date: 2010年12月06日

subject: 民藝を、今らしく

from: 佐藤文絵



こんばんは。みなさまたいへんご無沙汰しております。なんと二月も空けてしまいました...。定期的に訪問してくださっている方々もおられるのに、本当にごめんなさい。
季節はめぐり、はや12月。でも今日など昼間はぽかぽか陽気で、京都御所に寄ってみたら、まだ真っ赤な紅葉がみられました。

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さて、今日はコーディネートのお話をひとつ。
ちょうど半月ほど前、東京の一衣舎さんの「秋展」が京都でひらかれました。昨年に続いて私もお手伝いさせていただいており、会期中にあったエピソードを紹介したいと思います。

ある日、友人が古い着物を手に訪ねてきてくれました。それは彼女のおばあさまが着ていた郡上紬で、おばあさまが一番よく袖を通した着物なのだそうです。その名がまだ世に知られる前、故宗廣力三氏と何度もやりとりをしながら織ってもらったものとのこと。背が高く手も長い友人ですが、なんとかこの着物を着たいと木村さんと相談をしていました。

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写真があまり上手でないのですが、じつは玉虫色で、角度によりグリーンがかった色が現れます。きれいな玉虫色が出るように、何度か試し織りをしたうえで織っていただいたそうです。
郡上紬と故宗廣力三氏については、郡上市の呉服店「たにざわ」さんのウェブサイトに詳しく書かれています。関心のある方はこちらのページをご覧になってください。



胴継ぎのこと、そして採寸などひととおり相談が終わったところで、どんな帯と合わせたらいいかしらね?なんて話になりました。織り味たっぷりで魅力的だけど、すっきり素敵に着こなすのはちょっと難しいかもしれません。彼女もどんなふうに着たらよいのか、どんな帯を合わせたらいいのか、イメージができていない様子。

そこで、偶然居合わせた郡上紬が大好きだという妙齢の着物巧者“Sさん”を中心に、コーディネイト講座がはじまりました。きもの好きの女たちが集まって、あれやこれやと帯を乗せて。こんなに楽しい時間ってありません。

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Sさんのお見立てで、皆が納得したコーディネートがこちら。すてきでしょ。さて帯揚はどんな色がいいかしら。玉虫色のうすいグリーン、あるいは帯のなかにあるような茶に似た色、もしくはそれをちょっと外した茶色とか...。芥子色なんかもいいかも。


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帯はReisia/藤井礼子さんがプロデュースする手描きの更紗です。花の動きがとっても伸びやか。そして思わずしばらく見入ってしまうような細かい仕事。ざっくりとした生地も力があって魅力的です。


野趣のある紬は、ちょっと間違えれば、すぐに野暮ったくなってしまうもの。これはとってもお洒落な組み合わせ!友人も私も興奮してしまいました。みなさまはいかが思われるでしょう。

そしてもう一枚。洗い張り済みのこの反物もおそらく古い郡上紬のようです。これはさらに難敵なきものですよね。う〜ん、むずかしそう。着られるのかな!? 正直私はそう感じたけれど……。

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思い切った配色ですよね。いわば色の三原色。胴裏は時代を反映してやはり紅絹。


なるほど!の帯合わせがこちら。
きものとはあえてトーンを外したワイン色が乗ったとたんに、がらりと印象が変わりました。ぱっと華やかさが生まれたと思います。すてき!

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紅絹をそのまま使うのは避け、同色系、紺あたりの八掛にするのがよさそうです。Sさん曰く、八掛の色は無難に共色を選んでおいたほうが帯合わせが自由にできるので便利、とのこと。私もまったく同意。ただ共色とはいえ、沈んだ色と明るめの色とがありますね。そのへんは年代に合わせて調整するとよいのでは、とのアドバイスも。



個性の強いきものはつい避けてしまうのですが、これぞという相手がみつかると、無難なきものにはない力を発揮するんだなあと膝をうった私です。

ちなみに私が期間中に着ていたきものはKIMONO真楽の日記に載せてます。“アゲアゲ好き”、ということを自覚した四日間でもありました。笑。

date: 2010年09月30日

subject: 3つの季節が入り混じった長月きもの

from: 樺澤貴子



皆さま大変ご無沙汰をしております。「猛暑はいつまで続くの」と思いきや、あっという間に秋を迎え、洋服の衣替えもままならないこの頃です。9月はきものを着る機会が多く、今日はそれを振り返る形でお話をしたいと思います。本当は、もっとリアルタイムでお伝えできればよかったのですが、まとめての形となってしまいすみません。少し記憶を巻き戻して、残暑厳しい月初めを思い出しながら読んでいただければと思います。

