date: 2009年11月19日

subject: 準礼装のきもの【その2】

from: 植田伊津子



[礼装の色無地のきもの]
色無地のきものはご存じのとおり、紋意匠やちりめん、紋綸子などの生地を、黒以外の好みの色で柄をつけずに染めたもの。茶道をたしなんでいる人には、もっとも身近なきものといってもよいでしょう。

色無地は紋をつけることで礼装のきものの仲間に入ります。
ということは、紋のない色無地はどういう扱いになるのでしょう? 紋がなければ「普段着」のステージに分類されます。

現代、普段着のシーンで色無地を着る場合、よほど凝った地紋だったり、変わった色、もしくは見どころのある洒落帯などを合わせないと、礼装(紋付き)っぽく見られるんじゃないかと思います。洒落着として色無地を楽しむには、存外おしゃれの力量が必要なんですね。

私の場合も、たとえばふつうのお出かけなら、まず洒落着の小紋や江戸小紋、織りものなどに手が伸び、紋のない色無地を着るケースはほとんどありませんでした。
実体験からいえば、色無地のきものの場合は、紋をつけて着用するほうが利用頻度が多いのではないかと思われます。

[色無地の礼装度]
礼装の色無地のレベルを私なりに考察してみますね。

1、縫い紋で一つ紋
もっとも軽い礼装。
2、染め抜きの陰紋や中陰紋で一つ紋
軽めの礼装。
3、染め抜きの日向紋で一つ紋
軽めの礼装の一つ紋の中では格上の扱い。

4、縫い紋で三つ紋
中レベルの礼装だが、色無地に縫い紋で三つ紋を入れるケースは少ない。訪問着で地色共糸の縫いの三つ紋を入れるほうがあり得るケース。
5、染め抜きの陰紋や中陰紋で三つ紋
中レベルの礼装。訪問着の紋無し、または一つ紋付きより格上になる。格式のある式に使用できる。
6、染め抜きの日向紋で三つ紋
中レベルの礼装の中で格上の扱い。訪問着の一つ紋付より上となる。格式のある式に使用。

7、縫い紋で五つ紋
江戸時代のきものには散見されるが、現代は一般的に五つ紋を縫い紋では入れない。
8、染め抜きの陰紋や中陰紋で五つ紋
レアケースで、あまりつくられることはないが、ないことはない。色無地のきものとして重いものとなる。第一礼装として、式の主催者側に立つきものともなる。
9、染め抜きの日向紋で五つ紋
陰紋や中蔭紋の五つ紋よりあり得るケースだが、それでもつくられる数は少ない。訪問着の三つ紋より格上となる。色無地のきものとしてもっとも重いもの。第一礼装の扱い。


[紋の数、紋の表現]
ルールとして、礼装の扱いでは、訪問着や付下げといったきものの種類如何を問わず、紋の数を優先すると考えます。訪問着の紋無しや一つ紋付きより、色無地の三つ紋のほうを格上の扱いとするのはそのためです。

また五つ紋をつけると、基本的には第一礼装として扱うことになります。第一礼装は、黒留袖や色留袖、振り袖であると前々回に説明しましたけれど、色無地の五つ紋もそれに加わることになりますね。

ちなみに第一礼装は「日向紋を入れる」のがもっともポピュラーなケースですが、各家によっては、もともと中蔭紋や陰紋の家紋を定紋としているケースがあります。
その場合、中蔭紋や陰紋の表現がその家の正式な紋なのですから、わざわざ日向紋に変えてつけることはなく、その家にとっての正式な紋を五つ紋で入れるのが至当。

また関西地方では女性は控えめな紋で表現する風土がありますから(女紋という慣習もあります)、ご主人が羽織袴の第一礼装で日向紋の五つ紋をつけ、奥さまはそれの中蔭や陰紋の五つ紋を留袖につけるということもあります。
中蔭紋や陰紋で五つ紋というケースは「ないことはない」のです。

ただ、今は第一礼装のきものを着るケースに遭遇したとき、ふつうならば黒留袖や色留袖のほうを選ぶのではないかなと思います。
今は日向五つ紋で色無地の人といえば、日本舞踊の舞台上の方ぐらいしか、わたくしは見かけません。ですから、色無地の五つ紋は、とりあえずレアケースのきものであるといってよいでしょう。
(もし、色無地で日向紋の五つ紋をつくられるなら、個人的には第一礼装っぽく「比翼仕立て」にしてもよいように思います)

[式に色無地を着る]
ここで整理をしますと、たとえば結婚式に招かれる場合に色無地を着るときは、1〜6のどれかの色無地、そしてそれに見合う帯を締めるのが妥当ではないでしょうか。
式の内容に合わせて、縫い紋の一つ紋付きから染め抜き日向紋の三つ紋……どれもがあり得ると思います。

