date: 2009年12月20日

subject: 木綿のきもの

from: 植田伊津子



年の瀬が近づいてようやく冬らしい毎日となりました。ここのところきものを着ておでかけする日が続いていますが、首もとを温めるストールが手放せません。

さて、先日の樺澤さんのヘア原稿。アレンジ小物を整理して紹介くださいまして、ありがとうございました。樺澤さんが書いていらしたように、わたくしのふだんは、リトルムーンのEコームとUピンを使って夜会巻きでまとめています。
きもの雑誌の髪型アレンジ頁も参考にしたりしていたのですが、「複雑なアレンジは必要ないし、美容師さんのようには素人はうまくできない」と悟り、もっぱら自己流となりました。

ふだんのきものヘアは、これでなんとかかたちになっているみたいで、「自分でまとめられるんですか」と出先で時折尋ねられたりもしますから、あまり見苦しくはないようです。

きれいにまとまっているように見えるのは、髪の長さやアレンジ前の下処理もポイントなのかもしれませんね。
自身にとってまとめやすい長さ(肩下10cmぐらい)にカットしていること、またアレンジする前に、大きなホットカーラーで全体を巻いて扱いやすくしています。

どこかでわたくしを見かけたらアタマもご覧になってみてください。ヘタなりですが、素人の和髪アレンジの参考になるかと思います。


本題にいきましょう。「染めと織り」という大きなテーマを取り上げている今月です。
佐藤さん、樺澤さんともはじめの一歩は織りのきものだったとのことでした。わたくしは二人とは違って「やわらかもの」から入りました。そこら辺りからまずお話しをしていきましょう。


[お古のほとんどがやわらかもの]
七五三の肩揚げのきもの、振り袖などの晴れ着以外で、母が私につくってくれたきものは鮫小紋のきものでした。大学入学時の18歳のときです。お茶会用として、一つ紋付きがいるだろうと誂えてくれたのです。

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右の朱赤の鮫小紋のきもの。妹も大学生になったときに、同じ色のきものをつくってもらいました。


それは、社会に出てからも、いろいろ役立ってくれました。というのも、お勤めをしていた淡交社という会社は、わたくしが入社した頃は古風な慣わしがあって、1月の仕事始め初日は「きもの」、もしくは晴れ着的な「洋服」を着て、新年の挨拶を交わしていました。

会社の先輩から「できたら、きもので来るように」と言われましたので、母と相談をし、手持ちの一つ紋付きの鮫小紋におめでたい扇文様の袋帯を締めて行ったものです。ただ当時は着付けがまったくできませんでしたので、美容院に行ってましたね。
その頃の私といえば、きものに対し、ふつうの人以下の興味しかありませんでした。

仕事をはじめて数年ほど経ち、子どもの頃に嗜んでいたお茶のお稽古をまじめに再開してみようとせっせと教場へ通いはじめ、1年ほどしたところで「お茶を極めるなら、やっぱりきものを着てやらなくちゃ。自分で着られるようになろう」と思い立ちました。

それを母に話したところ「それはいい! お母さん応援するわ。まず桐の箪笥とお稽古着がいるわね。いくつか見つくろって送るわ」。お茶をしている伯母たちも「やる気になってくれた」とたいへんな喜びよう。

ある日のこと。家に桐の箪笥がドーンと届き、あらゆるお下がりがやってきました。母の娘時代のもの、伯母のお古など、それは壮観な風景です。
大半が、やわらかものと呼ばれる「タレ物」のお稽古着でした。私の場合、祖母や母、伯母たちが皆お茶の人でしたので、そういう人たちのドレスコードの定番は、お稽古は総柄小紋に織り名古屋、お茶会なら無地の一つ紋付きに袋帯なのでした。

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左=祖母→伯母→わたくしのところに来た絞りのきもの。右=左より、扇文の江戸小紋(紋無し)、牡丹と扇の紋綸子、クローバーのような総柄小紋。20〜30年ほど前のものだと思います。


母や伯母が娘時代のきもののうち、淡色のお嬢さんらしい趣きのものは、使いすぎて色褪せ、お稽古着にさえならないほど傷んでいたので、もらうのを遠慮しました。また私も30代のいい大人になっていましたから、あんまりかわいらしいものには気恥ずかしさがあり「東京の人は皆シックなものが好みだし、なるべく地味なのを頂戴」とリクエスト。

