date: 2009年11月04日

subject: 第一礼装の黒留袖・色留袖とは

from: 植田伊津子



今月のテーマは「礼装」。なかなか重いテーマですよね。
きものを着るという場合、一般的には「成人式」「結婚式」などの『人生の節目』であることがほとんどだと思います。

そもそも礼装って何なのでしょうか。
国語辞典には以下のような説明があります。「礼服を着用すること。また、儀式用の正式なよそおい」(『広辞苑』第4版 岩波書店刊)。儀式では、平服ではなく専用の衣装(式服)を身につけなさい、という意味になるでしょうか。

さて、この礼装のよそおいというものは、個人の感情や好みとは別の次元の話になると、私は考えています。
たとえば「こんなのダサイな」「老けてみえるわ」「きちんとしたものを持ってないから、コレで代用しておきましょ」と思うのは、個人的な理由。本来、ルールが求められる場所では、ルールにのっとったよそおいをするのが、「おとなのたしなみ」でした。

といっても、現代は儀式そのものが軽くなってきましたから、オカタイよそおいの対応ばかりではなくなっています。ただ、「ルールを知っていて、そのルールを解釈し直す」のと、「ルールをまったく知らない」のとでは、礼装の捉え方が変わってきますよね。

そこで今日は、第一礼装のきものの約束事をざっくりとお話ししてみたいと思います。というのも、礼装にもランクがあって、

1、第一礼装
2、準礼装(『略礼装』ともいう)

というふたつのステージがあるのです。

結婚式でも人前結婚式などが多い現代ですから、きものでも第一礼装より準礼装のよそおいのほうが増えています。いえ、もっといえば「きものを着ない」シーンのほうが多くなって、呉服業界はただいまたいへんな状況となっているそうです。
ともかく、もろもろの発端となる第一礼装についてから、話をはじめたいと思います。


[第一礼装]
結婚式といっても、自分が「主催者側」か「招かれる側」かによって着るものが違うのは、皆さんご存じのとおりです。たとえば「結婚式の親族として出席するような身内」=「主催者側」というのは、一番あらたまらなくてはいけませんから「第一礼装」のきものを着用します。

第一礼装のきものとは、簡単にいえば「黒いきもの」です。黒留袖ですね(第一礼装のきものとして着る色留袖は後述します。喪服については、日を改めて別項でお話ししたいと思います)。
意外に黒留袖の歴史は浅く、明治時代に既婚女性の式服とする習慣が広まったといわれています。

黒留袖に合わせる帯は昭和初期頃までは丸帯でしたが、今は袋帯が全盛で、礼装用としては西陣織の唐織や錦織、佐賀錦などがよく使われます。

また、黒留袖はもっともあらたまったきものですから、昔は下着を2枚重ねていました。こう書くだけで、重そうだし暑そうにも思われますが、それの名残で、留袖は比翼(ひよく)仕立てでつくられます。比翼仕立てとは、本襲のように下着を重ねて見える工夫をしたものを指します。


[第一礼装の紋付きの数]
黒留袖は、五つ紋付きで裾模様があります。背中にひとつと両袖の後ろ2つ、表側の胸に2つ、計5つの染め抜きのはっきりとした家紋(「定紋(じょうもん)」ともいいます)をつけ、上半身は無地ですが、腰下から裾にかけて、友禅や刺繍などでおめでたい柄を表します。

ところで、黒い色のきものであることが第一礼装の筆頭にあげられる最重要約束というわけではありません。
ポイントは「紋の数」です。紋がいくつあるかが礼装時の要点になるでしょう。

最上が「五つ紋付き」で、その次のランクは「三つ紋付き」、そして「一つ紋付き」という風に、カジュアルになるほど紋の数が減っていきます。ちなみに「四つ紋付き」とか「二つ紋付き」というものは存在しません。