■9月初旬
月頭は真夏日と変わらぬ暑さの只中にあったため、とても単衣に袖を通すことができませんでした。かといって、涼やかな印象の夏きものを纏うには違和感がある。そこで、活躍したのが濃地の無地感覚のきものです。深い色味に、夏と秋のつなぎ目のような暮れ行く風情を込めました。無地感覚を選んだ理由は、夏ものを9月に着るわけですから、いかにも涼感のある具象柄が描かれていないことがポイントとなるからです。

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左:銀糸が織り込まれている葡萄色の駒絽。渦巻き模様が描かれた付下げなのですが、抽象的な印象の図柄でもあるので、それほど夏らしさを感じさせません(と、都合よく解釈)。この日は歌舞伎鑑賞だったため、七宝葵の袋帯を締めました。歌舞伎は新橋演舞場の初日だったこともあり、きもの姿の方も多かったのですが、8割がたは夏もの。歌舞伎役者の奥様連はさすが単衣のきものをキリリと着こなしていらっしゃいました。
右:ほとんど黒に近い濃紺の紗のきもの。燕文が織り出されているのですがワントーンのため、柄の存在感はほとんどありません。銀座で食事会だったのでカモメの刺繍をほどこしたアンティークの洒落袋でクラシカル・モダンな雰囲気に。


■9月中旬
9月10日を過ぎると、さすがに夏ものを着ることに違和感があったため、決死の覚悟で単衣を着ました。ただし、30度を超える気温ゆえに長襦袢を着る気にはなれず、うそつき襦袢で体温調整を。この日は大島紬の織り手の方々との食事会。残念ながら単衣の大島紬を持っていないため、私の中で秋単衣として重宝している叔母譲りの紬をチョイス。

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叔母譲りの生成り色の絣柄の紬。絣柄のきものは、それ自体がほっこりとした印象。ただ、当日は本当に暑かったため、全体的にきっぱりとした着こなしを目指して木綿の型染めの帯を合わせました。この帯は、私のワードローブの多くをしめている「うちだ」の十六夜展で求めたもの。見た瞬間に、多彩な色遣いで複雑な織り柄を表現するミッソーニのニット製品とリンクし一目惚れ。茶系やピンク、グリーンから黄色やグレーなど・・・・・・様々な帯締めを受けとめてくれる包容力があり、コーディネートの想像力が膨らむ帯でもあります。この日は、きりりとした納戸色の帯締めでクールにまとめました。


■9月下旬
ようやく、きものを着ていても汗ばまない気候に落ち着いたと思ったのもつかの間。10月を飛び越えて、11月初旬の気温と発表されるほど一気に肌寒い日が続きました。そこで、きものはルールどおり単衣を選びましたが、帯や小物をはじめ、肌襦袢を晒しからガーゼ素材に、長襦袢も袷のものへとシフト。実際はどれほど温かさを確保できるものでもありませんが、皮膚感覚の違いとでもいいましょうか。下旬に纏ったコーディネートは、意識したわけではないのですが、どちらの装いも暖色系にまとまりました。

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きもの英で誂えた裾濃の付下げに、お月見の季節限定の帯を合わせて。帯締めにお月様の色を、ひと差し。


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9月最後のお茶のお稽古へは、単衣の江戸小紋で。「帯は先取り」という意識があるので、さらりとした白の塩瀬地の染め帯を合わせました。肌寒い日だったため、暖色系の小物で目に映る温かみを添えて。



こうして振り返ってみると、9月は夏もの、単衣、袷のものと3つの季節のアイテムが入り混じるきもの暦となりました。異常気象の影響で、ルールどおりの組み合わせができない昨今、コーディネートをしながらやや不安な気持ちになります。明日はもう10月、迷うことなく袷にシフトできます。この秋はきものを着ていくお出かけが目白押し。来月はもう少しこまめにレポートさせていただきます(反省)。

