date: 2010年03月11日

subject: 八掛と胴裏

from: 佐藤文絵



植田さん・樺澤さんの補正と着付けのお話、とっても参考になりました。
私は晒でくるんだタオルをウエストまわりに1枚、背中のくぼみにタオルを1枚&腰パッド、という3点セットがいつもの補正です。先日母から「鎖骨のあたりがさびしいから、柔らかもののときは胸元にも補正したほうがいいわよ」といわれて、今度からそれも加えようと思っているところです。
補正はとても大事なんだけど、できるだけシンプルにしたい気持ちもあります。脱脂綿はプロの着付けの方がよく使われますね。形も厚みも自由自在だから、とても合理的。樺澤さんが紹介してくれた三角型のもよさそうです。私も胸元の補正に何か見繕おっと。


さてさて今日は、きものの裏地のお話をさせてください。
というのは、以前長襦袢の話を伺いに京都のメーカー、浅見さん(公式サイトはこちら)を訪ねた際(→2009/08/28の記事参照)、八掛と胴裏のことも、多く教えていただいたのです。恥ずかしながらまったく頓着していなかった部分で、新たに知ることばかりでした。ほとんど受け売りかもしれないのですけど、ご紹介したいと思います。

まずは八掛について。
八掛はおしゃれアイテムでもあるから、こだわりをもって選ばれている方も多いと思います。ちらりと色がのぞいた瞬間、にくいっ!と唸ってしまったこと、何度かあります。
自分についていえば、八掛のおしゃれは先の楽しみと思っていて、無難に共色か、共濃・共薄に染めてもらっています。すくないワードローブで着まわすには、八掛で遊んでしまうと、コーディネイトがしずらくなってしまうのです(それは私が全体的に色数を抑えめにしたいからかもしれません)。

色のことはさておき、機能的に大事なのは〈すべりがよいこと〉〈伸び縮みしないこと〉、この2点であると教えてもらいました。
すべりがよい=裾さばきがスムーズにするために。伸び縮みしない=裏地が収縮すると裾が“袋”になりやすいから、ということですね。

素材のほうは、実はいろいろバリエーションがあるようですが、一般的には、柔らかものに薦められる後染の「精華パレス」、紬用に薦められる先染の「駒撚り」、この2種類になると思います。

【紬につける八掛】
紬用に作られている「駒撚り」の八掛は切れやすいという弱点があり、避ける方も少なくありません。薦めない呉服店もあります。私も一枚駒撚りの八掛をつけた紬があるのですが、着ている回数に比べてだいぶハイペースで傷んでいくなあと実感しています。
「紬だから紬用で」とあまり考えずに選んでしまったのだけど、精華パレスにしておけばよかったと後悔。ほっこりとした紬とつるんとした精華パレスとでは、たしかに風合いの違いは大きいです。でも、それより強度を優先したいです。

ところが、強度もあり、風合いもぴったりの八掛があるんですね。真綿紬の八掛は、風合いがあって、後染ができ、摩擦に強いとききました。

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左=ざっくりとした風合いのある紬用の八掛。既成の色から選ぶのではなく、別染ができるのがうれしい。こちらの八掛、気になるお値段は、精華パレスなどの1.5倍くらいとのこと。=棚にずらりと並ぶ八掛の図。なかなか壮観だったので、思わずパチリ。


例として無地紬の八掛を想像してみると、きれいな感じで着るなら精華パレス、ほっこり素朴モードで着るなら真綿紬――そんなふうに選ぶといいのかなあと思います。で、こちらの久米島紬など、洗い張りの折には、ぜひ真綿紬の八掛に取り替えたい候補ナンバーワン。

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無地の八掛だと、裏うつり(八掛と胴裏と色の境目がうつってしまう)してしまうかも、とのアドバイスでぼかしの八掛に。仕立てあがってみると、紬の風合い、絣の色合いと、精華パレス&ぼかしの八掛はどうも違和感が…。八掛の色(別染なのですが)が明るすぎて、逆に表地の色がくすんで見えてしまっている気も。


【ぼかしの八掛】
ぼかしの八掛は歴史が浅く、戦後に生まれたもののようです。薄い色のきものが流行し、それに合わせて作られるようになったと言われています。
ぼかしの八掛は、洗い張り後に、汚れた部分、擦り切れた部分を縫いこむには限度があり、天地をひっくりかえして使うこともできないから、もったいないのですよね。
でも薄い色のきものには仕方がないのか…。
と、あきらめることなかれ。長尺の八掛という選択肢があります。

【長尺の八掛】
普通、八掛の長さは1丈強(訪問着などに用いられる八掛付きの反物を四丈物、普通の反物を三丈物といいますよね。実際はもう少し長いようですが)。仕立てると、八掛の長さは標準で裾から1尺6寸になります。
いっぽう長尺の八掛は1丈5尺ほどあり、主にお引きずりのきものや、胴抜き仕立て(胴裏を使わない仕立て)* に使われているようです。これを普通のきものに使うと、おはしょりで隠れるところまですっぽり八掛が覆ってくれて、胴裏との境界線が表にひびきません。具体的には、衽についている八掛のラインと同じ高さに、一本に揃えることができます。
ただし胴裏・八掛の継ぎ目に腰紐の位置が重なるとゴロゴロしそうだから、そこは気をつけたほうがいいかもしれませんね。

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浅見さん曰く、
「日本人の体型に合わせて反物の巾や長さは変わっていっているのに、八掛の長さだけが取り残されているのかも知れません。」
とのこと。そして長尺の八掛もあるということを知ってほしい、とおっしゃっていました。
うーん、なるほど!