「三つ紋付き」は、背中にひとつと両袖の後ろに2つにつけたもの。「一つ紋付き」は、背中にひとつだけ家紋をつけたものです。

じつは家紋の表現は、数の多い少ないだけでなく、表現方法が白っぽいか(明るく染め抜いているか=日向紋)、白っぽくないか(染め抜きでもカゲの多い表し方か=中陰紋や陰紋、もしくは縫い紋)によって、あらたまり度のランクが異なります。

黒留袖には、紋のあらたまり度でも最上のランクである「染め抜き日向紋」で五つ紋をつけるのが慣例となっています。


[色留袖は黒留袖と同格だけど……]
さて、黒地の黒留袖の地色を有色にしたものが「色留袖」です。黒留袖と違って地色に色彩がありますから、男性が黒い式服を着ている中にあっては、はなやかさをもたらしますので、祝賀感を演出するものといってよいでしょう。

たとえば昨日なども、叙勲のニュースがありましたね。
奥さまがご主人とともに宮中に行かれる場合、またそういう祝賀会に招待された場合なども、五つ紋付きの色留袖がふさわしいとされています。よくテレビなどで奥さまたちのきものを注意して見ていると、そういうよそおいをされています。

色留袖の五つ紋付は、黒留袖と基本的に同格です。ただ、慣例として5つまで紋をつけずに、色留袖には三つ紋(ただし、黒留袖と同様に比翼仕立てにする)をつける場合が多いようです。

ところが色留袖というのは、なかなか不思議なきもののひとつといってよいかもしれません。

「色留袖で、一つ紋付きの普通仕立てにすると、もっと気軽に着られますよ」と何気なくいわれる呉服屋さんがおられますが、もし手持ちのきもののなかに訪問着をお持ちでしたら、わたくしは色留袖の一つ紋付きというものは、さほど有効に使えないような気がします。

「留袖は儀式用の式服」ですから、複数紋(5つか3つか)で、比翼仕立てがセオリーです。主催者側(親族)の席に座る場合は、式服の約束が守られてほしいもの。
ところが、色留袖を先の呉服屋さんがいうように「一つ紋付き」の「普通仕立て」にしたら「訪問着」扱いとなって、準礼装のTPOで着ることになります。これは「お客さまとして招かれる側のきもの」となりますね。

準礼装の訪問着と留袖類(黒留袖・色留袖)は別のステージにあるものと考えて、儀式には複数紋の比翼仕立ての正式なものを着るほうが、理に適います。
ちなみに招かれる客が、五つ紋付の黒留袖を着て宴に出席するのは、当然のことながら遠慮します。


[未婚女性の第一礼装とは]
未婚女性の第一礼装となるきものは、「色留袖」の五つ紋付でしょう。

未婚でも年代順に例を挙げてみます。
兄弟の結婚式に出席しなくてはいけない立場のとき、30代前半の未婚女性ならば、かろうじて「振り袖」をお召しになるのが自然のように思います。といっても、その方の雰囲気もありますよね。痛々しい感じにならない振り袖姿かどうかは、ご自身で判断するほかないのですけれど……。

30代も後半になれば「振り袖」が着にくくなるでしょうから、格調の高い吉祥文様の「訪問着」(訪問着の三つ紋付が格としてふさわしいように思いますが、レアケースのきものになって、以後使い道に困りそうな気もしますので、一つ紋付きの訪問着でもよいかと思います)に、なるべくかっちりとしたハレ用の袋帯を取り合わせるのはいかがでしょうか。

40代以上の未婚女性なら、色留袖の三つ紋、もしくは正式な五つ紋付をお召しになるとよいと思います。色留袖の五つ紋付なら黒留袖の五つ紋付と同格になりますので遜色がありませんし、とてもよい着姿となります。
50〜60代以上ともなれば、甥や姪の結婚式に出席する主賓側という立場に変わってくるでしょうが、色留袖の複数紋付き、比翼仕立てというきものがもっとも落ち着くような気がします。