そうしてやわらかものとのきものの付き合いがはじまったのです。

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江戸解の総柄小紋。これは母がお稽古着にといってつくってくれたもの。当時は上品でいいなと思いましたが、今の好みからいえば地味だなーと思います。60〜70歳になっても着られそう。ま、こんな感じの軽い9寸織りなごやを締めて普段着に。


[織りのきもの]
そもそも私がきものと付き合いはじめたきっかけは「おしゃれ」ではなかったといえます。
私のきものは茶道を習得する手段でしたから、運動をするために体操着を着る、みたいな感覚に近かったんじゃないかなと思うのです。

けれど、きものを着はじめてみたら、むくむくと元来の好奇心が頭をもたげ、ていねいな仕事がほどこされるきものの存在そのものに、急速に魅了されました。
それでも、わたくしは自分にとって身近であった染めをまず親しく思い、それから徐々に織りものにも興味を広げていったのでした。

その頃、仕事上で知り合った一衣舎さんや、昔から顔見知りであった沼袋の山田屋さんからは、「糸味」「着味」という視点を教えてもらったり、東京のさまざまな呉服屋さんたちを訪れるようにもなって、自前でもきものをつくり、実践を通してきものの目を肥やしていったのです。

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譲られたきもののうち、3枚だけが織りのきものでした。これはそのうちの2枚。両方とも何織りのきものか、いまだわかりませんが、茶色のほう(上)は大島紬に使用されるテーチ木の染めの色に似ています。紺地に赤の花柄のラインのきもの(下)は、洗い張りを数度繰り返した紬。地が薄くなってすごく着心地がいい。お稽古に最適です。


[等身大の木綿]
わたくしの場合は、周りの身近な人たちがきものを着る人間でしたから「着たいな」と思ったときにきものを譲ってもらえる幸せがありました。
ですが、身内の誰もがあまりきものに興味がない方もたくさんおられます。

そういう方がきものを着たいと思ったときに、手軽につくれて、着付けもうまくできるきものは何かと考えたときに、木綿のきものが有効であると私は思っています。

というのも、わたくしも木綿のきものを重宝しているからです。今は一般的にほとんど見かけなくなりましたが、木綿はその昔の普段着。きどらず着られますし、やわらかものより着付けもしやすいんですね。

わたくしのお稽古場に、桃色と藍の縞模様の木綿の単衣を着てお稽古にいらっしゃるNさんという人がおられます。Nさんは70代のご婦人で、彼女に「これは木綿ですよね」と尋ねたとき、「木綿のきものは単衣に仕立てるでしょう。歳をとると気楽に着られて、汚れても自分で手入れができるものがいいわ」と。

そうなんです。自分で洗えるって、やはり魅力的なんですよね。同感。
ポリエステルの洗えるきものも愛用するわたくしですが、自然素材の木綿の肌触りは格別で、なにより「健康的」な感じがして元気になれます。
裾さばきが悪いのは事実ですが、つねの普段に、さやさやと衣ずれの音を立てなくても、支障はほとんどないように思うのです。

それでも、わたくしなりの贅沢をいえば、木綿でもタレ感のある感触のものがいいですね。浴衣ほどの頼りなさは困りますが、たいがいの木綿は感触が堅いといえます。なるべく細い糸で密に織られたしなやかなもの、そして腰もある木綿なら、なお着やすいと思います。

最近はインターネットで木綿を売っているところがありますが、生地のやわらかさを実際に自分で触って確かめられると安心ではないでしょうか。

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ずいぶん前に一衣舎さんの個展でつくった館山唐桟の斉藤裕司さん製作の木綿のきもの。これはまったくお安い木綿ではなく、わたくしにしたらかなりきばって購入したものです。植物染料で染めて手織りした後、砧で布を打ち、しなやかさを生み出します。手間もかかっていて、木綿とはいえないほどの光沢。ここで例に挙げるには、上等すぎの木綿かもしれません。
けれど、このぐらいの木綿ならば、紬と同レベルに使用しても遜色がなく、かなり役立つことは請け合いです。私はお稽古以外のお出かけにも使用しています。