* 胴抜き仕立てにはいくつかバリエーションがあるようです。丸富さんのウェブサイトにその説明がありました。
http://www.shitatemasu.com/modules/news/index.php?content_id=29
(長尺の八掛は選択肢にないようですが、いかがなものでしょう?>富田さま)

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ふと見ると、一枚のきものは長めの八掛がついていました。「今の方だと1尺6寸より長いめにしたほうがバランスがいいですね」と話すのは仕立ててくださった呉服店の方。裾から2尺1寸ほどあります。
また、こちらは真っ白の胴裏をよしとせず、表地に沿う色に胴裏を染めるのもこだわりのひとつ。



【胴裏にとって大事なのは?】
さて最後に胴裏について。同じく浅見さんによれば、胴裏にとって機能的に大事なのは〈表地との一体感〉そして〈長襦袢との一体感〉にあるといいます。胴裏は、きものと長襦袢をうまく繋いでくれるものでなくてはいけない。うまく繋いでくれると、着崩れが生じない、ということなんです。つまり八掛とは求められる機能がまったく違うんですね。

「胴裏は、表地と長襦袢、双方に沿って馴染むことが大事です。つなぐ役目だから、本来つるつるしていてはいけない。昔は裏絹(胴裏のこと)に羽二重は使わなかったのです。裏絹といえば、節絹あるいは玉絹がふつうでした。
ただ節絹は太い糸で織られていたため、目が粗く、最終段階で強度をもたせるためにでんぷん質の糊で固めていました。当時は家庭でまめに洗い張りをしていましたから、それでよかったのですが、めったに着物を着ない、虫干しをしない、家の中の機密性が上がっていく…という生活の変化で、胴裏にカビが生じる結果となり、廃れていったのだと思います。
当社では経糸と緯糸の密度をうんと密にすることで、後加工をしなくとも強度のある節絹を織ることができるようになりました。残念ながらあまり一般的ではなく、本当にこだわっている方にお使いいただいている…という商品です。でも、本来胴裏として優れているはずの節絹の良さに、もう一度気づいてほしいと願っています。」


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こちらが浅見製の胴裏。節のあるものと、節の目立たないものとがあります。またまた気になるお値段ですが、なにしろ定価のないきものの世界のこと。価格はお店によるため一概にはいえませんが、特に高価なわけではなさそうです。胴裏もピンからキリまで。松竹梅の松クラスというところでしょうか。
現在流通している胴裏の多くは「グラフト加工」という後加工がされています。これは増量加工とも言われます。加工することで、つるつる、なめらかな風合いになるのだけども、そういった加工無しの、いわばすっぴんの絹、ギシギシとした手触りのものこそ、きちんと繋ぎの役割を果たすはず、ともおっしゃっていました。


胴裏とはつるつるしたものだと思っていたから、このお話は目からウロコでした。確かに昔のきものには、節の目立つざらざらとした胴裏、紅絹が使われています。それにはちゃんと理由があったのですね。次にきものを仕立てるときには、“節絹の胴裏”をつけて、その着心地を味わってみたいと思っています。


月をまたいで続いている〈着付けと仕立て〉のお話。私が書かせてもらうのはたぶんこれが最後です。またまた長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
では、また。

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寒さがゆるみ、ふたたび暖かくなってきましたね。これはチンゲン菜のお花。かわいいでしょう。食べ損ねたチンゲン菜(笑)、きれいに咲いてくれました。
COMMENT
佐藤様

1年間お疲れさまでした。
本当に終わってしまうのですね...。
まだまだ伺いたいお話がたくさんあったのですが...。

八掛と胴裏に関するこんなに突っ込んだお話が聞けるのなんて、こちらのブログ以外にはないと思います。

是非このブログは永年保存でお願いいたします。

これからも折にふれ、読み返していきたいと思います。

植田さまと樺澤さまは、まだ1回くらいは記事を書いていただけるのですよね?
楽しみにしておりますので、何卒よろしくお願いいたします。
Posted by ゆずき at 2010年03月14日 11:41
ゆずきさん、
コメントありがとうございます。ここ最近はホントに細かい話が続いて、ドン引きされてはいるのではと不安に思っているところでした。だからほっとしました(^^)
具体的に何かリクエストがありましたら、こちらでも、あるいはメールででもお知らせくださいませ。
Posted by 佐藤文絵 at 2010年03月17日 12:37
はじめまして
最近着物にめざめたのですが
貧乏人には呉服屋さんが恐ろしいところに思えて
無料着付け教室のはずが
なにかといえば買わなければならなくて
縁あって手にした反物をしたてたら
もう辞めにしようと思ってます。
ただ、八掛はついているのに、胴裏がありません。
長じゅばんは反物でひとつあるので、かわりにつかえないでしょうか。
ちなみに、反物は臙脂色で襦袢地はしろっぽいものです。
着物はさわり心地もデザインも大好きなのに、
踏み込んだら底なし沼みたいなせかいで・・・・
もっと、カジュアルに楽しんでいるサイトとか
最近はあるみたいなので、
そんなところで遊びたいと思っています。
へんてこな、質問で失礼だと思いますが、
もしご迷惑でなかったら、
ご指南よろしくお願いいたします。
                  しょうこ
Posted by すずきしょうこ at 2014年03月14日 02:48
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