from: 樺澤貴子
湿気を帯びた気温の高さが続く日が続きますね。昨日私はお茶のお稽古だったのですが、我慢しきれず単衣を解禁に。前回の佐藤さんの「背縫い破れ事件」の記事を読んで、着ていく予定の単衣御召を慌てて見返したら、居敷当てはなく羽二重の背伏せがつけられていました。佐藤さんの教訓をいかすべく(笑)、植田さんご指導の着付けのコツに気を配ってみました。「ふわっピタ」の加減、納得です。
私はどちらかというと、生真面目にピシッと着るのが好み。そういえば、以前熟年者に「あなたのきもの姿は堅いわね。きものと一緒に空気を着なくちゃ」と言われたことがあります。正座をしたまま様々な動きをする茶の湯仕草だけに限らず、空気を一緒に纏うということは、かえって着崩れを防ぎ、きものへの負担も軽減するのだなぁ、と改めて考えさせられました。
さて、ここから本題に。今日は、春単衣(※ルールでは6月に着用。現状は5月から単衣を着る機会が多い)と秋単衣(※ルールでは9月に着用。現状は10月もまだ単衣を着る機会が多い)、そして単衣帯についてお話させてください。私ごとですがお茶の稽古をはじめて3年目にして、やっと気合が入ってきたこの頃。お稽古やお茶会に行くのに、単衣の柔らかものが手薄なことに気付きました。正直、茶の湯の門をたたく以前は、単衣の柔らかものの必要性をあまり感じることもなかったのです。お点前が未熟で時々建水に袖を落としてしまう私には、洗えるきものが必要性だわっ!ということで「きもの英」さんへ伺い、若女将の武田佳保里さんにアドバイスをいただきました。
英は皆さんご存知のとおり化繊のきものを扱う洗えるきもの専門店です。繊細な生地選びや、オリジナルの色・柄のクオリティーの高さ、さらに独自の仕立てのノウハウを追及しており、正絹のきものに近い洗えるきものとして、特にお茶関連の人に多く支持されています。今回は英オリジナルのきものをベースにお話を伺いましたが、単衣の反物の選び方や春単衣・秋単衣を着分けるコツなどは、正絹(柔らかもの)に置き換えても同じ事がいえると思いますので、ぜひご参考にしてください。
1)単衣の素材の選び方(総論)
――まず、どんな素材が単衣用にふさわしいですか?
「単衣の素材は、楊柳のように単衣用として扱われているものが少ないため、袷用の素材とほぼ兼用といえます。それを踏まえたうえで、一番気を付けなければならポイントは、生地の裏を見ること。単衣の場合八掛をつけないため、裏が白っぽいと安っぽく見えてしまいます。表地同様にちゃんと染料が通っているものを選べば、裾の返りや袖口なども美しく見えます」


左:裏まで染料が通っていない反物(袷向き)。濃い地の反物ほど裏の白さが目立ちます。右:染めの技法の違いにより、裏までしっかりと染料が通っている反物。画面の右側が裏になります。
――なるほど、正絹の反物でも、型染めの反物などは裏の色が浅いものもありますよね。特に、型の緻密な江戸小紋は裏まで染料が届きにくいため、単衣に仕立てるときには裏からも型を置いて染料を「しごく」と聞いたことがあります。
「江戸小紋でしたら、英には表と裏とで色の異なる両面染めの江戸小紋というものもあります。これは、最初に地色(一色目)で型染めをしたあとに、上から同じ型をつかって差し色(二色目)をかけるという染め方です。裾の返りや袖口、袂から別の色がちらりと見える楽しみがあります。ちなみに、地色と差し色のどちらを表にするかは各々のお好み次第。ただ、両面で色が異なる場合、帯び合わせが少々難しいため、上級者向けの江戸小紋かもしれませんね」