[黒留袖の思い出]
ところで、わたくしは5人兄弟の長女ですので、4人の弟や妹たちの結婚式に親族として出席しました。
これ以降は、これから20年ほど先に、今度は親や伯母の立場として、息子をはじめ、甥や姪10人以上おりますので、結婚式が複数回あるでしょう。ま、かれらが結婚するかどうかは、その頃になってみないとわかりませんけれどね。

弟妹4人(弟2人+妹2人がおります)の結婚式は、わたくしが30代だった10年ほどの間に経験しました。わたくしはすでに結婚していましたから、既婚女性の第一礼装といえば黒留袖となります。
私が結婚した20代のときは、夫の姉がすでに結婚していたので、結婚した当初は黒留袖をつくっていませんでした。

実母は、弟妹たちの結婚式における私のよそおいについて「この歳で黒留袖を着るというのは、どうだろうか。まだ若いし、色留袖をつくろうか」と、ずいぶん悩んだものでした。でも結局、母は「やっぱり黒留袖にしましょう」とひと揃いを準備してくれました。

なぜなら、弟嫁たちが黒留袖を用意していたからでした。
義妹たちはそれぞれ実家から黒留袖を持って、植田家に嫁入りしてきましたので、自分のときはともかく、それ以後の機会では当然それらを着ることになります。親族のバランスとして、義妹が黒留袖を着るのに、義姉に当たる私が色留袖で三つ紋のきものだと「少し軽い」と、両親は判断したのでした。

わたくし自身は、実母の判断について、その頃はまったくわかりませんでしたから、いわれたものを身につけて式に出席しました。

はじめて、白の長襦袢を着て、黒留袖を着、ハレ用の袋帯を大きめに結び、祝儀扇を胸に差して婚礼に出席したところ、これまで一度も味わったことのない「非日常的な気分」となり、弟や妹の人生の節目を親族として迎える現場に立ち会っているんだ、という厳かな心情となりました。「気持ちが入る」のです。
洋服だったり、きものでも訪問着だったとしたら、姉として、このような気持ちになったかどうかはわかりません。


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4番目の弟の結婚式にて。左から父(モーニング)、私(黒留袖)、姪、妹(振り袖)、母(黒留袖)を着ています。式服のきものは東京に実物がないため、写真しかないのです。私は母が若い頃に締めた扇模様の袋帯を締めています。それにしても、この頃の私はずいぶんと茶髪ですね(>_<)。


儀式の式服とは、粛然とした気持ちにさせる何かがあります。そして、黒留袖はまんざら悪いものではありませんでした。
どういえばよいのでしょうか。責任あるオトナという感じがするきものだったのです。

現在、兄弟が少なくなり、結婚をされない方も増え、また結婚式が略式化の一途をたどって、ますます留袖を着る機会が少なっていますが、「せっかくチャンスがあるなら、留袖を着てみましょうよ」と、わたくしはおすすめしたいですね。
人生で数回、あるかなしかの機会なんですもの。貸衣裳であったとしても、実体験されてみることをおすすめします。

たぶん、家の流儀やさまざまな地方のしきたりによって、式服の判断基準は多少違ってくるでしょう。しかし、第一礼装の黒留袖、色留袖のきまりは、上記に述べたようなことが基本となってくるかと思います。

あ、そうでした! 若い未婚女性(10〜20代)の場合の第一礼装は「振り袖」です。今回、振り袖についてはまったく触れませんでしたが、また機会が訪れましたらお話をしたいと思います。

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話題の『美智子さまのお着物』朝日新聞出版編刊を買いました。美智子さまの礼装の数々など見どころ満載です。右=昭和30年代のセレブのお嬢さんだった美智子さまの古典的な振り袖姿、いまなお素敵です。