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最後にお知らせを。コーディネートにも登場した「うちだ」の十六夜展が10月8日〜10まで、浅草橋のルーサイトギャラリーで行われます。私は8日(金)に行く予定ですが、皆様よろしければ足をお運びください。

date: 2010年08月26日

subject: 涼しくきものを着るアイデア

from: 植田伊津子


暑い! 毎年ならお盆を過ぎると、夕方からは涼風がただよってホッとひと息つく日々になるように記憶していましたが、今年は暑さがおさまる気配がなく、体にこたえる毎日です。

さすがのわたくしも少しばかりほっそりしました(^_-)。暑さが一段落したら、食欲がぶり返しそうで怖いですね。

そんななかきものを着るのは、もはや精神修行といえるもので、気合いの呪文でもとなえませんことには、外出もままなりません。イヤ呪文をとなえましても、根性無しのわたくしはつらいのです。
きもの業界は真剣に「地球温暖化STOP」活動に取り組むべきと感じています。そして、天然素材もふくめた最先端素材も検討しつつ、COOL(吸湿発汗性にすぐれたもの)肌着やきものの開発をしていかなくては、きものを着る方の減少に歯止めがかからないように思うのですが……。

さて、きものを着る機会が他の方よりも多いと思われるわたくし。「汗を防止するには?」「夏の間はどんな肌着を使っていますか?」と聞かれることがしばしばです。
今日は、わたくしをはじめ、いろんなところでうかがったきものマニアの皆さんの「涼しくきものを着るアイデア」について、ご紹介したいと思います。

【着付けの前の冷シャワー】
暑がりのわたくしの場合、部屋に冷房をきつめにかけておくのはもちろん、着用前に冷たいシャワーを浴びるのが有効だったりします。

発熱したときに身体をすぐに冷やすのは、太い動脈が集まる部分(脇の下、首筋、太ももの付け根)に保冷剤などを当てるのがよいと言われています。冷えた血液が全身をまわれば、体温が下がるからなんですね。ですからそれらの箇所中心に冷たい水を当てます。
浴場から出たら、冷蔵庫の冷たい麦茶を一杯。ガブガブ飲むとお腹をいためますので、一杯だけで充分。これで身体の準備ができました。ようやく着付けスタート!

【夏の肌着】
昨年8月の「肌着・長襦袢」のテーマでもお話ししましたが、わたくしの汗対策はあしべ織汗取りに頼っています。

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本来はあしべ織汗取り→肌襦袢→長襦袢の順に着るものなのでしょうが、私はあしべ織汗取りをつけたら、いきなり長襦袢となりますね。(その場合、裾除けはつけず、綿楊柳のステテコを用います)。


先日、実家に帰ったときに母と肌襦袢談義となりました。母はわたくし以上の暑がりで、あしべ織汗取りをつけると暑くてたまらないといいます。
「やはり夏の肌襦袢は麻に限るわね」という母。
「けれど、麻の肌襦袢→長襦袢→きものだと、きものの背中がすごく濡れない? わたしなんか、9寸絽の帯芯に輪ジミができるほど帯まで濡れるわよ。やわらかものはすぐお手入れに出さなければいけないわ」
「そうねえ。絹は縮んだりシミもできるから困るわね……だから(ボソッ。小声で→)夏は麻しか着ない……」
「茶人なのに、それでええんかいな!(笑)」

あしべ織汗取りを着てやわらかものを着る娘に、麻の肌襦袢と麻長襦袢で麻のきものしか着ないという母。ま、いろいろ好みがあって当然ですが、2人の会話はまだ続きます。

「麻の楊柳の肌襦袢は、糊付けをした布のようなサラサラ感だから快適なのはわかるけれど、私はこれを着ると痛くなったことがあって、それ以来着ないわねえ」とわたくし。
「買ったばかりの麻襦袢って『麻負け』するのよ。それはわかるわ。ちょっと堅くてゴワゴワするものね。だから私は何度も洗って、やわらかーくしたものを着るの。10年以上洗って、破れる寸前ぐらいの薄くなったのが具合がいいわね。お父さんの昔の肌着みたいなの」
「(笑)なるほどねえ」

