじょう)縮緬・オーラ縞の単衣。織道楽塩野屋でつくったもの。
塩野屋さんは、御召を独自に柳条縮緬と呼んでいます。光にかざすと、縮緬に似たシボがわかるでしょう。でも縮緬とは全然違う感触。ほどよいハリがあって、シャキッとしています。


御召は、経糸横糸ともに強い撚りをかけて織り上げた先染めの織物で、織り上げたあとに湯に浸けると撚りが戻ってうつくしいシボが再現されます。紬や友禅とはちがう、ひんやり、さらりとした感触が特徴。御召はたいへん着やすいですね。

また着付けるときにも布地がすべりませんから、腰紐を結ぶときも、おはしょりを決めるときも、きれいに着付けられます。そして着くずれしにくいため、気持ちよく1日を過ごすことができます。

自称「御召広報部長」である私は、もっと御召について語りたいのですが、でも今日はお手入れについてお話ししましょう。
次回、佐藤さんが「きものお手入れ処 松川調整所」さんからうかがった[家庭でできるきもののメンテナンス]のアドバイスをご紹介する予定ですから、今回の私は「半衿の扱い」について体験談をお話しすることにいたします。

きものを着る皆さんは、どんな半衿をお使いでしょうか。
正絹100%、ポリエステル100%、アセテート+絹の交織、アセテート+レーヨンの交織、夏用なら麻100%など、いろいろなタイプがありますね。
化繊半衿はふつうにゴシゴシ洗っても気遣いはいりませんが、もっともややこしいのは正絹100%でしょう。

そもそも、きものを着るたびに毎回衿を外して洗うのは面倒ですよね。もちろん私もなるべく手抜きをしたい人。
とりあえずは衿を外さずに、汚れ落としの溶液を使って拭いたのち、汚れが目立ってきたら衿を外して洗っています。
ところで半衿の汚れが目立つところは決まっています。のど下の鎖骨あたり、衿が身体に触れるところと背が触れる部分ではないでしょうか。

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衿を少しずらして見ると、黒い筋のような汚れがついているのがわかります。


ここの汚れは、化粧品や皮脂の汚れなので、「ベンジン」「リグロイン」、もしくは「エリモト」といった溶液を使って落とします。これは油性の汚れを落とすのに有効なものです。
(※ベンジンやエリモトなどは薬局で販売しています。リグロインがなかなか見つからない場合は、工業薬品を扱っているところに置いている場合が多いので、電話帳などで調べるとよいでしょう。また銅板画をつくる際に、このリグロインという薬品を使うところから、画材屋で扱っている場合もあります。私は画材屋で購入しています。)

衿をつけたままの長襦袢の下にタオルを敷き、溶液とガーゼを用意。換気にも注意してください。
たっぷりめの溶液をガーゼにつけて、汚れているところを手早くトントンします。

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なるべくこすらないように注意します。ベンジンやエリモトはすぐに揮発しますから、とにかくスピードアップしないと、溶液がいくらあっても足りません。


揮発すると、汚れが抜けきらないうちに汚れが輪状になって固定されます。輪染みができるのは、使用する溶液の量が足りないか、衿汚れが重症ということだと思いますので、ドバドバの量を増やすか、いっそのこと外して洗えば問題ありません。
衿を拭いてきれいになったら、しばらく干して完全に溶液を飛ばしてから仕舞います。

さて、汚れが目立ってきたら、いっそのこと衿を外して洗ったほうがすっきりします。
ぬるま湯にドライ用の液体洗剤(もしくはシャンプー)を適量溶いた洗剤液を、洗面器かボールに用意します。汚れの目立つところは、歯ブラシ、もしくは棕櫚などのやわらかいブラシに洗剤原液を直接つけて落とします。

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汚れた箇所にブラシをいったん置いたら、そこを小刻みに揺らす感じ。力を入れる必要はありません。ゴシゴシ繊維の上をこすると毛羽立ちますね。


部分洗いをしたら、全体を数度押し洗いして、水でよく洗剤をよくすすぎます。そのとき、柔軟剤(もしくはリンス)を使うとよいともいわれていますが、別に使わなくてもかまいません。そして、タオルで挟むようにして脱水し、お風呂場に干して完了。

絹は日光に当たると、黄変の速度が速まるように感じます。ですから陰干ししてくださいね。また洗うときに熱いお湯だとすごく縮みます。はじめ人肌ぐらい(40度弱)のお湯で洗ったら、幅は2cm強ほど、長さが10cm以上短くなってビックリしました。