地色をたまご色、差し色をサーモンピンクに染めた鮫小紋。
2)春単衣、秋単衣の選び方
――春単衣と秋単衣の決め手は、やはり色の印象が大きいでしょうか?ちなみに、私の場合は春単衣は暑さへ向かうためスッキリと見える寒色系の色を。秋単衣には柔らかな色目を中心に、まだ残暑が厳しい折ゆえに白をベースにした色やこっくりとした秋色をもってきます。
「私は色よりも素材が大切だと思います。というのも色はその方によって似合う色が違うため、一言で定義づけるのが難しいからです。それよりは、素材をうまく着分けることがお洒落に見えるのではないでしょうか」
――具体的に春単衣にはどんな素材が相応しいのでしょう?
「まず春単衣には、楊柳がおすすめです。ならば、楊柳は9月には着られないかというと、そんなことはないのですが、せいぜい9月の一桁の日にち(9日)まででしょう。それ以降になると、少し寒々しく見えてしまします。楊柳で気に入った染め柄が見つからず袷の反物から選ぶときにも、春単衣には素材の軽やかさやシャリ感などを重視して選ぶといいですね。また、透け感のよわい夏物も春単衣としてはおすすめです。英で<かわり竪絽>、<夏紬>として扱っているものは、ほとんど透けないため、春単衣から夏のきものとして長く楽しんでいただいています」

単衣として扱っている楊柳素材の付け下げ。グレーがかったドライなピンクが、上品かつ涼やかな印象です。


夏物として扱っている素材。左:楊柳のような生地にシボのあるかわり竪絽。横絽よりも透け感が目立ちません。右:夏紬
――夏ものを単衣として着る場合の留意点などはありますか?
「長襦袢にパッキリとした白ではなく、白をベースに淡い染め柄のあるものや、淡い地色のものを選ぶと透け感が気になりません。袖口からのぞく長襦袢に少し色が差してあることで、コントラストが弱まり、表地の表情も和らいで見えると思います」


左:緯糸にヨリをかけた楊柳のような絽の素材に墨流し染めをほどこした長襦袢。単衣〜夏に活躍する素材としておすすめとのこと。右:画面左の白の絽と比較すると違いがわかります。


左:パッキリとした白の絽の長襦袢を合わせた場合の袖口。右:ぼかし染めの楊柳のような絽の長襦袢を合わせた場合の袖口。
――秋単衣はいかがですか?
「例えば、地紋のある生地や縮緬でもシボの表情がほっこりと見える袷用の反物を、秋単衣としておすすめしています。また、秋単衣の場合はきものよりも、帯び合わせが重要だと思います。私の感覚では、絽の帯は9月の9日まで。それ以降には、少し寒々しく見えてしまいます。とくに帯の場合、季節を前倒しに装うことはあっても、過ぎた季節のものは野暮に見えてしまいます。10日を過ぎたころには袷の時季に締める染め帯びや織り名古屋帯、軽めな柄裄の袋帯なども合わせています」

英で緞子として扱っている付け下げ。生地にほどよい重みがあって、楊柳よりも季節の深まりを感じます。
3)単衣に合わせる帯
かなり長い原稿となってしまいましたが、もう少々のお付き合いを。最後に単衣の帯についてお話したいと思います。単衣の頃の帯に関しては、5月8日のブログに寄せられたコメントのなかで、植田さんがお答えしている内容がとてもわかりやすく、コメントを読まれていない方もいらっしゃると思うので抜粋させていただきます。
単衣に便利といわれている博多帯は「帯芯を入れないで仕立てる八寸帯」です。じつは、博多帯以外でも「織りの八寸帯」というものがあり、西陣などで製造されています。
ただこれは、製造者側が袋帯のように高値をつけられないので、あまりつくりたがらない背景があるため、製造数が少なくなっています。が、よく探せばときどきあります。これが単衣の帯として(というか袷の帯としても)、たいへん重宝します。
八寸の織りなごや帯は、縫い代なしの端かがりをしただけの構造で、二重太鼓をつくらないなごや帯ですから、博多帯同様、手軽で締めやすいものです。単衣にはもちろんのこと、袷の季節にも用いることができますので、一本お持ちになるととても便利です。
いっぽうで、袷の帯でも単衣に合わせてまったくおかしくありません。
ふつう単衣のきものに合わせる帯は以下のようにいわれています。
【春単衣】
6月前半→袷のきものに合わせる帯を用いる
6月後半→夏のきものに合わせる帯を用いる
【秋単衣】
9月前半→夏のきものに合わせる帯を用いる
9月後半→袷のきものに合わせる帯を用いる
ですから、「博多帯」や、先ほどわたくしが申し上げた「八寸織りなごや帯」がなくても、手持ちの袷の帯と夏帯でやりくりが可能です。とくに博多帯や八寸織りなごや帯は、建前からいうと「ふだん使いの帯」ですから、気張ったお出かけやフォーマル的な場所にはあまり好まれないものとされています。
(*質問内容が単衣の無地紬に合わせる帯の種類とあったため)
単衣の無地紬をもし気張ったお出かけに着用されるならば、時期によって「袷のきものに合わせる帯」「夏のきものに合わせる帯」を用いられたほうがよいでしょうね。袷用の帯でも、単衣に合わせるのは、やや涼しげで軽やかに見えるものがよさそうに思いますよ。生紬地の帯や櫛織などもよいんじゃないでしょうか。
これに少し付けたさせていただくなら、私は単衣の時季に便利な帯として綴れ織りの帯を加えたいと思います。博多帯同様、綴れ織りも帯芯を入れないで仕立てる八寸帯です。博多帯よりも格が高く、<よそゆき>にも活躍。銀綴れなら<大よそゆき>にも締められます。私の小唄のお師匠さんは赤坂の芸者さんだったのですが、「赤坂(の芸者衆の装い)では6月は綴れって決まっているのよ」と仰ります。実際に私も単衣の季節に愛用していますが、帯芯が入らない分だけ軽やか、きりりとした質感で緩みにくく締め心地は快適といえます。


