date: 2009年11月17日

subject: 準礼装のきもの【その1】

from: 植田伊津子



おふたかたの原稿を拝読すると、わたくしの礼装に対する考え方がアナクロなのがわかり、自分自身でも苦笑しています。
たぶん、そのうち絶滅危惧種のひとりとして認定されるかもしれません。

いえいえ、けっして自分を自虐的に見ているわけはありません。
形式や型を必要と考える人もいれば、それらにさほどこだわらない人もおられます。

みんなが同じ「きもの観」なんて、気持ち悪いじゃないですか。
きものだけに限らず、だれしもが自分の価値観を大切にして生きています。それを互いに尊重するところに「人間のふれあい」がありますし、相手の価値観に啓発されるところがおもしろいのです。

あくまでルールは目安のひとつに過ぎません。
儀礼と虚礼の違いは、形式的な約束を必要なものとして生かせるかどうかの違いであり、形式や型をバネにできるほどの中身の充実があれば、それらは必要ないのだと気づかされます。
極端なことを言ってしまえば、「式」に真摯にのぞむ心があれば、何を着ても構わないかもしれません。

ただ、どんなに当人が敬意を払う気持ちを持っていたとしても、「なんでこんなよそおいで……」と周りに判断されたら、わたくしなら悲しいんじゃないかな、と思いますね。
「相手側(主催者)や周りがどう受け止めるか」も、人と相対する場では大切な要点ではないでしょうか。

さて、前回お約束したとおり、今回は略礼装のお話をしたいと思います。わたくしの場合、これもまた保守的な方向に針がふれるような気がしますが、その点はどうかご容赦くださいませ。


[準礼装のきもの、訪問着]
準礼装、略礼装ともいいますが、2つの言葉に大した違いはないでしょう。いずれも正式の礼装に対して、簡略にした礼装を指します。
具体的にいえば、留袖や振り袖などの第一礼装に次ぐポジションのきもので、厳密にいうと紋がつけられる格調の高いもの。

いちばんに思い浮かぶのが訪問着ですね。

留袖(色留袖)は、裾のほうだけに柄がつけられますが、訪問着は胸から肩、袖にかけて模様がつながって表現されます。
ちなみに留袖、訪問着、そして後述する付下げ訪問着など、柄が縫い目をまたがってつけられているものを「絵羽物」といいます。

訪問着といえば「イコール準礼装」。紋はあってもなくてもどっちでもよいことになっています。
結婚披露宴(招待される側)、授賞式、少しあらたまったパーティーなどに招かれた場合などには、やや重めの柄のそれに紋をつけておけば、まず間違いありません。

訪問着に紋を入れるときは、複数紋をつけるというよりも、染め抜きの一つ紋というのが一般的でしょう(後ヅケで、日向紋を縫い紋で入れることもできますし、きものと同色の糸で縫いの三つ紋を入れることもあります。また(中)蔭紋の一つ紋や三つ紋もアリ。ただし留袖のような染め抜き日向の五つ紋はつけません)。

では紋を入れない訪問着は、どういう位置づけになるのでしょうか。

礼装のきものをオカタク解釈すれば「紋付き」のきものがセオリーなので、紋を入れない訪問着は、ステージ的には「社交着」かなと思います。
「洒落着感覚の紋を入れていない訪問着は礼装のきものですか?」と問われたら……わたくしにしたら微妙な問題で、捉え方はさまざまなように感じます。礼装と洒落着を区別するラインは常に揺れていますものね。

オカタイ場所での結婚式に招待されたときなどは、紋をつけた格の高い訪問着のほうが正式でしょう。後述しますが、紋のない訪問着は、三つ紋の色無地より格下となりますから。

とはいうものの、紋をつけない訪問着(社交着)も便利な一品なんですよ。
古典的であっても少し軽い柄の訪問着には紋を入れないほうが使い勝手がよく、カジュアルダウンの機会が多い現代には、ご大層でない感じが使用頻度も高いと思われます。

ここまで読んできた皆さん、「紋ってややこしい!」と思われるかもしれないですね。

けれど、礼装のきものの紋とは、きものを格上にもするし、格下にもする「調整弁」のようなすばらしい役割もあるんです。
軽めの訪問着に複数の縫いの三つ紋をつけてきもののステージを上げながら複雑なよそおいを楽しんでもよいでしょうし、紋無しでつくったほうが着る用途が多いといわれる方もいるでしょう。