そして生乾きぐらいのときにアイロンをかけます。小じわを残したまま完全に乾いてしまったら、霧吹きやスチームで湿り気を与えてください。その際、手ぬぐいを当て布として使用するとよいでしょう。

以上が私の正絹の半衿の洗い方です。
正絹の注意事項は下記のとおりでしょうか。
・正絹は摩擦に弱い。こすると繊維が毛羽立つために、汚れを拭くときはこすらない。洗うときも、ゴシゴシと強いもみ洗いは避けたい。
・筋汚れを部分洗いするときもこすらない。やわらかい毛のブラシを小刻みに動かす。
・お湯を使うと縮む。水に近いぬるま湯を使用。
・日光に当てない。
・アイロンをかけるときに当て布をするとテカらない。


正絹の半衿は手入れがわずらわしいと思われるかもしれませんけれど、絹の独特な風合い、人肌になじむ自然な色目は、捨てがたいもの。年配者にとって、ポリ半衿の真っ白さは、首の老化を際立たせたりします。
その一方、化繊半衿の扱いの簡単さを知ってしまうと、あまりに楽なので、そっちに流れていくのも当然かもしれません。ポリ半衿はゴシゴシ洗っても毛羽立ちませんし縮まない。干すときも気を遣わなくてすみます。洗える化繊の長襦袢に、化繊の半衿をつけていたら、襟をつけたまま洗濯機に放り込むこともできます。

最近は、手入れがしやすい「絹とポリの交織」や、ポリ半衿でも肌なじみのよい生成色(とても便利です)が販売されています。そういう新商品をうまく利用して、衿の手入れが負担にならないことがいちばんだと思います。

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左が正絹の半衿で右が和想庵の生成り色のポリ半衿。ほぼ同色に見えませんか。和想庵のこのシリーズは使える微妙な中間色がそろっていて、白半衿フリークの人も一見の価値があります。
和想庵は、京都の和装小物製造卸の「衿秀」が扱うブランドです。先日も和装小物専門店などで見かけましたけれど……詳細はこちらへ→衿秀の問い合わせ先(TEL:075-221-8706)

date: 2009年05月27日

subject: お手入れ講座 〜基礎知識編

from: 佐藤文絵



まもなく六月。中高生の制服も一斉に夏服へ衣替えですね。だけど最近は移行期間なるものが設けられていて、1〜2週間は(さらに長く設ける学校もあるようですが)どちらを着てもいいですよ、ということになっているのですってね。ちょっと羨ましくなります。
きものの衣替えについては、すでにやりとりをした通り「場に応じて臨機応変に」ですが、何かと気を遣うお茶の世界などでは、学校のように「いついつからいついつまでは移行期間とする」などとお家元の公式見解を出してもらえたら、皆大変助かるのになあ、と思うのであります。公式見解に頼るのは情けないようですが...。


そんなつぶやきはさておき、本格的な衣替えを前に、先日単衣のきものを引き出しの底からひっぱり出しました。同時に、袷のきものを改めて点検し、メンテナンスに出すべきものは出すなどしてお手入れ――をしなくてはイケマセン。次の秋、また気持ちよく着られるようしておかなくては。

このあたり、わりと無精にしてきましたので、これを機に!と少し勉強しました。そして本職の方からもいろいろ教えていただいてきました。今日はまず、すごーく基本的なところからおさらいしていきたいと思います。
以下宿題のレポートみたいになってしまいました。興味のない方はスルーしてくださいね(笑)。だけど知っているようで意外に知らないことかも……なので、できればお付き合いのほど。


さて、そもそも衣類の汚れとはどんなものなのか!?というお話からはじめます。
汚れには、水溶性・油溶性・不溶性、という3つの性質があります。水溶性は文字通り水に溶ける汚れ、油溶性は油に溶ける汚れ。そして何にも溶けない不溶性の汚れは洗うのでなく「取り払う」必要があります。もう少し詳しくいうと…。

(1)水溶性の汚れ
たんぱく質、尿素、アンモニア、糖類、でん粉、塩分など。
例えば、汗、血液、ジュース、ワイン。
油に溶けにくく、水に溶けるから、水洗いが有効。
汗の成分のひとつ=たんぱく質は、そのまま放置しておくと黄ばみます。早めの水洗いが大切。

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汗汚れは、黄ばんではじめて目に見えます。こちらは袷の着物の胴裏、脇まわり。見た目は真っ白だけど、霧吹きをしたら隠れた汗じみがくっきり浮き上がってきました。