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一衣舎さんの木綿のきもののお仕立てでは、裾さばきをよくするために、洗える絹を裏につけます。それで足さばきは格段にアップ。袖口も同様に同じ絹の裏を。木綿の表地に絹の裏地を合わせたら、洗ったあとの布の釣り合いを心配する人もいるでしょうが、洗える絹なので縮みません。押し洗いをして7割方乾いた頃にアイロンをかけて仕上げます。


ただ「やわらかい木綿は膝が出やすいじゃないか」という意見があるかもしれません。確かにその通り。木綿の単衣は、絹の袷物にくらべると1枚だけなので膝が出やすいですね。

でもふだんの椅子生活ならば、それほどのことはないですし、もし正座を長時間おこなうお茶のお稽古に着るということでも、木綿のきもののの下に長襦袢(居敷当てのある長襦袢なら、なおよし)と裾よけをきちんと着用すれば、膝が出ることは出ますが、許容範囲として受け止められるのではないかしら。

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単衣の木綿といえば、ふつうはコレ。裏地はありません。浴衣と同じバチ衿ですが、居敷当てはあります。裾さばきが気にならないかといえば嘘になりますが、木綿とは本来こうしたものであると思えば、特段問題とは思いません。お茶のお稽古に着用して、長時間正座もしています。

木綿のきもので、値段も扱いもニコニコできるのは、たとえば染織こだまSさんのHPなど拝見しているとうれしくなりますね。


わたくしは、麻や紅梅などのパリパリとした身体に添わないきもの、また結城のような地厚で嵩高いきものは「いかつく」見えるのであまり好まず、基本的に身体に添うものが好きです。

とくれば、一般的にはやわらかもの。また、紬ちりめんみたいに染めと織りを足して2で割ったような生地、紬でも糸が細くて打ち込みのしっかりとしたしなやかなもの、というテイストに手が伸びますね。織りならば「御召」という生地が大好きです。

次回はぜひ、わたくしが年を追うごとに好きになっている「御召」について取り上げたいと思います。

COMMENT
木綿に絹の裏をつける裏技、なるほどと思いました。
メンテナンスやほっこり感など、木綿の着物は以前よく来ていましたが、お茶のお稽古で着物を着ることが専らの近頃は、すっかり着なくなっていました。
でも、裏をつければお茶のお稽古でも着ていけそうです。
(柔らか物ですら足裁きのいまいちな私は、裏の無い木綿なんて、全然歩けません!)

ひとつ気になったのですが、
結城は地厚で嵩だかとありますが、そうなんですか?
私のイメージしている(というか知人の着ていたものを触らせてもらった時のイメージです。)結城は、他のかたものと違い、薄くてそれこそ羽衣のようにふんわりしているものです。
さすが結城、一般のつむぎと値段が違うだけのことはある、と思い私も購入を控えているのですが。。。
本場結城ともなると100万円近いお値段です。
買ってしまってから、地厚で嵩だかで身に添わないとなると、かなりショックなので、
アドバイス頂けるとありがたいです。
私のイメージはふんわり軽くて、羽衣のようで、身に添う結城です。
身に添うという点では柔らか物にはかないませんが、軽さややわらかさは勝るとも劣らないと思うのですが。。。
Posted by のこ at 2009年12月22日 15:21
私は お稽古に木綿でいらっしゃるという 箇所にとても興味を持ちました
お茶と木綿 というのはすごく相対するもののように感じていたのです
「木綿のきものは単衣に仕立てるでしょう。歳をとると気楽に着られて、汚れても自分で手入れができるものがいいわ」と。
まさに私の思っているとおり。でもカジュアルなのでは?となかなかできません
暑いけれどもまだ9月という場合などに なるべく涼しい お勧めの木綿があればお教えいただきたいです
それでなおかつ お茶席にお客で伺っても浮かないものがあれば本当にありがたいです
Posted by ちっち at 2009年12月24日 00:00
のこさん、ちっちさん、コメントありがとうございます。

