date: 2010年02月24日

subject: 寸法のお話・その4

from: 佐藤文絵



一昨日から2日ちかくブログのサービスがメンテナンスに入ってしまい、今日ようやくの更新です。二月も終盤なのに、ちっとも話題が〈着付けと仕立て〉へ移っていきません・・・。が、今日予告どおり身巾のお話をさせてください。

身巾は立ち姿の印象をかなり左右します。広すぎるともさーっとした感じがするし、狭すぎると逆に太って見えるようです。理想はやはりすっときれいな立ち姿ですよね。だけどぴったりすぎる身巾も考えもの。動きやすさも大切だし、体型が変わることもあるから、ほどよいゆとりが必要です。
身巾がちょうどいいと、着付けもスムーズ。上前をあわせてから、下前を合わせて――というステップが必要なくなります。背中心もまっすぐ通ります。

理想はこんな感じ(人によって違うと思うけれど)。真正面からみたときに、身体の両脇が上前の脇線と褄下の端の線がちょうど沿っているカタチです。

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さて私は最初に寸法をとってもらったときが人生でいちばん太い時期だったもので(涙)、それからしばらく後に身巾を少し狭くしました。そのあとお茶をはじめた関係で前巾を広くしたりという調整を経て、今に至っています。
ところで裄丈と着丈は昔のほうが今より平均的に短かったわけだけど、身巾は逆に広めだったようです。“女並寸”と言われる女性の標準寸法は、身長150cmちょっとで身巾は94cm。だいぶ広い感じがするのですが、おでかけ着ではなく日常着ならこのくらいゆとりがあるほうがいいのかもしれませんね。


【9】前巾(腰と裾)・後巾(腰と裾)・衽巾・合褄巾

身巾は腰まわりのいちばん太い部分(ほとんどの人はヒップ、まれに太もも)を基準にします。ヒップがいちばん太いとすれば、その寸法を前巾・衽巾・後巾×2のに4つに分け、それぞれにゆとりを加えます。
では、どのように分けるか。
基本は、前巾+衽巾が正面から見えるところを担当。後巾がそれ以外、つまりお尻をすっぽり包み込む担当です。

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具体的な寸法はその人の体型とどのように着るかによって変わってきます。骨盤は張っているけれど厚みのない「平べったい」体型なら、前巾+衽巾を広めに。骨盤は張っていなくて厚みがあるならその逆。お茶などで正座をすることが多いなら前巾を広めに&ゆとりを多めに・・・というふうに按配するようです。
ゆとりの量は、『和服寸法百科』(ふたば書房刊/絶版)によると普通体型の人でヒップ+7cm(前巾に+2cm、後巾に+2.5cm)が目安です。

私の場合は、前巾6寸7分・後巾7寸6分・衽巾4寸。ちなみに女並寸は、前巾6寸・後巾7寸5分・衽巾4寸。前巾を3センチくらい、後巾をほんの少し足していることになります。
で、この前巾・衽巾・後巾のバランスは、専門家と相談して決めたほうがよさそう。なぜなら、寸法って互いに影響しあっているのです。たとえば前巾を広くしすぎると衿付けの関係で抱巾が広くなる・・・といったことが起こるそうです。
身丈や褄下、袖丈などは自分で考えて「この長さがベスト」と思われる数字を出せばいいと思うのですが、身巾やこれからお話する抱巾などは無闇にいじると“寸法の黄金率”が崩れて、おかしなバランスになってしまうかもしれません。


[身巾の腰と裾]
ここからちょっと細かい話に入ります。
きものの「前巾」「後巾」というと、裾で測るのが一般的です。腰も裾も同じ巾ならそれでいいけど、普通は腰より裾のほうが広くなっている(腰<裾)のです。あるいは裾つぼまりな仕立て(腰>裾)になっている場合もあります。
つまり、裾で「前巾」「後巾」を測ると誤解が生じやすいため、私は腰と裾を分けることにしました。衽のほうは、裾を衽巾、腰を合褄巾といい、明確に分けられています。それと同じことですね。
和裁士の村林益子先生が著書『美しいきもの姿のために』(筑摩書房刊)のなかでこんなふうに書かれています。

きものの後巾、前巾は、従来は裾で測っていますが、着付けを教える中で気づくことがあり、私は昔、「後腰巾」「前腰巾」という言葉をきものに取り入れました。身巾は裾ではなく一番太い腰で決めるのがよいと思ったからです。
『美しいきもの姿のために』(筑摩書房刊)P158より


[裾つぼまりの仕立て]
手持ちのきものの前巾・後巾を、腰・裾の両方で測ってみると、同じ寸法表で仕立ててもらっているのに、あるところはまっすぐだったり、あるところは極端に裾つぼまりになっていたりと、いろんな仕立てがあることがわかりました。考えてみれば、それもそのはず。仕立ても呉服店のこだわりのひとつですもんね。
私は骨盤がわりと張っているほうなので、旧来どおりのまっすぐな寸法だと、どーんとした下半身になりがち。もちろん裾つぼまりな着付けを心がけるのですが、下前はしっかり褄先をあげられても、上前のほうはあまり大胆に褄先をあげられません。下前だけあげすぎると背中心が斜めになってしまいます。一方であらかじめ裾つぼまりに仕立ててあるきものは、とうぜん無理なくきれいな裾つぼまりになってくれました。
裾つぼまりな仕立ては、布に対して斜めに縫うことになるため、布にちょっと無理がかかるのかも知れません。縫込みのなかが落ち着きにくいとききます。でもやっぱり体型はカバーしたくて、裾つぼまりの仕立てをしてもらうようになりました。具体的には、前巾で−2分(8mm)、後巾で−3分ずつ(11mmずつ)控えています。