慶事に色無地を着る場合、ひと色ではなやかさも表現したいところ。ですから、色や地紋をはじめ、当然合わせる帯も大切な要素となります。

色無地の場合、あらかじめ染め上がったものから仕立てる場合と、白生地から好きな色に染める場合があります。染め抜きの紋を入れる場合は、誂え染めでつくったほうがきれいに仕上がりますね。

とくに色無地の場合は、きものに占める色の面積が多いわけですから、あまり地味な濃色よりも、ほのぼのとした明るい色が慶事にふさわしいといえます。
50代以上の方でも、結婚式などでは、渋さよりも穏やかで品のよいの色のほうが、場に合うでしょう。

地紋は、若松を口に加えた鶴を表した松喰い鶴紋や菊唐草、双葉葵や七宝繋ぎの小葵紋の他、正倉院文様にちなんだ鳳凰紋や唐花、また伝統的な道長取のようなものが、おめでたい柄としてよさそうです。
もちろん柄のないちりめん無地でもよいですが、その場合は発色のよい上等なものを選んでください。薄くて廉価なちりめんなどは、動いたときに跳ねて落ち着きませんので、注意が必要です。

若い頃は慶事の色無地だけを考えておけばよいのですが、わたくしのように40歳もすぎた頃になると、たとえば法事や追善茶会などに着る半喪のきものが必要となってきます。
慶弔両用の色無地を考えるならば、弔事にも使える柄、たとえば雲、波、紗綾形、檜垣文のような地紋の選択肢もあります。

さて、色無地のきものは帯に注目が行くよそおいですから、存在感のある帯を取り合わせたいですね。
やはり袋帯で、なおかつ織り文様が立派なもの。錦や唐織、箔使いの、私たちのふだんの感覚からしたら「多少ギョッとするぐらい」豪華で重厚なほうが、慶事の色無地にはバランスよく映るような気がします。

訪問着や付下げを着るならば、あっさりめの袋帯にして、総合的にバランスをとってもよいのですが、色無地の準礼装は、きものがあっさりしていますから、帯に力がないと辛くなってしまいます。帯のチョイスがポイントだともいえるでしょう。

[色無地の裏技、洒落紋もまた楽し]
準礼装の色無地を考えるならば紋付きであると先述しましたが、今様の式は自由な捉え方になっています。

わたくし的には、樺澤さんの蘭の付下げ小紋などは場を盛り上げる気持ちが主催者に伝わりますから「とてもよいなー」と感じますし、社交着の小紋などの中には結婚式にふさわしいものもたくさんあって、紋の有無や数など、本当のところ大した問題にはなりません。
友人のひとりとして列席するならば、「祝祭感のあるきもの」を着てうかがえば、どんなご家族も喜んでくださいますよね。

そうした風景を考えれば、色無地に刺繍の加賀紋を入れたものなどは式に活用していいんじゃないかなと感じています。
加賀紋でも、あまり遊び的な文様でなく、はんなりとした花丸や松、扇文などなら、色無地のよいアクセントになるような気がします。

加賀紋を色無地に入れたら、ステージ的には洒落着になるような気がしますが、第三者的な礼装(友人や知り合いのひとりとして出席する)には、よい着姿のように感じますし、わたくしもそういう色無地をつくってみようかな、とひそかに思っています。


一昨日に続けて今日も植田が担当し、これもまた長文になってしまいました。
礼装のよそおいについては、もっともわたくしが日頃尋ねられる事案で、いろいろなケースも拝見しているために、話が広がってしまいます。

「礼装の羽織物はどうしたらいいの?」
「礼装の履物はどうしたらいい?」
「色無地を慶事に着るときは、伊達襟を入れるのが決まり?」
……などなど、迷われる気持ちはよくわかります。

さまざまな立場のいろんな礼装のレベルをうかがうと、その幅は広いと感じられますね。
このブログをお読みの皆さんの礼装観も、気軽に教えていただければ幸いです。

ところで、お茶席の色無地については、来年1月の「習い事のドレスコード」のときにふたたびお話をしたいと思いますので、今日の原稿では割愛しました。ご了承くださいませ。

(カメラが壊れて、前回、今回と文章ばかりになっております。皆さん、ごめんなさい!)