要は、紋の微調整をすれば、礼装をより自分に近づけて着ることができるというわけです。着られる方の立場や場所などによって、訪問着の紋を見直してみてください。


[付下げってなに?]
付下げとは、ひと言でいうならば「訪問着によく似たきもの」です。
景気の悪い昨年後半からは、付下げに人気が集まっているようですね。見た目が絵羽なのに、お値段が若干安く、手に入れやすいからかもしれません。

上前の合い口が続いている「付下げ訪問着」という種類もあって、これなどは、ぱっと見、訪問着と遜色ありません。
このように訪問着に準じる格調の高い付下げは、準礼装として扱います。

ところで訪問着をつくるときは、生地を裁って、きもののかたちにしてから下絵を描き、いったんほどいて染めをほどこし、再びきもののかたちにして店頭で売っています(それを仮絵羽といいます)。
付下げは訪問着に似ていますが、反物(巻物)で市販されています。

なぜならば、付下げは仕立て上がりを計算して、模様を一方向にそろえて柄をつけているのです。

たとえば「枝と花」のように柄の上下がはっきりとわかる模様は、肩山を境にして、きものの前後で逆さまになるのが常。でも前から見ても後から見ても、花が上、枝が下にくるように、あらかじめ考えて柄付けをするのです。

また、付下げは机上の予測の範囲で模様を表しますから、身頃や肩から袖にかけて、縫い目をまたがる柄付けにしません。そこが訪問着と付下げの大きな違いだといわれています。

付下げの中には、訪問着風に裾と胸・袖に模様を集中させるのではなく、柄を全体に散らしたタイプもありますね。
それを「付下げ小紋」と呼んだりします。上下のある柄を逆さにならないように配した「総柄系飛び柄」のきものですね。

付下げは、反物の柄の軽重によって、紋をつけたりつけなかったりしますが、一般的には訪問着よりも軽い柄付けが持ち味とされていますから、紋はつけずに社交着としてつくるほうが多いでしょう。それらは、かしこまらないおよばれの席やパーティーに活躍するものです。


さて、ここまで書いてきましたが、すでに長文になっちゃいました(>_<)。

樺澤さん、佐藤さん、申し訳ありませんが、色無地の紋付きの話を続けてしたいのですが、明日か明後日に原稿をアップしますので、続けて植田が書かせてもらってよいでしょうか。

喪服や半喪服のきものについてもまだ触れていませんし、礼装の帯についても……まだですよね。
果たして、どこまでお話しできるのでしょう。いやはやなんとも、申し訳ありません。



COMMENT
いつも楽しく拝見しています!
紋がついていない訪問着 柄を全体に散らした付け下げ 両方ありますが かしこまらないおよばれの席やパーティーの機会がないので なかなか出番がありません 
歌舞伎や能・狂言の鑑賞などにも使えるのでしょうか?
是非 カジュアルダウンして着る具体的なシーンをお教えいただきたいです
よろしくお願いいたします
Posted by ちっち at 2009年11月19日 08:06
>ちっちさん

紋がついてない訪問着や付下げなどは、社交着として観劇に使われてまったく問題ないですよ。

それらがどういう柄付けなのかがわかりませんけれど、紋無しの訪問着や付下げは、ちょっとした祝い事のパーティーやホテルでのお食事、趣味の発表会、新年会や親戚の祝いのお食事会、茶会などによさそうです。

歌舞伎でも一階席に席がとれたなら、紋無しの訪問着や付下げをお召しになれば、役者さんも興が乗るものと思います。
贔屓筋は、場に合ったそういうお召し物を着ておられますね。とくに、顔見世興行のはなやかな月には、そうしたよそおいがよいのではないかなと思います。

またお能は格調の高い劇ですから、観客も紬などの織りものより染めもののほうがよいともいわれたりします。

たとえば、能楽堂でおめでたい演目がかかるときには、それらに洗練されたなごや帯や綴れの帯などを締めて行かれたらよいでしょうね。

せっかくですから、大いに活用してくださいませ。


Posted by 植田伊津子 at 2009年11月19日 18:46
アドバイスありがとうございます!
これからどんどん着ていきたいです

それとお話の中に「洗練されたなごや帯や綴れの帯」と書かれていたのに興味を持ちました
どんなものか是非知りたいです

私の着物はお嫁入り支度のなかに入っていたものなのですが
それ用には 袋帯が選んであって 見た目にかなり派手なものです

きっと 私が娘時代に着物に興味がなかったせいでしょうね(笑)

Posted by ちっち at 2009年11月23日 22:01
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