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[衽巾と合褄巾]
標準寸法では、衽の巾は裾(衽巾)のほうが腰(合褄巾)よりも広くなってます。衽巾>合褄巾なんですね。だけど、ふつう腰のほうが太いのに、なぜ腰でなく裾のほうを広くするのか不思議に思っていました。
この点についても、同じく村林先生がこのように書かれています。

私は、合褄巾と衽巾を同寸にすると主張してきました。おうちのきもので調べてみてください。衽巾より合褄巾は多いもので3cm近くも狭く仕立てられています。昔のきものは裾のふきが8mmから2cmと太く仕上がっていましたから、裾巾は広いのがかえって優美でした。しかし、今日ではふきの太さも5mmくらいに細くなっています。合褄巾は腰周りの一番太い部分ですから、裾へいって広げず、細い方はそのまま狭く、太った方は裾の寸法をそのままつめずに合褄巾を同寸にしたほうが着易く、形のよいきものになります。
『美しいきもの姿のために』(筑摩書房刊)P158-159より



私は松林先生の考え方に賛同。衽巾=合褄巾(これを“通し”“衽巾通し”といいます)の寸法にしています。
身巾に関する細かい話はここまでです。


【10】抱巾
身八つ口止まりの箇所の前巾のことを抱巾(だきはば)といいます。標準では(ヒップよりバストのほうが細い人は)前巾より4分ほど控えるようです。抱巾を詰めることで胸から脇にかけての布のだぶつきが抑えられるんですね。逆に鳩胸さん、胸の大きい人は前巾と同じ寸法(これも“通し”“前巾通し”といいます)にします。

胸から脇にかけての布のだぶつきは、抱巾に加えて、衿付けによって調整することもできるそうです。衿まわりはいわば唯一立体的な箇所。衿付けは仕立て屋さんの技術力がいちばんに表れる部分だといわれています。寸法表には表れないものの、衿付けに曲線を付けることで胸まわりのだぶつく布を衿のなかに縫い込んだり、あるいは胸の大きな人にはゆったり着られるようにと、微妙な調整ができる部分なのだと和裁士さんから教えてもらいました。

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裄が長い=肩巾が長いと、脇のあたりに布が余りがち。抱巾や衿付けを見直してみると、改善するかもしれません。


肩幅が長い、抱巾を狭く、裾つぼまりに・・・。そんな条件のもとできあがった寸法は、斜めに傾いた縫い線が多くなってしまいました(文末に寸法表&図を再掲しました)。

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まっすぐ直線に縫うほうが、縫うのも楽なはずだし、布にも無理がかからないのは重々承知。でもそれだとすっきりとした着姿になりにくいのも事実です。和裁士さんには苦労をかけているのかもしれないけれど、とりあえずこんな寸法になりました。


以上、寸法についてひとつずつみてきました。寸法の割り出し方は、和裁所の流儀や考え方、地域性などいろいろあるようです。ここに書きましたのは、あくまでひとつの考え方(かつ素人の)として捉えてください。間違って理解していることもあろうかと思います。お気づきの点がありましたら、ぜひともぜひとも、ご指摘くださいませ。

寸法も大事だけど、着付けも大事。そして体型も一定ではないのだから、寸法にあまり厳密になる必要もないと思います。細かい話をしておいて説得力がないようですが(笑)、ボチボチいきましょう。
では、次は植田さんのお話を楽しみにしてます。

寸法表
身丈(肩から)4尺 5寸 5分( 172.4 cm)←【1】
裄丈1尺 8寸 5分( 70.1 cm)←【2】
肩巾 9寸 2分( 34.8 cm)←【3】
袖巾 9寸 3分( 35.2 cm)
袖丈1尺 3寸 5分( 51.1 cm)←【4】
袖丸み 1寸 0分( 3.8 cm)←【5】
袖口 6寸 0分( 22.7 cm) 
袖付(前) 6寸 5分( 24.6 cm)←【6】
袖付(後) 6寸 0分( 22.7 cm)
前巾(腰) 6寸 7分( 25.4 cm)←【9】
前巾(裾) 6寸 5分( 24.6 cm)
後巾(腰) 7寸 6分( 28.8 cm)
後巾(裾) 7寸 3分( 27.7 cm)
合褄巾 4寸 0分( 15.2 cm)
衽巾 4寸 0分( 15.2 cm)
抱巾 6寸 2分( 23.5 cm)←【10】
褄下=衿下2尺 2寸 5分( 85.2 cm)←【7】
繰越 7分( 2.7 cm)←【8】
衿付込み 7分( 2.7 cm)
衿肩あき 2寸 5分( 9.5 cm) 
衽下り 5寸 5分( 20.8 cm) 
共衿丈1尺 3寸 0分( 49.2 cm) 
身八つ口 4寸 0分( 15.2 cm) 


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COMMENT
いつもとっても興味深く読ませていただいています。特に今回の寸法のお話は、とても気になっていたことだったので、勉強になりました。
勝手に、ブログの中で紹介させていただきました。
すみません。
これからも、楽しみにしています。
Posted by annette at 2010年03月08日 22:48
annetteさん
ご紹介いただきありがとうございます。遅まきながら御礼申し上げます。
わたしも“脇線からはみでる”経験者です。前巾は広すぎてもいけないし、狭すぎてもいけないし。いいバランスがみつかりますように。
Posted by 佐藤文絵 at 2010年03月17日 12:30
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