COMMENT
いつも興味深い記事をありがとうございます。
色無地について、以下の2点についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

1.色無地(日向紋の1つ紋付)を着て、格式あるホテルの披露宴(昼間)に出席する場合、帯は礼装要の袋帯として、帯揚・帯締はどのようなものがよろしいでしょうか。

2.たまに見かける「ぼかしの色無地」は、どのような時に向いた着物なのでしょうか。紋を入れてお茶会などに着るのがいいのか、それとも無紋にして小紋的に着るのがいいのか、いかがでしょうか?最近とある劇場で見かけた藤ピンク〜紫系のぼかしの色無地が素敵だったのですが、遠くで紋のあるなしがよくわかりませんでした。自分で作るとしたら紋や着用場所などどうしたらいいかなと思いまして質問させていただきました。

以上につきまして、またお時間のあるときにでもご意見をいただければありがたく存じます。
何卒よろしくお願いいたします。
Posted by ゆずき at 2009年11月22日 12:18
>ゆずきさん

1、このきものの小物の組み合わせで多いのは、

・帯揚げ
→淡色の紋綸子や紋意匠に金銀の模様を控えめにつけたもの(金銀糸、もしくは金銀彩のポイントがある。刺繍があるなど)。

・帯締
→金銀糸の入った格調の高い存在感のある組紐(平打ちでも丸組でもどちらでもOK。細めの帯締は洒落物に見えるのであまり細くないものがよさそう)。

が、定番とされています。

一応「留袖には、白(もしくは白に金銀が入っているもの)の帯揚げ・帯締を用いる」という約束になっていますから、今のきまりを尊重するなら、それらを避けたほうがよいかもしれません。

ちなみに、高度経済成長前の日本のお祝いの席では、留袖に白の小物が必ずしも約束ではなく、赤を効果的に使っていたこともありました。白の絞りの帯揚げに赤の帯締ということもありましたので、「留袖に白の小物」というきまりは、ここ40年ぐらいの歴史じゃないかと思います。

帯揚げは、ミセスの若い方なら、明るめのやさしい色目、もしくは若草色や鶸色のように明度・彩度の高い色を用いるケースが多く、ミセスでもお歳を召されてきたら、藤色や落ち着いたベージュピンク系などの薄色がおすすめです。
ただ、もしお若いお嬢さんが日向一つ紋色無地を着るのならば、振り袖用の帯揚げを使うなどして、小物に派手な色味を挿し、若さを強調したほうがよさそうに感じます。

また帯締は、20〜40代の若い方は「金糸使い」、お歳が上世代なら「銀糸使い」のものを使うほうが、肌なじみがよいでしょう。20、30代で銀を使いこなすのはむずかしいと感じます。

礼装の場合、帯揚げの素材はちりめん地が少ないですね。生地なら紋綸子や紋意匠などの少し光沢があるもの。
「はなやかさ」と多少の「キラリ」がよそおいを盛り上げるのでしょう。
紋付きの訪問着や付下げの小物も、これらと同じような感じで、普段着っぽくないものを選ばれるとよろしいかと思います。


2、遠目でもぼかしがよく分かるものは、おそらく洒落物風に見えるので紋無しにして小紋的に着るほうがよいように思います。

反対に、ぼかしが穏やかなものなら、紋をつけて色無地の紋付きのきものに準じた扱いをされたらいかがでしょうか。

ぼかしの強度に関しては、捉え方に個人差がありますよね。
わたくしの個人的な意見をいえば、よっぽど極端なぼかしの表現でない限りは、今は紋を入れられてもおかしくないと感じています。

私は、遠目でもそうとわかるぐらいの蒔き糊のぼかしというきものを持っていて、それに縫い紋の一つ紋を入れて、茶会などに使用しています。
紋を入れなければ、小紋のステージのきものです。
お茶をされている方でしたなら、そういうものでも縫い紋をひとつ入れておかれると、使い回しがききますね。

紋を入れる場合、ほとんど無地なら日向紋・中蔭紋(陰紋)、縫い紋のどれを入れてもよいでしょう。ぼかしがやや目立つという場合なら、縫い紋にしておけば使いやすいと思います。

小紋で着るのなら、展示会やパーティ、食事会、同窓会、観劇など、ほぼいろんな場所で使用できます。

ぼかしのきものは、色無地のそれよりも、くだけた感じにとらえる人もたまにおられます。
ですから、一般の方がぼかしの紋付きを着る場合、カジュアルな結婚式、または二次会みたいなものにはしっくりきそうですが、ふつうの「式」には、縫い紋の一つ紋をつけていたとしても、あまり使い勝手がよくないかもしれません。
茶席のきものとして使われない方には、紋無しのほうをおすすめします。

Posted by 植田伊津子 at 2009年11月23日 01:52
植田様

お忙しい中、早速お返事いただきありがとうございました。

そうですか、色無地で披露宴に出席する場合の帯揚帯締は、白地でない方がいいのですね。

留袖の場合が白地なので、色無地もそれに倣った方がいいのかと勝手に思っておりました。
伺えてよかったです。

それではまた次のエントリーを楽しみにしております。
Posted by ゆずき at 2009年11月23日 19:51
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