その話を先日、楽艸の店主・高橋由貴子さんに話したところ、「肌が丈夫そうな植田さんだと思いましたが、やわらかめの本麻肌襦袢も売っているんですよ」とのこと。なるほど、わたくしのリサーチ不足なのでしょう。
本麻肌襦袢をこれから購入するなら、店頭でなるべくアタリのソフトなものを探すのがよさそう。

【冷えピタ&保冷剤作戦】
高橋さんをはじめ、他のきものマニアの方に教えていただいたのは、冷えピタ&保冷剤の活用。

「いくつかの保冷剤をひとまとまりにし、帯枕として使う」
「背中とお尻の間の補整をするタオルの間に、保冷剤を2つほど挟んでおくと涼しい」
「肌襦袢を着る前に熱冷まし用の『冷えピタ』を直接お腹に貼る」

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大人のボティ用の冷えピタ(ライオン)。6時間の冷却効果があるのだそう。


うーむ。皆さんいろいろ工夫をされているんですね。
今夏は清涼スプレー、冷感スプレーなるものが話題だそうで、下着などにシュッと一吹きすると体感温度が2度下がるといったグッズがあるそうです。また、「熱中ガード ぬる アイスノン」を身体に塗っておくという人もおられました。

すごい! 世の中進んでいます。

とりあえず、教えてもらった冷えピタ&保冷剤作戦をわたくしも実行してみました。
冷えピタを冷蔵庫でよく冷やしておいて、おなかにペタッ。冷たーい。効果絶大です。
そしてカチンコチンに凍らせた保冷剤を3つほどを手ぬぐいに包んで、補整として背中と腰の上あたりに当てました。

さて、それらをつけて一日外出をしてみたところの正直な感想はといえば……。
冷たい効果は1〜2時間ぐらいですかね。冷えピタは外出してしばらく、汗をかきはじめたら、貼っていることを忘れるぐらいになりました。
保冷剤はもう少し長持ちしましたけれど、ゲルが溶けたら効果がなくなりました。

当然といえば当然の結果ですが、それでも炎天下の中、2時間ほどの外出で済むのなら、試してみる価値はありそうです。今度は清涼スプレーにチャレンジしてみたいと思います。


ところで、それにしても、今日は挿図写真がほとんどありませんでした。すみません(>_<)。
そこで、先日、お目にかかったきもの美人2人の姿をご紹介しておきたいと思います。

女優の西田尚美さん↓(詳細はこちらのブログ参照)

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暑い最中、宮古上布をまとった西田さん。新里玲子さん作。宮古上布とは、沖縄の宮古島の織物。経糸緯糸ともに苧麻の手績み糸を用います。宮古上布の強靱にして弾力を持つ特性は、この手績みという手法に秘密にあるんですね。


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帯は同じく、宮古上布の中曽根みち子さん作。夏にはあっさりした柄を身につけたいもの。楽艸さんで誂えられた夏用草履とともに。


もうひとりは、きもの*BASICルールの仲間、樺澤貴子さん。とある8月の一日、ランチをご一緒したときの装いです。銀座の街角から歩いていらした姿を見たときに、あんまりステキで、わたくしはドキドキしてしまいました。

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たて縞のように見える畝が特徴的な絹紅梅。絹紅梅とは、絹地のなかに太めの綿糸が規則的に走って「骨」のような構造をしている着尺。綿紅梅にくらべると、地がもうひとつ薄いので、エレガントさがあります。絹紅梅は、夏きものの簡易なポジションとしてさりげなく着用しやすいですね。


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帯は、お身内から頂戴したという紗の9寸なごや。動的な楓と橋のモチーフが洒落ています。バッグは夏限定で使われているというドルチェ&ガッバーナ。白エナメルを編み目のように抜いた細工が目を惹きました。


さて、その樺澤さんがスタッフとしておおいに関わったという『きものsalon』(世界文化社刊)が、リニューアルを経て、先週発刊の運びとなりました。
わたくしも早速購入。

小説家の林真理子さんのきもの遍歴を紹介する企画では、多くの頁を割いてていねいに構成されており、見応え読み応えがありました。また、新世代の方々のリアルなきもの事情や、きものにも洋服にも似合うブランド名品図鑑など、幅広いテーマが楽しい!


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