左:霞の柄を織り出した綴れ帯。右:小唄のお師匠さんから譲り受けた付け帯の銀綴れ。
袷用の帯に関しても、素材や柄付けの重さといった要素が、春向きか秋向きかを判断する目安となると思います。例えば私の場合、染め帯なら塩瀬のさらりとした質感は春単衣に、ほっこりとした縮緬素材は秋単衣に合わせます。1ヶ月のなかで夏用と袷用の要素が共存する単衣の時季は、衣更えの明確な定義づけが難しいといえます。半衿や帯揚げなどの小物類、長襦袢などの要素、さらにTPOまで考え合わせると、とても複雑なマトリックスに。でも、迷った場合には、自分の温度調節は見えない部分で行い、その場に居合わせる人にどのように映るかという周りとの調和を重んじることが大切ではないでしょうか。
単衣談義も3人なりのベクトルが交錯しましたが、そろそろ今月のもうひとつのテーマであるお手入れの話にも触れたいところです。おふたかたは、日頃のお手入れをどのようになさっていますか?
実際、着なれた方々のお話しは、本などより細かく実践的で大変参考になります!気付かなかった事も読んで、そうそう!こうゆう事が知りたかった!って感じで凄く判りやすいです。
長いと言うコメントもお有りの様ですが、既に知ってるからなんですかね?私は興味深く読ませて頂いてます。
これからも着物ライフに役立つ実体験に元づいたお話を楽しみにしております!
コメントをいただきまして、ありがとうございました。
確かに今回は凄く長文になってしまいました・・・。すみません。まだまだお伝えしたいことは山ほどあるのですが、できるだけ読みやすいように書かせていただきますので!
これからも、ぜひご覧いただければ幸いです!
私は長文でも色々と詳しく書いていて下さった方が嬉しいです。ここまで詳しく色々を書いている書籍も無いと思いますし、自分のレベルや関心に合わせて読む事ができると思いますので…。
今回の単衣考も参考にさせていただきます!
詳細な着物ネタは凄く有り難いので、無理に短くしたり、はしょってくれない方が私は嬉しいです!
けど色んな方がいらっしゃるでしょうから、書かれる方は大変ですね、頑張って下さいませ!
励ましのフォローをいただきましてありがとうございます(笑)。私たちも七転八倒しながら、自分たちの「快適」や「美意識」を探している最中です。この、「快適」というのは、実は着すがたの美しさに直結していると、中谷比佐子先生が仰っているのを読んだことがありますが、まさにそのとおりだと思います。「お洒落」という感覚は人によって違うかもしれませんが、「快適」ということは意外に共通するものだと思います。そのサンプル情報のひとつとして読んでいただければと思います♪
以前は着物着る機会があったのですが、病気してからは、特に夏物がご無沙汰がちです。
明日 着ることになり単衣に合わせる帯に困りましたが、良く分かりました。有難う御座います。又宜しくお願い致します。
プロのご助言をお願い致します。
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