のこさんのご質問については、今度の本編のほうで取り上げますから、ここでのコメントは控えますね。

ちっちさん。
「お茶のお稽古に、木綿のきものはカジュアルなのでは?」とのことですが、仰せのようにカジュアルには違いありません。

お稽古場の空気によっては、木綿のきものを着にくいところもあろうかと存じます。「場の空気を読む」のも大切ですものね。

お茶の先生方の中には、「きものを着て、お稽古しようという心構えがよし」といって、どんなきものでもうるさくいわれない先生もおられます。かなり高名な先生でもそうおっしゃっているのを耳にしたことがありますから、総体的に自由な方向になっているような気がしますが……。

諸先輩方や相弟子さんたちの様子を見ながら、上手に木綿のきものを取り入れられたらよいなと思いますね。ただ無理はなされないように、と。

さて、「なるべく涼しい木綿は?」というご質問も、お答えするのがむずかしいなあと思いました。

正直なところ、木綿の平織りは涼しいきものではありません。涼しさからいえば、木綿は絹(もしくは麻)に太刀打ちできないと思います。

本来ならば、綿麻の混紡をオススメしますが、麻が入るとかなりシワシワになります。9月という季節で秋に向かうというときに、シワの印象が強いと「夏のきもの」という感じが強まります……。

綿100パーセントで涼しそうに見えるきものといえば、「阿波しじら」でしょうか。
シボがあるサッカーに似た生地です。9月に着る木綿ならあまり涼しい色合いのものにしないで、これを上手に使われるのも手です。

秋口に木綿の単衣を着られるときは、下の長襦袢を麻にする工夫もしてみたらどうでしょう。とくに9、10月はまだ暑い日々が続きます。
肌に触れる部分がサラリとしていたら、暑さがずいぶんしのげると思いますね。

最後のご質問。「お茶席でお客でうかがっても浮かない木綿のきものは?」。

わたくし自身、お稽古には木綿を着ますが、お茶会にはやはり絹のきものに袖を通すほうで、きちんとお答えできるのか、いささか自信がないところもあります。

ひとつ挙げるならば、かなり高級品になりますけれど、綿薩摩(めんさつま。薩摩絣ともいう)などは、非常に細い糸で織られたうつくしい綿の芸術品で、お茶の雰囲気に合うものといえます。

ほぼ無地に見えるもの、飛び柄などは、ふつうの紬の代用品以上ではないでしょうか。
綿薩摩に繊細な柄付けの染め帯を締めたら、しっとりと落ち着いた風情になって素敵ですし、お茶席で浮くことはありません。


Posted by 植田伊津子 at 2009年12月24日 17:00
いつも本当にありがとうございます!
つたない質問ばかりで 恥ずかしいかぎりですが
具体的なご回答でありがたいです
これからもブログ見ますね!
Posted by ちっち at 2009年12月24日 22:03
本編で取り上げていただけるとの、楽しみです!!

薩摩絣は本当に美しいですね。
お稽古で着ていらした大先輩のものを、
目からよだれが出そうな視線で拝見してしまいましが、ふんわりやわらかく
木綿でもこんなに繊細なものができるのかと感動しました。
もう何十年も着ているとのことでしたので、
余計風合いが良くなっていたのでしょう。

私の持っている木綿といえば。。。
会津木綿や洋服生地のものなので、
余計ごわごわです。

いつか、薩摩絣も・・・と思っています。
Posted by のこ at 2009年12月25日 18:31
はじめまして。かなりの過去記事ですがコメントしたくなりました。

木綿の単衣で、やらかしちゃったんですよ。失敗談です。
ある3月下旬の日、その日は一日中5月下旬くらいの陽気で異常気象でした。
長時間座って電車に乗らなければどこへも出掛けられない私は、帯の保護のため通常いつも羽織を着ています。この気候なら着物は木綿でいいんじゃないかと思いつき、出掛けました。
外出の目的はお稽古事。そのお稽古とはーーー着付け教室(笑)。

あまりの暖かさにまだ3月であるということを忘れていたばかりか、お教室、それも着付けですよ。「ええ!それ単!?いくらなんでも早いわっ!」と注意を受けました。

とほほほほ〜。
TPOが大切、と頭では解っていても、慣れないうちはいろいろありますねぇ...。
Posted by 0号 at 2013年03月20日 03:11
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