さて、次回は略礼装のお話を。略礼装として扱う、色留袖や訪問着、付下げ、色無地などの紋付きについて考えたいと思います。ではまた。






COMMENT
11月1日に長男の結婚式を終えたばかりですので
大変興味深く読ませていただきました。

チャペルでの挙式に、黒留袖は合わないと、ずっと
思っていました。
洋風で、ふさわしいものがあれば、とかんがえていたのですが、慣習は如何ともしがたく
実家の五つ紋の入った お決まりの格好で
列席しました。
義姉たちが 黒留袖姿で参列しましたので、
やっぱり、これしかないのかな〜と
あきらめています。

洋風化も 今が過渡期で、明治維新のように
チョンマゲに洋服みたいな・・・
二男の結婚式のときには、せめて、
シャレたアフタヌーンドレスとかで
写真に納まりたいです(ムリかなっ)
Posted by 源氏香 at 2009年11月05日 11:19
>源氏香さん

ご子息さまのご結婚、おめでとうございます。これまでお育てになったお子さまが自立し、新しい家庭をお持ちになるというのは、親としてなにより喜ばしいことかとご推察申し上げます。

さて、礼装とは本当にむずかしいものですね。
源氏香さんとおなじく、わたくしも一番下の妹(5番目)の挙式はチャペルでおこない、流行りのレストランウエディングというかたちで披露宴をしました。

チャペルに黒留袖群の参列は、場として違和感がある……という感想は、まったく同感です。
ただ、結局、わが親族はいろいろ相談した結果、黒留袖で臨みました。が、相手方のご親族は、あちらのお母さまをはじめ、新郎の妹さんやご親戚の方々は、洋服が主体でした。

相手方のお母さまは、いわゆる洋服の第一礼装であるアフタヌーンドレスをお召しでしたが、これもなかなかにむずかしそうにお見受けいたしました。

というのも、礼装のドレスを50〜60代の方が着るというのは、おそらく日常的な慣習がありませんから、正直なところ、黒留袖を着るよりも「さまになりにくい」と思われます。

若い頃と違って、体型もくずれる年代ですよね。よほど上等で縫製のよいドレスでないと、ちょっとしたよそゆきの服にしか見えないのです。
「洋服のアフタヌーンドレスが似合う人」って……ミラノのマダムみたいな迫力のある人ならよさそうなんですが……。

かといって、黒留袖軍団が教会の椅子に座っているのも、ちょっと異様な風景。

こういう洋式の結婚式できものを着るなら、わたくし個人的には、色留袖や訪問着などの「色のついたきもの」のほうが、見た目、おさまりがよいような気がいたしますが、いかがでしょうか。自分自身が源氏香さんのお立場(新郎母)ならどうするだろうか……と考えさせられるコメントをいただけて幸いでした。

おそらく世間では、色留袖よりは訪問着を持っている人のほうが多いでしょうから、親戚一同には「訪問着(できたら無紋ではなく紋のあるもの)にしませんか」と提案するのも手かもしれません。
ただ、新郎母の立場なら、その場合でも色留袖を着たいところですね。

源氏香さんが色留袖をお持ちでないようでしたら、ご次男さまの結婚式に備えて、今からご準備されてよいかもとも思われました。結婚式となればそれでなくとも物入りなので……そのときに、ご自身の色留袖をつくるのは大変なような気がするからです。

一番安く上がりますのは、もし本当のキリスト教徒でないのならですが、ご次男さまに「チャペル結婚式」ではない方向に、それとなく話を持っていくようにすれば、万事おさまろうかというものです。

「神社や仏閣での結婚式ってサイコーよ。あなたには羽織袴が似合うわよ……」と、日々啓蒙活動に努められますことを強くおすすめいたしますね。

いや、じつはこれ、わが身が実践しようかと思っていることなのです。わたくしにも息子がおりますので、他人事ではありません。
わたくしも、息子がそういう時を迎えるようになりましたら、四方八方、丸くおさめるために、そうしむけるつもりです。

ただ、子どもとは、親のいうなりに育たないのが世の常。うまくいくかどうかは、わたくし自身もわかりません。そこがツライところです。




Posted by 植田伊津子 at 2009年11月05日 21:46
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