(2)油溶性の汚れ
例えば、油脂、皮脂、食用油、化粧品(ファンデーションや口紅)、食べこぼし。
水に溶けにくく、油に溶けるから、ドライクリーニングが有効。
あるいは界面活性剤(石鹸であれ化合成洗剤であれ)を使った水洗いも有効です。界面活性剤は油汚れを包み込んで衣類から引き離し、水中に散らばせてくれます。

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もっとも汚れやすいのは、袖口と襟もと。首と手首は特に清潔を心がけるべし。それでも汚れるのは避けがたいものです。


(3)不溶性の汚れ
例えば、ホコリ、土ぼこり、泥、錆、繊維くずなど。
不溶性の汚れは繊維のうえに「乗っかっている」イメージ。
水にも油にも溶けないから、何より日々の「ほこりとり」が有効。
水洗い、ドライクリーニングもある程度有効です。汚れが液中に流れるから。

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裾まわりは土埃を集めがち。日々の「ほこりとり」が大事です。


というのが汚れの3つの分類。ただし殆どの汚れは単体でなく複合的なものなんですね。例えば汗(水溶性)と皮脂(油溶性)の汚れは同時に付きますし、食べこぼしには水も油も混ざりあってます。ここがお手入れの難しい部分です。


では、これらの汚れに対するお手入れというと、きものの場合(自分で水洗いができる綿や麻、洗えるきものは別として)、こんなステップがあると思います。

(1)日々着たあと ⇒点検&ほこりとり&陰干し
まずハンガーにかけて点検、そしてブラシでほこりとり。私は東京の平野刷毛製作所の「着物ブラシ」を数年愛用しています(といいつつ、毎回はやっていません・・・反省)。
陰干しの時間は2〜3時間、長くて半日、なぜなら裾が袋になるなど型崩れの原因となるから、というふうによく言われます。
(ただし“皺を取る”という別の目的があるならば、樺澤さんがおっしゃっていたように2日ほど吊るしておくのもありなのでしょうね)

(2)日々積み重なる汚れ ⇒袖口・襟もと、汗抜き
先日植田さんが「エリモト」などの溶剤を使った半襟のお手入れを紹介してくださいました。ほとんど同じ要領で袖口や襟もとのお手入れもできます。やり方は次回詳しくご紹介したいと思います。私は溶剤を使う量とか、スピード感、そのあたりがなかなか掴めないなあ、と常々思っていました。その疑問を解消すべく、プロのお手入れの様子をビデオに収めてまいりました。

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なにやら慣れぬ手つきは、本職でなく私です。教えていただき、試行錯誤やってきました。


汗抜きについても自分でお手入れすることで、多少は汚れを軽減することができそうです。これも次回ご紹介するとして、プロの汗抜きはというと、こんなふう。

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汗じみが見つかったところに霧吹きで水をふきかけます。すると布の下に隠れている吸い取り装置がみるみると、吹きかけた水を吸い取っていきます。こうして汗の成分が水に移って、きれいになります。


(3)部分的に汚してしまったら ⇒染み抜き
汚れの種類にもよりますが、染み抜きはやはりプロにお任せしたいところ。汚れによって、手を替え品を替え・・・ノウハウの蓄積があればこその世界です。大きな流れではベンジン⇒シンナー⇒水というふうに順番にテストしていくそうですが、とにかく技はたくさん。

ここで気になるのは汚してしまったときの「とっさの応急処置」です。水、血液、ソース、ワイン、インク・・・などなど様々な汚れがありますが、いずれにしても応急処置としてやっていいのは「水分を乾いたもので吸い取る」のみ。無理に吸い取ろうとすると、繊維の奥に汚れをますます浸透させることになるので、軽く押さえる程度。ついおしぼりなどが手元にあるととっさに使いたくなるのですが(実践済み・涙)、おしぼり厳禁です。そして吸い取る際は上から垂直にぽん、ぽん、とするのみに。押さえつけてはいけません。つい手に「ぎゅっ」とスナップがかかってしまうのですが、これもいけません。 何もしなければ水だけで綺麗に落ちたものが、おしぼりを使って押さえつけると、その後の処理に手こずり、染み抜き代が2倍3倍になってしまう…ということも少なくないそうですよ。
「水分を乾いた布で垂直に押さえるのみ。そしてすぐに染み抜きに。これ以外にして良くなることは一切ありません!」です。

(4)全体的に薄汚れてきたら ⇒丸洗い
丸洗いは、京洗い、生き洗いなどとも呼ばれますが、語感に反して、つまり“ドライクリーニング”。洋服のドライクリーニングとの本質的な違いはなく、扱い方が少々丁寧になる程度。溶剤には石油系のものが使われます。ただ乾燥のやり方には違いがあり、洋服の場合は乾燥機、きものの場合は自然乾燥、というのがオーソドックスなルールだそうです。

ドライクリーニングは、油溶性の汚れには強いけれど、水溶性の汚れを落とすことはできません。だから汗を多く吸っているものは別途汗抜きが必要。お手入れの業者によって料金体系は異なり、汗抜きも丸洗いに含まれている場合もあれば、別の場合もあります。チェックした上で“汗抜きが必要ですよ、つきましてはいくらいくら”と言ってくださる業者もあるし、チェックしない業者もあるかもしれません。いったん汗が変色してしまうと、それを消すのはかなり難しくなります。特に汗が気になるものは、確認しておいたほうがいいですね。

今回取材にご協力いただいた、京都のきものお手入れ処、松川調整所の丸洗いワークフローをご紹介すると、まず必ず汚れる部分をまっさらの溶剤で下洗い(具体的には襟まわり、袖口)したうえで、ドライクリーニング用の洗濯機で洗います。その際、溶剤のなかに洗剤や柔軟材を全く入れないのが特徴。ドライクリーニングの性質上、溶剤から洗剤を除去することはできず、必ず生地に洗剤の一部が残ってしまうのだそうです。下洗いをきちんとしていれば洗剤は必要ない、余計なものを残さないことが重要、との考えからこのようなやり方をされているそうです。溶剤を脱水したのちは自然乾燥。溶剤は完全に揮発するため、生地には何も残らないことになります。そしてふたたび検品、最後が仕上げ(アイロンがけ)、という流れ。

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左=こちらがドライクリーニングの洗濯機。きものだからといって特別な機械を使うわけではありませんが、一般のクリーニングより小ぶりのものを使う場合が多いそう。こちらは10kgまで入る小さめタイプ。きもの1枚ずつネットに入れて10枚まで一緒に洗濯可能。右=溶剤を脱水したあとは、ハンガーにかけて自然乾燥。ドライクリーニングの溶剤は揮発性が高いのでほどなく乾きますが、半日はこの状態で完全に乾かします。


(5)すべてをさっぱりリセット ⇒洗い張り
洗い張りは最終手段かつ最良の手段。
きものを解いて、ごしごしと水や洗剤で洗います。ぴしっと伸ばして乾かします。布が蘇り、きものが蘇ります。ただ仕立てまですべて含めると数万円かかるわけですから、おいそれとはできませんね(自分でやっていた昔の人は偉大です)。


以上がお手入れのアウトライン。続きは次回、自分でできるお手入れについて、実践編ということでご紹介したいと思います。何か疑問などありましたら、お寄せくださいね。先生・松川さんがきっと応えてくださることでしょう!

そうそう、先日樺澤さんが最後に書いてらした、洗える絹の長襦袢が縮んだ件ですが、読んでくださった松川さんからこんなコメントをいただきました。
「洗えるといっても約3%縮むものもあります。その為3%縮むことを計算して仕立てるか、仕立てる前に水洗いして縮ませるかどちらかが必要です。3%、少ないようですが袖丈で4分、身丈だと1寸以上縮む計算です。」
うーん、確かに袖丈で4分というと、なかなか大きいですね...。


最後にお知らせをひとつ。今回お手入れについて教えてくださった松川調整所では衣替えを前に「着物お手入れ教室」を開催されるそうです。日程はこの週末、場所は京都・祇園店と、長野・松本店にて。まだ空いている回があるということなので、ご興味のある方はぜひお問い合わせのほど。貴重な機会だと思います。

<着物のお手入れの基本と簡単なシミ抜き方法を学ぶ>
●祇園まつかわ本店(京都市東山区花見小路四条下ル建仁寺東)
5月31日(日)、6月1日(月)
(1)10:30〜12:00 (2)13:00〜14:30
(3)15:00〜16:30 (4)17:00〜18:30
●祇園まつかわ松本店(松本市深志二丁目6-3 川澄ビル1F)
5月30日(土)、31日(日)、6月1日(月)
(1)11:00〜12:30 (2)13:00〜14:30
参加費はともに2,500円(染み抜きブラシのおみやげ付き)
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